新勝寺の参拝客に正真正銘・地元産「成田うなぎ」を食べてもらいたい…かば焼きの老舗、養殖に挑戦
2025年5月17日(土)16時11分 読売新聞
千葉県成田市の成田山新勝寺の表参道に本店を構える老舗ウナギ店「川豊」が、ウナギの養殖業に乗り出した。地元産ウナギが激減する中、江戸時代に成田詣での参拝客を地元産でもてなした原点に立ち返り、「成田うなぎ」生産に挑戦する。(成田支局 本田麻紘)
同市東町の「川豊別館」の敷地内に設置されたいけすに餌を入れると、ニホンウナギの稚魚「シラスウナギ」約6000匹が一斉に食いつき、餌の固まりは5分ほどで見えなくなった。一定の大きさに育てた後、すぐそばの養殖池に移し、数年かけて育てる。川豊の伊藤小澄社長(54)は「『成田うなぎ』をブランドとして定着させたい」と話す。
JR成田駅から新勝寺へ続く約800メートルの表参道では、約50のかば焼き専門店や旅館などがウナギ料理を提供する。市観光協会によると、江戸時代に成田詣での参拝客に精を付けてもらおうと、利根川や印旛沼でとれた天然ウナギの料理を出したのが始まりだ。
だが、近年は天然ウナギの漁獲量が激減。水産庁によると、1961年の3387トンをピークに、2023年には55トンに減った。千葉県産はわずか1トンだ。
養殖ウナギも生産量は限られている。ニホンウナギの養殖場は全国に442(昨年11月時点)あるが、同県内は川豊の養殖場など四つのみ。今季(昨年11月〜今年10月)の稚魚の割当量は全国21・7トンに対し、県内は0・1トンにとどまる。新勝寺の表参道でも、鹿児島県や愛知県などのウナギを提供する店がほとんどだ。
1910年創業の川豊はウナギなどの川魚の漁や養殖、卸売りも行っていたが、25年に飲食業を始めて67年にはかば焼き専門店になった。
伊藤社長がウナギ養殖を復活させようと決断したのはコロナ禍の頃。激減した観光客を呼び戻す起爆剤として、かつてのように、地元産のウナギを提供することを思いついた。
養殖業に参入するのは設備的にも技術的にも難しいが、「創業者の思いを忘れないように」と残していた養殖用の池と井戸があった。ノウハウは、ウナギの餌業者や県水産総合研究センターなどからアドバイスを受け、鹿児島県の養殖場を視察するなどして学んだ。
ウナギの養殖は国の許可制で、稚魚は厳しく管理されている。当面は他県産を使うが、将来的には千葉県産の稚魚を使うのが目標だ。
伊藤社長は「ブランド化には数十年かかるかもしれないが、伝統ある成田のウナギ文化を未来につなげていきたい」と意気込む。