「どうした住商?」住友商事の純利益32%減に投資家界隈騒然…バフェットが評価"日本の五大商社"は買いか

2024年5月17日(金)7時15分 プレジデント社

大手総合商社の住友商事本社が入るビルの前に掲げられた看板=2024年2月14日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

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五大商社の2024年3月期決算が出揃った。減益が目立つ結果となり、中でも住友商事の純利益は前年比32%減となっている。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「21世紀の商社は投資事業会社になっている。住友商事の決算は投資事業を行う企業としては厳しい結果だったが、今後3年間の戦略には可能性を感じさせる面がある」という——。
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大手総合商社の住友商事本社が入るビルの前に掲げられた看板=2024年2月14日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■前年比32%、減益幅が目を引いた住友商事


五大商社の2024年3月期決算が出揃いました。世界的な投資家であるウォーレン・バフェット氏が「上限9.9%まで買い増していく」と表明したことで注目が集まった五大商社は、好決算が相次いだ昨年から一転して減益が目立つ結果となりました。


昨年度は資源バブルと言われ、三菱商事、三井物産がそれぞれ純利益1兆円超えで稼いだのですが、今期、各社の業績を引っ張ったのはその資源価格の下落でした。各社とも金属資源部門の減益が大きかったのが減益の共通要因です。唯一、資源への依存が少ない伊藤忠だけが0.2%増とわずかに増益決算となりました。


金属資源への依存が大きい三菱商事が18%減と大幅な純利益減となったのも目立ちましたが、とりわけ目を引いたのが住友商事の減益幅でした。前年比32%減の純利益3864億円という結果で、投資家界隈からは「どうした住商?」という声も聞かれました。


住友商事の業績は本当に悪いのでしょうか? そして五大商社はバフェットが考えるように「買い」の投資先なのでしょうか? 総合商社のビジネスとは何か? という観点から考えてみたいと思います。


■21世紀の総合商社は「投資事業会社」として成功している


さて日本企業の時価総額ランキングを見ると五大商社はそれぞれ上位を占めています。三菱商事が時価総額約14兆円で総合7位、三井物産が約12兆円で12位、伊藤忠が約11兆円で15位と続き、丸紅、住友商事もそれぞれ約5兆円で40位以内につけています。


総合商社株が買われている理由は21世紀の商社が投資事業会社として成功しているからです。20世紀の商社は国際的な貿易会社だったのですが、世界の情報が手軽に手に入る時代になったことで輸出入ではあまり儲からない時代となり、商社は事業投資にスタンスを移したのです。


では商社はファンドになったのかというとそうでもありません。バフェットが注目したのは日本の総合商社の興味深いビジネスモデルにあります。


欧米型のファンドビジネスと対比してみるとわかりやすいのです。欧米のファンドは株式を取得して経営陣を送り込み、戦略を見直させ、それで企業価値を上げたら今度は株を売り抜けるのが基本的なビジネスモデルです。


一方で総合商社は株式を取得するなど権益に金を出して投資をするところまでは同じですが、そこに雇われ経営陣ではなく商社マンという「人」を送り込んで企業価値を上げていきます。しかも儲けの出口は株を売り抜けるのではありません。そのビジネスを成長させて長期持続的に儲けます。その目的のためにセグメントと呼ばれるさまざまな事業領域において複数の会社に投資していきながらバリューチェーン全体を押さえていきます。


■欧米の投資家からは「不適切な経営形態」と見られてきた


三菱商事を例にとればローソンに出資をして経営陣に商社マンを送り込むだけではなく、周辺の食品会社や物流会社にも出資していきます。さらには海外から輸入する食材についても、ただ輸入するのではなく海外のサプライヤーに同じように出資して人を送ります。


このやり方でローソンの例ではローソン単体の時価総額ではなく、コンシューマー産業セグメントと食品産業セグメントの全体利益で儲けていくのです。


このように総合商社が投資ビジネスを展開する結果、多数のセグメントに事業が分散する構造になります。三菱商事は天然ガス、総合素材、金属資源、産業インフラなど10のセグメントを業績の単位にしています。三井物産は7つ、伊藤忠は8つといった具合に、それぞれが関連の薄い複数のビジネスを抱える投資会社になるのです。


そしてここが面白いところなのですが、欧米の投資家の目からはこのような事業構造が「不適切な経営形態である」と長年見られてきたのです。専門用語では「コングロマリットディスカウント」というのですが、それぞれ相互に関連のない事業を多数抱える経営形態のことをコングロマリットといって、それは通常の企業よりも株価がディスカウントされる(安くみられる)傾向があったのです。その考えに逆転の目を向けたのがウォーレン・バフェット氏だったということです。


写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■バフェットは逆転思考から商社株の買い増しを選んだ


大手総合商社は日本国内でも飛びぬけて優秀な人材を多数採用し、それぞれに国内でもダントツレベルの報酬をあたえる。その意味では人的資本経営の教科書のような経営スタイルです。そして多数の領域に投資が分散している理由は、20世紀を通じてそれぞれのセグメントで長い歴史のあるビジネスを展開してきたからであり、そこには各業界での存在感という経営資産があります。


