形状記憶合金/素材の研究開発動向:論文とグラントから見える過去、現在、未来

2024年5月16日(木)16時16分 PR TIMES

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、形状記憶合金/素材に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

[画像1: https://prtimes.jp/i/7141/514/resize/d7141-514-7693e4b5746fb2802fa2-0.jpg ]

形状記憶合金/素材とは?
形状記憶素材とは、元の形状を「記憶」し、適切な刺激(通常は熱)に晒されると、元の形状に戻ることができる材料のことです。この特性は形状記憶効果として知られています。形状記憶素材は大きく分けて以下の2種類です。
形状記憶合金
加熱すると変形前の形状に戻る金属。最も有名な形状記憶合金はニチノールと呼ばれ、ニッケルとチタンの合金。

形状記憶ポリマー
形状記憶合金と同様の形状記憶効果を示すが、通常、活性化に必要なエネルギーは形状記憶合金と比べると小さい。温度、光、磁場など、様々な刺激に反応するように設計することも可能。


形状記憶材料は、周囲の環境に合わせて形状を変形させる能力を有するため、医療機器、ロボット機器、航空・宇宙機器や自動車の部品など、様々な用途に利用されています。

形状記憶合金/素材の歴史
形状記憶効果が初めて観測されたのは1932年のことです。スウェーデンの科学者アルネ・オランダーは、低温で変形させた金とカドミウムの合金が加熱すると元の形状に戻ることに注目しました。

1959年には、アメリカ海軍兵器研究所所属の科学者ウィリアム・ビューラーとフレデリック・ワンが、ニッケルとチタンの合金であるニチノールを発見しました。1970年代には、ニチノールやその他の形状記憶合金の商業的開発が始まります。これらの材料は、歯列矯正ワイヤーや眼鏡フレームなど、様々な用途に利用され始めました。
1980年代には、合金よりも安価で加工しやすく、より幅広い刺激(熱、光、磁場など)で活性化できる形状記憶ポリマーの研究が拡大しました。2000年代には、形状記憶ポリマーの汎用性と適応性を活かした、メディカル用途や自動車の部品としての可能性が示唆されました。

最近の研究では、応答時間、耐疲労性、形状記憶効果を引き起こすのに必要な刺激の精度を向上させるなど、形状記憶素材の特性を高めることに焦点が当てられています。今もなお、自己修復能力を有する航空・宇宙機器やマイクロロボティクス用途など、新しい分野での応用も模索されています。

形状記憶合金/素材の市場規模
様々な用途に利用されている形状記憶合金/素材の市場規模が決して小さくありません。実際、2020年の時点では、形状記憶合金の世界市場規模は約80億ドルと推定され、2021年から2027年にかけて、年平均成長率7%で成長することが予測されています(注1)。

(注1)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003021.000067400.html

一部の文献では、2035年までに形状記憶合金の世界市場規模は約470億米ドルに達するとも予測されています(注2)。

(注2)https://presswalker.jp/press/19963

更に、2023年時点では、形状記憶ポリマーの世界市場規模は約6億ドルと推定され、2024年から2036年にかけて、年平均成長率21.5%で成長することが予測されています(注3)。つまり、形状記憶ポリマーの世界市場規模は2036年には約60億ドルに達する見込みです。

(注3) https://www.sdki.jp/reports/shape-memory-polymer-market/112198

形状記憶合金/素材の主な用途
形状記憶合金/素材の用途として、以下の3つの領域が注目されています。
メディカル領域
目的を果たすと安全に分解されるインプラントやデバイスとして使用することができる生分解性形状記憶ポリマーや標的部位に制御された速度で薬剤を放出することができる薬物送達用の形状記憶素材が開発されています。

ロボティクス領域
安全性と柔軟性が高く、複雑な動きを可能にするロボット用の形状記憶ポリマーが開発されています。

航空・宇宙・モビリティ領域
航空・宇宙産業や自動車産業では、形状記憶素材が自己修復構造の作成に使用されています。また、自動車や航空機の性能と燃費を最適化するために空力特性をリアルタイムで調整する適応部品への応用も検討されています。


本レポートでは、形状記憶合金/素材×(メディカル領域、ロボティクス領域、航空・宇宙・モビリティ領域)の現在の取り組みについて、弊社のデータベースを活用し、論文とグラントから対象技術の分析を実施し、その結果を紹介します。

