早慶に「ダブル合格」した人はどちらを選んでいるのか…「慶応有利」から「早稲田有利」に変わっている根本原因

2024年5月17日(金)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

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早稲田と慶應の両方に合格した人は、どちらに進学しているのか。受験・学歴研究家の伊藤滉一郎さんは「直近20年は多くの早慶『W合格者』が慶應に進学したが、ここ数年で早稲田が盛り返してきている。看板学部の政治経済学部が入試に数学を必修化し、難関国立大志望者が早稲田を併願するようになったことが背景のひとつだ」という——。
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■この20年は「慶應の時代」だったのだが…


早稲田と慶應の両校が国内トップ私大として双璧を成しているのはもはや疑いようのない事実だろう。


東大受験生の併願先トップといえば、早慶のいずれかであるし、何十年も前から「私大の雄」としてライバル関係にある。受験に限らず、六大学のスポーツの試合でも「早慶戦」が最も白熱するイベントではないだろうか。


やはりライバルらしく、時代に応じて両校の評判は変化している。1980〜90年代前半は早稲田と慶應の両方に合格した学生の多くが早稲田に進学したが、その後、形勢が逆転。慶應の時代が到来し、そこから20年余りは多くの「W合格者」が慶應に進学した。そしてここ数年で見ると、早稲田が急速に盛り返してきている。片時も目が離せない熱い戦いが展開されている。本稿では、2024年現在の両校の実力をさまざまな視点から検証していきたい。


まずは毎年、大学受験予備校の東進ハイスクール(ナガセ)が独自作成している早慶W合格者の進学先データを見ていき、近年のトレンドについて検証していきたい。


2023年入試におけるW合格者の進学先は以下のようになった(図表1)。


■筑駒生は慶應より早稲田への進学者が多い


早稲田39.1%に対して慶應が60.9%と、全体の傾向としては慶應に進学するW合格者が多い。一方、経済、商、文など「文系の主要学部」においては早稲田が優勢だ。法学部に関しては慶應のほうが強いなど、学部ごとに特徴があるのが面白い。


また、「文系の主要学部」においては早稲田の割合が大きいものの、早稲田は慶應と比べて「下位学部」と呼ばれる学部が多く(早稲田にはなんと13もの学部がある)、そこと慶應にW合格した場合はほぼ全員が慶應に進学するため、全体で見ると慶應優勢になっているのだと考えられる。


看板学部の早稲田政治経済学部と慶應経済学部の対決では、早稲田政経に軍配が上がっている。2021年より、早稲田政経が入試で数学を必修化し、「優秀層」が早稲田に流れる傾向が出てきたのが大きいだろう。


受験のメイン層が難関国立大の併願組となったことが影響して、超難関校からの進学者も増えている。今年、日本一の進学校とも言われる筑駒こと筑波大附属駒場からの早稲田大学進学者数は16名で、東大に次ぐ多さであった(慶應は9名)。


一方で、慶應経済には「B方式」という、数学を使わずに受験できる入試方式も残されている。プライドが高い超進学校の生徒たちは数学を捨てた「限界私文」と一緒にされたくないという思いがあるため、早稲田政経への優先的な進学につながっているのかもしれない。


■「慶應は就職が良い」というイメージは本当か


大学の人気を左右する要素として、卒業後の進路は大きい。続いては、早慶の主な就職先を見ていきたい。就職については、慶應のほうが良いというイメージが巷で蔓延しているが、実際のところどうなのだろうか。


ここでは5大商社、コンサル(BIG4+アクセンチュア)、電博、3メガバンクの就職者数をまとめてみた。W進学データのときと同じように、同学部どうしで並べてみることにする。


もちろん「難関企業」はこれ限りではないが、定義が難しいため優秀層に人気の4業種を指標とした。おおよその難関企業輩出率のベンチマークになるからだ。括弧内は卒業者(進路報告者)数になる。


早稲田政経(874):
総合商社21(三菱商事6、三井物産1、伊藤忠2、住友商事7、丸紅5)
コンサル33(アクセンチュア8、PwC14、EY7、KPMG1、デロイト2)
電博4(電通2、博報堂2)
メガバンク27(三菱UFJ銀行14、三井住友銀行6、みずほ7)


慶應経済(1172):
総合商社35(三菱商事8、三井物産10、伊藤忠7、住友商事8、丸紅2)
コンサル65(アクセンチュア20、PwC21、EY13、KPMG2、デロイト9)
電博15(電通6、博報堂9)
メガバンク39(三菱UFJ銀行18、三井住友銀行6、みずほ15)