そう考えると事業領域が8とか10に分散していることはマイナスではなく、むしろ強みがそれだけたくさんあるからだと考えられる。まさにバフェットはそのような逆転思考から、株式市場で割安に評価されている商社株を「上限9.9%まで買い増す」ことにしたのでしょう。


さて、ここまでのことを基礎知識として住友商事の今期の決算を見てみましょう。


■「一過性損失」がキーワードになっていた決算発表


まず決算発表の冒頭で経営陣は「当期利益は、3864億円となりました」と伝えた後で、


「課題を持つ複数の事業で、一過性損失を計上したことから、通期見通しを下回る着地となりました。一過性を除く業績は、5010億円となり、見込み通りの着地となっております」


という説明をしています。


この「一過性損失」は決算発表のプレゼンテーションのキーワードになっていて、いたるところでこの一過性の損失がなければどういう結果になるのかが解説されていました。


これは経営者の態度としてはあまり誠実ではない説明です。商社のビジネスは投資ビジネスですから一定の確率で損失が出るのは当然です。今期はマダガスカルでのニッケル事業で▲890億円の減損を計上したことが大きく、他にも海外の通信事業、アグリ事業、モビリティ事業で減損を行ったのです。


損益計算書の上では今期だけに発生する損失なので「一過性」として説明したかったのでしょうが、投資を主とするビジネスでは一過性の損失が出るのは当たり前で、事業の本質です。逆に来期は一過性の要因がなくなるので純利益は元の水準の5300億円に戻ると説明していますが、それも来期は投資で損失が出なければという注意書きのうえでの説明だと思ったほうがいいでしょう。


写真=iStock.com/Ca-ssis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ca-ssis

■住友商事はROEが一桁台に転落している


今回の住友商事の決算発表は、これは経営者の癖なのでしょうか、重要なことをあまり説明しません。決算発表資料の中でも投資家から見れば重要なセグメント別の利益や、投資体力を見るためのキャッシュフロー情報は「時間の関係で省略します」で報告が終わってしまいました。報告はあっさりと一過性損益がなくなった次年度の当期利益予想5300億円の説明に移ってしまいます。


では住友商事の決算のどこがダメなのでしょう。総合商社が投資事業を主戦場としている以上、ROE、つまり株主資本に対する利益率が問われます。みなさんが株式に投資をする際に、たとえば人気のアメリカ株インデックスであるS&P500に投資する場合には10%程度の利益率を求めていると思います。


個別企業の場合は当然、市場全体の投資利益率よりも高い利益率が必要です。総合商社事業の場合、三井物産、伊藤忠、丸紅はいずれも15%台のROEをたたき出しています。今期、資源事業の悪化で▲18%の利益減少を記録した三菱商事は11%台のROEに転落しましたが、それでも投資家が期待する2桁のROEは何とかキープしました。


それに対して住友商事は減益幅が▲32%と大きかったことからROEが9.4%と一桁台に転落しました。そして投資家の目線で一部譲歩して一過性要因を除いたとしてもROEは12%程度にすぎない。ここが実は投資事業を行う企業として厳しい結果でした。このあたりの説明をスルーした前半の決算説明会のスピーチだけを見ていると「住友商事はダメなのか?」と思えてしまいます。


■事業構造を良い方向に変える可能性を感じさせる


ただ経営評論家の立場で住商の戦略を眺めていると実はそうでもない救いが見られます。それは説明会の後半で今期以降の3年間の戦略を語っている情報の中から読み取れます。住友商事の今後3年間の中期戦略では、投資会社らしく「No.1事業群」を作っていくことを戦略のテーマに置いています。


そしてそれを実現するためにセグメントの再編をすると言っています。特に大きな点は60年続いた部門・商品本部制を廃止して、44の戦略的ビジネスユニットに組織を再編するというのです。さらに戦略上の親和性の高い9つのグループを編成してグループCEOを中心とした経営組織に移行すると言っています。


方向性としてはこの戦略は住友商事の事業構造を良い方向に変える可能性を感じさせます。他の四大商社と違い、住友商事はセグメント毎の稼ぐ力にばらつきがあり、モビリティ関連の自動車、輸送機、建機の利益への依存が高かったというのがこれまでの構造です。これが9つのセグメントに再編され、9つのセグメントがそれぞれ利益の柱となるように投資成果を出していく形に変われば、住友商事のポートフォリオは改善されるはずです。


写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

■21世紀型・日本型の投資会社としての利益成長を目指すべき


ひとつだけ懸念点を挙げさせていただくと、この9つのグループの分け方が恣意(しい)的というか、同じぐらいの大きさになるように意図的に分割されている点はマイナスです。各グループのモチベーションを優先したという意図はわかりますが、投資事業として最適な組織かどうかについては疑問を感じます。


このように5位に転落した住友商事には、巻き返しが必要ですが、投資事業会社として五大商社それぞれが置かれた状況は同じです。総合商社各社は前々期は資源ビジネスが好調で空前の利益をたたき出し、他の四大商社においては前期はその資源のマイナスを他のセグメントの利益がカバーできました。


そして4月に始まった今期は、分断など不確定要素の多いグローバル市場を相手に、それぞれのセグメントで積極的な投資をし、長期的な投資利益が構造的に増えていくように人的資本経営を展開していく。バフェット氏の期待に応えるべく目指すべきところは、21世紀型・日本型の投資会社としての利益成長なのです。


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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。
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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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