形状記憶合金/素材の研究開発動向
アスタミューゼ株式会社では、文献に含まれる特徴的なキーワードの年次推移を抽出することで近年伸びている技術を特定する「未来推定」という分析を行っており、萌芽的な分野の予測をしています。キーワードの変遷をたどることで、既にブームが去っている技術やこれから脚光を浴びると推測される技術を可視化することができ、この分析により、技術の社会実装の時期やこれから発展する技術の予想が可能です。

メディカル領域
形状記憶合金/素材×メディカル領域の全体動向を把握するために、2012年から2022年までの論文件数とグラント配賦額の年次遷移を図1に示します。グラント配賦額はプロジェクト期間で均等割りにして、各年に再配分した値で集計しています。例えば、配賦額が3万ドルで実施期間が3年の場合、各年に1万ドルを計上しています。ただし、中国はグラントの開示状況が年によって大きく異なり、実態を反映しているとは言えないため、集計からは除いています。
[画像2: https://prtimes.jp/i/7141/514/resize/d7141-514-34773a6a7116b994023d-1.png ]

図1から、グラントの配賦額には明確な増加傾向が見られないことがわかります。むしろ、2016年〜2018年に一時的なピークをむかえたと言えるでしょう。一方、論文の件数はゆるやかな増加傾向を示しています。2022年の件数は2012年の件数の約2倍となっています。これは、グラントを通じた資金投資が時間差で論文として成果を挙げていると解釈することも可能です。

次に、明確な増加傾向を示す論文に関してキーワードの変遷をたどります。図2は2012年から2022年までの論文のタイトルや概要に含まれているキーワードの年次推移を示します。成長率(Growth)とは、2012年から2022年までのキーワードの出現回数と、2018年から2022年までのキーワードの出現回数割合を示し、数値が1に近いほど直近で出現している頻度が高いと解釈します。
[画像3: https://prtimes.jp/i/7141/514/resize/d7141-514-18462cb49b27fcfae17e-2.png ]

図2から、「ti-18zr-15nb」、「ti-zr-nb-sn」、「ti-zr-nb」などの生体適合性を示す具体的な物質名のキーワードや「aqueductal(stenoses)」、「ventriculoamniotic」、「neurovascular」、「orthotics」、「coronary(stents)」などの具体的なメディカル領域の応用先のキーワードが見受けられ、材料特性の向上に関する論文や新たな応用を模索する論文が今も出版されていることが分かります。このことから、決して新しくはない形状記憶合金/素材×メディカル領域は現在進行形で精力的に研究されている分野であることが明らかです。

最後に、形状記憶合金/素材×メディカル領域において現在も資金調達を継続しているスタートアップ企業を紹介します。
Shape Memory Medical
https://www.shapemem.com/

所在国/創業年:アメリカ/2009年

累計資金調達額:約5千万ドル

事業概要:テキサスA&M大学とローレンス・リバモア国立研究所で開発された形状記憶ポリマーを応用した医療機器を商品化するために設立。末梢血管や心臓血管治療に向けた製品開発に専念。




ロボティクス領域
形状記憶合金/素材×メディカル領域と同様に、形状記憶合金/素材×ロボティクス領域の全体の動向を把握するため、2012年から2022年までの論文件数とグラント配賦額の年次遷移を図3に示します。
[画像4: https://prtimes.jp/i/7141/514/resize/d7141-514-34645a5bf674ab9981cf-3.png ]

図3から、2017年〜2018年の時期を境に、グラントの配賦額は増加傾向から停滞傾向に転じていることが明らかです。一方で、論文の件数は明確な増加傾向を示しています。2022年の件数は2012年の件数の約2.7倍となっています。形状記憶合金/素材×メディカル領域と同様に、グラントを通じた資金投資が時間差で論文として成果を挙げていると解釈することが可能です。

次に、明確な増加傾向を示す論文に関してキーワードの変遷をたどります。図4は2012年から2022年までの論文のタイトルや概要に含まれているキーワードの年次推移を示します。
[画像5: https://prtimes.jp/i/7141/514/resize/d7141-514-a5d7ca845c750f1ffb31-4.png ]

図4から、「snake-like」、「noiseless」、「untethered」などのロボットの具体的な性質を記述するキーワードや「artery」、「(vascular)occlusion」、「stent」、「stylet」などの具体的なメディカル領域の応用先のキーワードが見受けられ、ロボットを医療機器として用いる方法を模索する論文が顕著です。ここから、形状記憶合金/素材×ロボティクス領域がメディカル領域と非常に深い関係にあることが分かります。

形状記憶合金/素材×メディカル領域と同様に、ロボティクス領域における資金調達額が上位のスタートアップ企業を紹介します。
memetis
https://www.memetis.com/de/

