閉鎖された水族館に取り残されたシャチとイルカ、その行く末は?(フランス)

2025年5月19日(月)8時0分 カラパイア


 2025年1月、フランス南部カンヌ近郊にあった水族館のある海洋テーマパーク、「マリンランド・アンティーブ」が閉鎖された。


 その後廃墟となった施設のプールには、フランスで飼育されている最後のシャチ、ウィキ(23歳)とその息子ケイジョ(11歳)の2頭、そして12頭のイルカたちが取り残されている。


 閉鎖から数か月が経過した現在、彼らは藻が繁殖した濁った水のプールに取り残されており、健康と福祉が深刻な懸念事項となっている。


閉園した水族館のプールに取り残されたシャチとイルカ


 フランス南部、カンヌ近郊にあったマリンランド・アンティーブは、シャチやイルカのショーを売りにしていた水族館付の海洋テーマパークだった。


 だがフランスでは2021年11月に、新たな動物福祉法案が可決[https://karapaia.com/archives/52307887.html]。海洋哺乳類によるショーや、サーカスでの野生動物の使用、ペットショップでの犬猫の店頭販売などが禁止されることとなった。


 ショーを目当てに来るお客さんでにぎわっていたマリンランドは、これを機に閉園することとなる。


 そして2025年1月5日、正式にその門は閉ざされが、問題となったのは、マリンランドで飼育されていた生き物たちの行き先だ。


 下は閉園前に行われていたシャチのショー。多くの観客が、彼らのショーを見に訪れていたことがわかる。


View this post on Instagram
[https://www.instagram.com/p/C5GyEgBNr1D/?utm_source=ig_embed&utm_campaign=loading]

A post shared by Michèle Pierini (@pierinimichele)[https://www.instagram.com/p/C5GyEgBNr1D/?utm_source=ig_embed&utm_campaign=loading]


 マリンランドにはウィキー(23)とその息子のケイジョ(11)という2頭のシャチ、そして12頭のイルカたちが飼育されていた。


 そして閉園から4か月。5月7日に撮影されたという映像には、メインテナンスが行われなくなり、藻が繁殖した濁ったプールで泳ぐシャチやイルカたちの姿がとらえられている。


 自然環境下であれば藻の繁殖は一般的だが、プールのような閉鎖的空間では、生態系が機能していないため、水質管理が必要だ。


 彼らは現在も引き取り手が決まらず、廃墟となったマリンランドのプールで暮らしているのである。



日本への移送は却下、他の引き取り先も見つからず


 当初、2頭のシャチは、日本の神戸市にある神戸須磨シーワールド[https://www.kobesuma-seaworld.jp/]が引き取る予定で調整が進められていた。


 だがクジラの保護団体らが日本への移送を強く反対し、署名運動などを実施。その結果、フランス政府は日本に譲渡しない決定を下した。


 彼らはその理由として、日本がいまだに捕鯨を行っていること、動物の保護に関する法律の整備が遅れていることなどを挙げた。


 それでは、シャチたちはどこへ行くのが望ましいのか?日本の次に候補となったスペインのテネリフェ島にあるロロ・パルケ海洋公園だった。


 だがこちらは、スペイン政府が施設の収容能力不足を理由に受け入れを拒否した。



受け入れ表明してくれた施設はまだ建設が終わっていない


 残された候補地は、カナダのノバスコシア州ポート・ヒルフォード湾に建設予定の海洋保護区、「Whale Sanctuary Project[https://whalesanctuaryproject.org/](ホエール・サンクチュアリ・プロジェクト:WSP)」のみだ。


 WSPは、捕獲されたり、飼育されていたシャチやシロイルカ、イルカなどのクジラ類を、より自然に近い環境で生涯飼育することを目的としている。


 広大な海域が網で囲われ、クジラたちが自由に泳ぎ、潜り、自然の海底を探索できるよう設計されている。


 だがこの施設は2025年中か2026年のオープンを目指しているものの、現時点ではまだ建設中で、シャチたちを受け入れる準備は万端とは言えない。


 そのため、WSPの完成時期がマリンランドの閉鎖スケジュールと合わないことを理由にフランス政府はWSPからの受け入れ提案を却下したのだ。


 これに対し、WSPは、施設完成までの間、ウィキとケイジョをマリンランドに留め置く費用を負担する用意があると申し出たのだが、今度はマリンランド側がこれを拒否したという。


 フランスからカナダまでの長距離移送は、シャチやイルカたちに大きなストレスを与える恐れがあるのも懸念材料の1つとなっている。



他に選択肢は?


 それでは海に返してあげればよいのでは?と思うかもしれないが、マリンランドのシャチたちは水族館で生まれており、野生で生き延びられる可能性は低いため、その選択肢はないそうだ。


 報道によると安楽死が真剣に検討されている[https://people.com/2-killer-whales-12-dolphins-left-behind-abandoned-marine-park-france-11735311]とも伝えられているという。


  これに対し、保護活動団体のTideBreakers[https://www.facebook.com/reel/9535107586587509]は、その声明[https://www.facebook.com/wearetidebreakers/posts/pfbid0hB1wRr5YtRMWCB3oRAixSmuS46o5ZksztPp7cNtdByWrYV9C2MjRv5vRu3wQCfyFl]の中で次のように述べている。