早稲田法(763):
総合商社5(三菱商事1、三井物産1、伊藤忠1、住友商事0、丸紅2)
コンサル13(アクセンチュア3、PwC5、EY2、KPMG2、デロイト1)
電博2(電通1、博報堂1)
メガバンク15(三菱UFJ銀行4、三井住友銀行6、みずほ5)


慶應法(1262):
総合商社43(三菱商事9、三井物産10、伊藤忠8、住友商事7、丸紅9)
コンサル59(アクセンチュア17、PwC19、EY10、KPMG6、デロイト7)
電博11(電通6、博報堂5)
メガバンク42(三菱UFJ銀行16、三井住友銀行12、みずほ14)




早稲田商(894):
総合商社10(三菱商事6、三井物産0、伊藤忠1、住友商事2、丸紅1)
コンサル16(アクセンチュア7、PwC5、EY3、KPMG1、デロイト1)
電博1(電通1、博報堂0)
メガバンク19(三菱UFJ銀行4、三井住友銀行13、みずほ2)


慶應商(956):
総合商社9(三菱商事5、三井物産0、伊藤忠0、住友商事2、丸紅3)
コンサル20(アクセンチュア7、PwC12、EY5、KPMG1、デロイト1)
電博12(電通5、博報堂7)
メガバンク28(三菱UFJ銀行10、三井住友銀行10、みずほ8)


たしかに、主要企業への就職率を学部別で見ると、慶應に軍配が上がりそうだ。育ちがよく意識の高い「内部生」(附属校から大学に進学した学生)の就職力が高いことが要因とも言われるが、理由は他にもあるだろう。


慶應の文系学部(経済、法、商)は1、2年を神奈川県の日吉キャンパスで過ごし、3年時から東京・港区の三田キャンパスに拠点が移る。そこで慶應生たちの目の色が変わって就活への意識が高くなると言われている。周囲がビジネス街である三田キャンパスの立地柄、4年間、変わらずに高田馬場の学生街で飲んだくれている早稲田生とは意識の差が生まれるというのも頷ける気がする。


■データには表れない慶應の「学内カースト」


一方で、早慶にはデータに表れない違いもある。外部生(大学から入った学生)に対する大学内での評価だ。


慶應義塾大学には内部生こそ「本流」で、大学入学組は「よそ者」といった風潮があるという。しかも入学段階が早いほど位が高いとされ、幼稚舎組を頂点とする暗黙の「学内カースト」が形成されている(図表2)。


浪人までして、苦労して一般入試で慶應に入った学生の中には、学内で居場所がない……となってしまう人も少なくない。受験での苦労は日吉や三田では全く評価されず、内部進学の帰国子女や体育会の連中がただひたすら幅を利かせているのである(これはあくまで本キャンパスにおいてであり、理工学部やSFCにおいてはこうした傾向も弱まる)。


対して早稲田はこの点においては全く逆と言って良い。


■結局、早慶どちらに進学すべきか


早稲田には、学生がサークルなどで「学生注目!」と発狂し、出身高校とともに自己紹介をするという茶番芸があるのだが、そこで附属校である早大学院や早稲田本庄といった校名が上がると、「裏口!」と揶揄されるというお決まりの流れがある。いくら難関の附属校に合格しようと、熾烈な大学受験を経験していない者は「裏口」扱いされてしまうのだ。


ここからも早稲田では内部生よりも、一般入試での入学者が偉いとされる校風が窺える。もっと言えば、「浪数」が多いほど尊敬されるといった傾向すらある(それもあって地方からの多浪組というのもいまだに存在する)。


そのため、大学から一般入試で入る場合は早稲田のほうが過ごしやすいという声は多い。ただ、慶應のカラーが合うという人もいるので、受験生には、このような「校風」があることを踏まえつつ、オープンキャンパスなど実際に足を運んで慎重に決定することをお勧めする。どちらも素晴らしい学校であり、「早慶どちらに進学すべきか」というのは、大変贅沢な悩みであるということは最後に付け加えておきたい。


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伊藤 滉一郎(いとう・こういちろう)
受験・学歴研究家、じゅそうけん代表
1996年愛知県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、メガバンクに就職。2022年じゅそうけん合同会社を立ち上げ、仮面浪人・再受験生を対象にしたオンライン塾などを運営する。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、X(旧Twitter)やYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。
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(受験・学歴研究家、じゅそうけん代表 伊藤 滉一郎)

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