アスリートにも効果的、メンタルも安定させるコンピテンシー

2023年5月18日(木)17時0分 ココカラネクスト

 ”能力がある”などの意味があり、活用することで多くのメリットが見込まれるコンピテンシー。一般的にまだ聞きなれない言葉ですが、近年注目が集まっている概念の一つです。主に経営や企業などビジネスシーンで使用されてきた言葉ですが、パフォーマンス向上へと日々鍛錬を積み重ねるアスリートにとっても押さえておきたい重要なものです。今回は、コンピテンシーとは何なのか、どのように活用されているのかについてお話します。

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ハイパフォーマーの特徴”コンピテンシー”とは

直訳すると”技能、能力、力量、適性”の意味を持ち、1950年代に心理学用語として誕生したコンピテンシー(compitency)。1970年前半にハーバード大学のマクレランド教授による調査で一般用語としても使用されはじめました。

キッカケとなったのは、マクレランド教授がアメリカ国防省から調査依頼を受けたことでした。外交官の採用時のテスト成績や配属後の実績の相関関係を詳しく知るためだったそうです。

調査の結果で明らかになったのは意外にも”学歴や知能は、実績の高さほど相関がない事”。そして高い業績をあげた人には、いくつかの共通した行動特性が見つかったことでした。この研究からコンピテンシーという言葉は、”高い成果をあげる人の行動特性として示されるようになりました。

近年では主にビジネスシーンにおいて取り入れられ、高い効果を導くために重要視されています。ハイパフォーマーな人が『日頃どのようなことを意識しているのか』『どのような理由でどのような行動をしているのか』を分析します。

スポーツでも人の『良いところは盗む』と口にする指導者も多いですが、これもコンピテンシーから来る概念。もちろんハイパフォーマーな人の真似は、誰にでも簡単にできるものではありません。しかしコンピテンシーを意識することで組織やチームに良い相乗効果を与え、確実にパフォーマンス向上へと導きます。

分析から導き出されたコンピテンシーは、その場の感情に流されず落ち着いて判断できる”冷静さ”や状況において軌道修正できる”行動思考”、初対面で好印象を与える”第一印象度”そして問題の本質を見極め解決を図る”分析思考”などで具体的な行動そのものを指すのではなく、”行動へと繋がる性格や動機、価値観”などがコンピテンシーです。

コンピテンシーを取り入れることでハイパフォーマー(能力を持つ人)が増え、チームが活性化しの結果もアップするのです。

”人事戦略の3本柱”のコンピテンシー取り入れ方法

”人事戦略の3本柱”とも称されるコンピテンシーです。3つのうち、まず最初に挙げるのが”評価”です。コンピテンシーによる評価以外にも個人目標の達成度によっての”MBOと言われる目標管理制度”やコーチや選手またはチームメイトや仲間など異なった立場のメンバーからの”360度評価”などがあります。

様々な評価がある中でも”評価のブレ”を極力少なくする目的で使用されるのがコンピテンシー評価です。コンピテンシー評価を行う際には、評価項目を設定するために部署、部門ごとにハイパーフォーマーへのヒアリングを行います。

例えば『目標としていた思考でできるようになっているのか』『どの程度までハイパフォーマーの行動特性に近づけているのか』といった観点から評価します。

2つ目に挙げるのは、採用です”。コンピテンシーは、面接などの採用基準としても活用されます。新しい選手を加入する際に考えるのは、組織のプラスとなるような選手を獲得したいということです。ここで重要となるのは”加入基準を明確にする”こと、そして面接者の”本質を確認する”ということです。もちろん漠然としたものでは、人選選びは困難を極めます。そんな時、加入基準の指数の一つとして活用されるのです。

既に自社で活躍しているハイパフォーマーのコンピテンシーをもとに採用基準を設定することで入社後に自社の雰囲気に馴染みやすく、活躍できる人材を面接時に見極めやすくなります。

コンピテンシーを活用した面接時の質問としては「ここ1年以内で最も成果をあげることができたエピソードをお聞かせください」「どのような成果をあげることができたのですか」などです。さらに「なぜそうしようと思いましたか」「成果につなげようとどのような工夫をしたのですか」など掘り下げた質問を行うことで自社にあった人材なのかを判断しやすくなります。

3つ目に挙げるのが”教育(戦略化)です。コンピテンシーは、能力開発やキャリア開発にも活用されます。定期的にコンピテンシー研修を行うことが効果的。研修のテーマとしては『どのような思考でどのような行動をすれば高い効果に繋がるのか』などハイパフォーマーの行動特性を研修参加者に問いかけます。

その上で『どのような思考を身につけたいのか』『どのような行動ができるようになりたいのか』という目標を一人一人に設定してもらいます。すると積極的かつ自発的な行動が促され、さらなる成長が期待できます。

コンピテンシーを取り入れるためには、まずハイパフォーマーの行動特性を洗い出す必要があります。方法は、コンサルタントなどが1年間べったりと密着する”厳密法”とグループワークを1日作り取りまとめる”簡単法”の2種類の手法があります。

一度試してみたいのなら簡単法で、まず最初に選ぶことからはじめます。資質、組織貢献、情報処理、リーダーシップなどのその職種に必要な能力を選び出します。

次に書くこと。選んだ能力を仕事に発揮する際に効果的だと思われる具体的な行動を書き出していきます。最後にまとめること。選び出した能力を書き出して行動をまとめ上げることでハイパフォーマーの行動様式がたった一日で出来上がるのです。

”アスリートにも効果的”なコンピテンシー

”コンピテンシーは、伝統的なテストよりも重要な行動に首尾よく結びつく”と研究から解いた心理学者のマクレランド教授です。実力テストや適性検査が、必ずしも仕事や人生での成功に結びつくとは限りません。高い実績を上げるためには、学歴や偏差値ではなく、良好な人間関係や豊かな感受性、信念の強さなどの特性を兼ね揃えているのかどうかです。

主に経営分野や企業で使用されてきたコンピテンシーの概念が、2000年代に入ってからスポーツにもコンピテンシーという言葉が使用されるようになりました。

ハイパフォーマーの行動特性は、アスリートにとっても興味深いもの。メンタルがブレることなく常に落ち着いてプレーに集中することができれば、パフォーマンスの向上も期待できます。トップアスリートたちにも共通する動作が見られました。

150キロを投げる投手に共通した投球動作を例に挙げると後ろ足の始動は、エッジングをきかせて前足に重心をうつすこと。腕の始動は内側にねじりながらテークバックし、体重移動はお尻から先に進んでいました。他にも右膝の向きは肘の先端が投げる方向を向いていることや肘の位置も高くキープされているなど細かいところに至るまで共通点があったのです。

今回は、コンピテンシーについてお話しました。コンピテンシーを取り入れることで行動の質が高まり、安定したメンタルでパフォーマンスを向上させることが期待できます。一日で出来上がる簡単法をぜひ一度試してはいかがでしょうか。効果に手応えがあれば、より確固たるものにするために厳格法で本格的に取り入れることもオススメです。

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。

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