キヤノンの事業ポートフォリオの「戦略的大転換」に、デザイン組織が果たした役割とは?
2025年5月18日(日)10時0分 ダイヤモンドオンライン
キヤノンの事業ポートフォリオの「戦略的大転換」に、デザイン組織が果たした役割とは?
ビジネスのさまざまな場面で、高度なデザイン力が求められるようになっている。企業がデザインの力を最大限に発揮するために、デザインリーダーが担うべき役割や在り方はどのようなものか。キヤノン総合デザインセンター所長の石川慶文氏に、巨大グローバル企業の事業変革においてデザイン組織が果たした役割を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美、撮影/朝倉祐三子)
ユーザーの現場に入り、深くリサーチする
──現在の総合デザインセンターの役割、機能について教えてください。
総合デザインセンターは、経営トップの直轄組織です。これまで一貫して経営とかなり近い位置で活動してきました。機能としては、①デザインリサーチ、②プロダクトデザイン、③ユーザーエクスペリエンスデザイン、④ユーザビリティデザイン、⑤コミュニケーションデザイン、⑥CGデザイン、⑦空間デザイン、⑧デザインプロモーションの八つを担っています。
──キヤノンは近年、戦略的に事業ポートフォリオを再編する「戦略的大転換」を進められています。この動きを受けて、デザインの機能は特にどの辺りを強化・拡大されていますか。
特に強化したのは「デザインリサーチ」です。キヤノンといえばカメラと複写機、というイメージが根強いと思いますが、商業印刷機、医療機器、ネットワークカメラ、半導体露光装置といったBtoB製品中心の成長戦略を進めています。こうした、いわゆるプロフェッショナル製品は、使用環境も特殊ですし、デザイナーがユーザーになれないものがほとんどです。的確にニーズをつかむためには、かなりしっかりした調査設計が必要です。
例えば、半導体露光装置はクリーンルームに置かれます。感光材料を扱うので、紫外線の出ないイエローライトの照明下でクリーンスーツを着た作業者が操作します。黄色い光の中でも画面がよく見えるか、クリーンスーツでも操作しやすいか──。ユーザーと同じ服装、同じ条件で汗をかきながらリサーチします。医療機器に関しても、病院の検査室という特殊な環境で、ドクターやナースの動作の意味を深くひも解く丁寧なオブザベーション(観察)を行っています。そして、調査結果から具体的な課題解決を導く、アイデアの発想まで手掛けています。
こうした活動から、革新的な製品も生まれています。一例が今年4月に発表したばかりの全身用X線CT装置「Aquilion Rise」(アクイリオン ライズ)です。世界初の全身用マルチポジションCTで、臥位(寝た状態)だけでなく、立位や座位でも撮影可能です。人間の血管や内臓の状態は、臥位と立位ではかなり違いますし、体が不自由で臥位での撮影が難しい患者さんもいます。大学病院との連携でこうした課題が見つかり、製品化につながりました。機能だけでなく、ワークフローや操作性の面でも非常に優れたプロダクトになったと思います。
全身用X線CT装置「Aquilion Rise」の使用イメージ