「時代に逆行してますね」成田悠輔からの質問に、88歳・横尾忠則が語った“究極の人生哲学”とは?「お金もそうだけど、みんな…」
2025年5月16日(金)18時30分 文春オンライン
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「僕はとことん考えないんです」
横尾 今日は成田さんと経済とかお金の話をしなきゃいけないんだけど、僕はお金に関しては何も語る資格がないような気もするんですよね。僕は財布を持ってないんですよ。いつもこれが僕のあれで(と、片方のポケットからくしゃくしゃになったお札や紙の束を取り出す)。あと小銭はこっち(反対側のポケット)へ……領収書とか、もう使えないテレホンカードもあったり。

成田 テレホンカードなんてひさしぶりに見ました(笑)。何年持ち歩いてらっしゃるんですか。
横尾 もう10年も20年も持ち歩いてますね。タクシーに乗って、いざお金を払おうと思ってポケットから出したら、足りなくて「運転手さん、悪いけど僕が乗ったところが僕の家だから、後で取りに行ってくれる?」とかね。
成田 「横尾忠則さん、無賃乗車で逮捕」っていうパフォーマンス見出しアートを(笑)。でも、そういうお金と直交する姿勢がアーティストとしては自然な気もします。アートって本来は生きたり感じたり考えたりすることそのものなわけで、お金とか値段とかどうでもいいじゃないですか。だけど現代のアートは投資商品化して、値段で順位がつくようになってます。アートの金融化についてはどう思われますか?
横尾 いやー、全然わかりませんね。古いつきあいの画廊での個展で、「絵を買いたい」という方もたまにいるんです。ただ「横尾さんの絵が好きだから家に飾っておきます」と言ってたのに、何年か後に「あの絵を展覧会に出したいんだけれども」と打診すると、「別のコレクターに売っちゃいました」とか海外のオークションに出したり。だから今は、絵を販売することはほとんどしないんです。
成田 時代に逆行してますね。
横尾 完全に逆行してます。僕の作品自体も逆行してます。今はコンセプチュアルアート全盛の時代で、考えて考えてとことん考え抜いて作品を作っていくのが普通だけど、僕はとことん考えないんです。
絵というと学芸員も含めて「何が描いてあるんですか?」と主題ばかり気にするんですけど、僕は「何を描くか」はどうでもよくて、「いかに描くか」に興味があるんです。自分でも何を描いているかわからないから描けるんですよ。ひたすら考え抜かない状態で、身体的なものだけになった時に絵が描ける。
成田 頭が空っぽのほうがいい?
横尾 お金のこともそうですけど、みんな何かにつけて考えすぎるから悩む。僕は極力考えないことが僕の生き方だと思っていますから。
病院が好きな理由は……
成田 描いてる瞬間に身も頭も委ねるのが大事ということですかね。
横尾 瞬間と、そのプロセスが一番大事ですね。そこが楽しくて、快感のために描いている。
成田 すると金より体ですね。
横尾 そうですね。一番大事なのは創作です。その創作ができる背景としての肉体とか、健康ですよね。それに僕は病院が好きだから、しょっちゅうチェックに行くんです。
成田 私は病院の臭いが嫌いですが(笑)、なぜお好きなんです?
横尾 病院は、僕という人間がどういう人間なのかを、肉体で教えてくれるんですよ。僕は自分という存在が何者であるかという精神的なアプローチには興味がなくて、肉体こそが僕だという考えなんです。体のどこが悪くてどこが悪くないのか、そういうことが全部、僕にとっては自分を知る「哲学」になる。
(構成 伊藤秀倫)
※本記事の全文(約7000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年6月号に掲載されています(横尾忠則×成田悠輔「 僕は病院が好き。自分を知る「哲学」になるから 」)。
全文では下記の内容をお読みいただけます。
・家に本は一冊もなかった
・「悟りに来ました」
・三島さんが抱えていた「箱」
・「デザインは終わった!」
・AIは大したことないですよ
・人間主義的でない方向へ
(横尾 忠則,成田 悠輔/文藝春秋 2025年6月号)