所在国/創業年:ドイツ/2016年

累計資金調達額:約8万ドル

事業概要:カールスルーエ工科大学(KIT)のスピンオフ企業であり、様々な産業向けに形状記憶合金を用いたマイクロアクチュエータを提供。




航空・宇宙・モビリティ領域
形状記憶合金/素材×メディカル領域やロボティクス領域と同様に、形状記憶合金/素材×航空・宇宙・モビリティ領域の動向を把握するために、2012年から2022年までの論文件数とグラント配賦額の年次遷移を図5に示します。
[画像6: https://prtimes.jp/i/7141/514/resize/d7141-514-b4a2f5a48bd825ef6e71-5.png ]

図5から、論文件数やグラント配賦額は緩やかな増加傾向を示していることが分かります。特に、論文件数は、2022年は2012年の約2.5倍となっています。これは、グラントを通じた継続的な資金投資が論文として成果を挙げていると解釈するのが自然です。

次に、明確な増加傾向を示す論文に関するキーワードの変遷をたどります。図6は2012年から2022年までの論文のタイトルや概要に含まれているキーワードの年次推移を示します。
[画像7: https://prtimes.jp/i/7141/514/resize/d7141-514-50c6b5b9a2a0f4932a5b-6.png ]

図6から、「nitinb」、「ni-ti-hf」、「nitihf」、「nitinol」などの形状記憶合金の具体的な物質名のキーワードや「spacecraft」や「wires」などの航空・宇宙・モビリティ領域に関わる一般的なキーワードが見受けられ、航空・宇宙・モビリティ領域は社会実装からは未だに遠いと解釈することができます。しかし、論文の件数とグラントの配賦額が順調に増加していることを踏まえると、今後の成果は十分に期待できます。

形状記憶合金/素材×航空・宇宙・モビリティ領域に関する、資金調達額が上位のスタートアップ企業を紹介します。
Spintech
https://www.spintechinc.com/

所在国/創業年:アメリカ/2010年

累計資金調達額:約5百万ドル

事業概要:航空・宇宙、モビリティ、防衛、エネルギー、消費者市場における複合材料製造と構造補修のために、画期的な形状記憶ポリマー技術を提供。




これからの形状記憶合金/素材
形状記憶合金/素材×3領域(メディカル領域、ロボティクス領域、航空・宇宙・モビリティ領域)の現状の取り組みについて、弊社のデータベースを活用し、論文とグラントから対象技術の分析を実施し、その結果を紹介しました。

包括的に把握するため、3領域それぞれの、2012年を1とした場合のグラント配賦額(図7)と論文件数(図8)の年次遷移を示します。

[画像8: https://prtimes.jp/i/7141/514/resize/d7141-514-3703c4e5d28d92a12f77-7.png ]

[画像9: https://prtimes.jp/i/7141/514/resize/d7141-514-b5d1388df4453d5c7a64-8.png ]

それぞれの領域において、2017年以降にグラント配賦額が増加から停滞傾向に転じる一方、論文件数は緩やか増加傾向を示しています。実際、論文件数は現在も増え続けており、2022年は2012年の約2倍〜2.7倍となっています。これは形状記憶合金/素材の領域全体において、グラントを通じた資金投資が論文として時間差で成果を挙げていると解釈するのが自然です。

一方、形状記憶合金/素材は決して新しい技術領域ではないことには注意が必要です。ニチノールやその他の形状記憶合金の商業的開発が始まったのは1970年代のことです。それを考慮すると、ここから急激な成長を期待できる訳ではないでしょう。とはいえ今もなお、材料特性の向上を目指した研究開発が活発的に行われている領域であることは間違いありません。例えば、ポリマーブレンドや複合材料における技術革新により、刺激に対してより素早く反応する形状記憶ポリマーが開発され(注4)、加工技術と合金組成の進歩により、長期的な性能と信頼性が大幅に向上した形状記憶合金が開発されています(注5)。

(注4)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9609464/
(注5)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmeatem/2019/0/2019_1010A1030/_article/-char/ja

形状記憶合金/素材を利用する利点は無数にあります。復元性と変形性、制御と動きの精密さ、エネルギー効率、生体適合性、機械的複雑性の軽減、複数の刺激に対する反応性、耐久性と高い疲労耐性、特性のカスタマイズ、メンテナンスが最小限または不要、革新的な設計の可能性、等々。応用先も計り知れないため、今後も継続的な技術革新が期待できるでしょう。

著者:アスタミューゼ株式会社 ミシェンコ ピョートル 博士(工学)

さらなる分析は……
アスタミューゼでは「形状記憶合金/素材」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

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