私たちの選択肢は尽きつつあります。シャチの飼育を段階的に廃止する上で、最も人道的かつ持続可能な解決策はフランスにサンクチュアリ(保護区)を設けることです。
残念ながら、現在シャチのためのサンクチュアリは存在しません。そのため、暫定的な解決策としては、ウィキーとケイジョのために一時的な仮設の水槽を設置することが最善だと考えています。
しかし時間は刻々と過ぎています。これは緊急事態であり、悪化する環境に耐えられなくなり、シャチたちが病気になれば、安楽死させることが検討されているとの報告もあります。


View this post on Instagram
[https://www.instagram.com/p/DAJhoNUNiFT/?utm_source=ig_embed&utm_campaign=loading]

A post shared by Dani (@dani_demel)[https://www.instagram.com/p/DAJhoNUNiFT/?utm_source=ig_embed&utm_campaign=loading]


ネット上では政府を批判する声も


 この事態を受けて、インターネットのSNSや掲示板では、さまざまな議論が行われている。


フランス政府はなぜ彼らの移送を拒否するの?費用はそんなにかからないと思うけど
決断が下される頃には手遅れになってるんじゃないか? こんなに知能の高い生き物を、どうして見捨てられるんだよ。非人道的で吐き気がする
動物保護法を強化した結果、動物を放置って本末転倒じゃ?
彼らはどうやって生きているの? 誰かが餌を与えてるの?
一応、彼らにはまだ餌が与えられているけど、水槽の清掃作業は行われていない。マリンランドが閉鎖されたから、そのうちに餌の資金も底をつくだろうね
政府は彼らの面倒を見る能力と予算のある施設への移送許可を出さないんだよ
娯楽目的での動物に芸をさせないっていうのはわかる。でも今までそのために飼育されていた動物たちをその後どうするかまで決めるべきだった。何の解決策も提示せず、放置状態にしているのは、動物たちの権利を守るという理念そのものに反しないのか?
フランスは彼らを飼育したくないんだろ? なのになぜ他への譲渡は拒否するんだ? 日本に送ることに何の問題があるのかわからない。少なくとも、彼らは生き延びることができるだろうに
悪評を避けるためだよ。日本は捕鯨国家というイメージがついている
でも、彼らは飼育下で生まれたから海へ帰すことはできないんでしょ?
マリンランド側は、資金が尽きる前に日本へ移送したがっていた。でも政府が許可しなかった
ショーが違法となって収入が途絶えたわけだからね。僕は倫理的に動物を見世物にするショーには賛同はできないけど、政府が資金提供をしないのなら、シャチの世話をしてくれる場所の選択肢を奪うのは間違っていると思う
本当に心が痛むよ。彼らが安楽死させられるのではなく、どこかの施設に移送されることを祈る
彼らを受け入れる施設はまだ設立されていない。安楽死させるか、予算がある別の施設に移送するかのどちらかしかないんだ
みんな「自分にできることはないだろうか」ってコメントしているけど、どんな選択肢があるって言うんだ。欲しいのは怒りをぶつける場所だよ

 下は藻に覆われたプールの中で、ショーの際に使っていたと思われる「オモチャ」で遊ぶイルカたち。12頭いるとされる彼らの引き取り先も、まだ見つかっていないそうだ。



ショーを禁止する動きが国際的に高まっている


 現在、このような法律で動物によるサーカスやショーなを規制する動きが世界的に高まっており、海外からの輸入や水族館での飼育自体を禁じる動きが強まっている。


 だが、閉鎖された施設にいた動物たちを、どのように保護していくかについてはまだまだ多くの課題が残されている。


 日本でも2018年、千葉県銚子市の犬吠埼マリンパークが閉鎖された際、イルカやペンギンが取り残される事態が発生した。


 特にたった1頭だけ残されていたイルカのハニー[https://news.nicovideo.jp/watch/nw6963916]が、2年後の2020年に同マリンパークの汚れたプールで死亡。国内外で大きな批判を浴びたので、覚えている読者も多いのではないだろうか。


彼らは長年にわたって人々を楽しませてきたのです。今こそ、清潔で安全な環境で、尊厳をもって残りの生涯を送る機会を与えるべきです


 今回のニュースは、水族館で長年私たちを楽しませてくれて来た彼らに対し、我々人間はどこまでその「命」に責任を持てるのかを問うているのかもしれない。


 彼らに今必要なのは、もちろん観客からの拍手ではなく、安心して暮らせる「居場所」である。


 出来るだけ早く彼らの受け入れ先が決定し、尊厳をもって生きられる日が来ることを願ってやまない


追記(2025年5月19日)日本の動物保護法に関する記述に誤りがありましたので訂正して再送します。


References: Orcas abandoned in shuttered marine park filmed in algae-infested pool months after closure: ‘Must leave now’[https://nypost.com/2025/05/15/science/orcas-abandoned-in-shuttered-marine-park-filmed-in-algae-infested-pool/] / Stranded killer whales 'must leave now' as rehoming options shrink[https://www.bbc.com/news/articles/cpdzpzy1jwzo] / 2 Killer Whales and 12 Dolphins Abandoned at Closed Marine Park. 4 Months Later, Their Fate Is Still Uncertain[https://people.com/2-killer-whales-12-dolphins-left-behind-abandoned-marine-park-france-11735311]

カラパイア

「閉鎖」をもっと詳しく

「閉鎖」のニュース

「閉鎖」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