トヨタ「次世代BEV」はジャパンモビリティショーにどんな姿で登場するのか?

2023年5月18日(木)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 2023年10月、東京モーターショーが「ジャパンモビリティショー2023」として生まれ変わり開催される。そのジャパンモビリティショーで、トヨタが次世代BEV(Battery Electric Vehicle:電気自動車)のコンセプトモデルを公開することになった。2023年3月期決算説明会の中で、トヨタ経営陣が明らかにした。

 これまでの東京モーターショーは基本的に自動車産業界のイベントとして開催されてきたが、ジャパンモビリティショーはその枠組みを超えて、多様なモビリティという発想のもと、IT業界など自動車以外の産業界との連携を深めて初めて実施される国内最大級のモビリティイベントとなる。

 そこで披露される、トヨタが「次世代BEV」と呼ぶクルマは一体どんなスタイルで、またどんな機能を備えているのか? トヨタのこれまでのイベントや記者会見などから、その姿を探ってみたい。


報道陣の度肝を抜いた「BEV戦略説明会」

 ここ数年のトヨタBEV関連の動きの中で、ユーザーやメディアに最も大きなインパクトを与えたのは、2021年12月14日に東京江東区の展示ショールーム「メガウェブ(MegaWeb)」(現在は閉館)で開催した「BEV戦略説明会」だろう。

 量産化が確定していた「bZ4X」のほか、トヨタおよびレクサスの15台ものBEVコンセプトモデルを一挙に公開。レクサスの2ドアスポーツカー、ランドクルーザーのようなSUV、そして小型商用車などを含む多彩なラインアップを一堂に並べ、詰めかけた報道陣の度肝を抜いた。

 さらに数値目標として、2030年までに30車種のBEVを投入し、グローバルで年間350万台のBEV販売を目指すとした。

 こうした、多様なBEVを一気に市場投入するという事業戦略は、トヨタが2010年代後半から段階的に引き上げてきた電動車両の市場拡大戦略を大きく前倒しする形となった。


「中継ぎ」の役割を果たした「e-TNGA」

 この発表時点では、多くの人が、トヨタのBEVは「bZ4X」で初採用したBEVプラットフォーム「e-TNGA」を基点として多用なモデルを展開するのだろうと想像したに違いない。なぜならばトヨタはe-TNGA以外のBEVプラットフォームについて、この時点では全く公表していなかったからだ。

 ところが、「トヨタはまったく新しいBEV構想を検討しているようだ」という噂が、2022年中頃から業界内で囁かれるようになる。さらに、それを裏付けるような報道も一部でされるようになった。

 そんな噂が事実であることが、2023年4月7日の「新体制方針説明会」で明らかになる。

 製品開発を統括する中嶋裕樹副社長は、「2026年までに10モデルを新たに投入し、年間150万台の販売を達成」という、「2030年の30モデル・350万台販売」に向けた通過点としての目標を掲げた。

 会見の質疑応答の際、一部の記者からは、現状で年間数万台レベルのBEV販売台数を残り3年で150万台まで一気に伸ばすことが可能なのかと疑問視する声も出た。これに対してトヨタは、中国、アメリカ、欧州などのBEVに関わる規制強化の動きがあるほか、各市場でBEVに対する関心が高まっていることなどを主な理由として「2026年にBEVを年間150万台販売」という目標達成は実現可能であることを強調した。

 見方を換えると、トヨタがbZ4Xを皮切りに市場導入したe-TNGAは、結果的に次世代BEV市場導入までの中継ぎになったと言えるかもしれない。あくまでも私見だが、トヨタとしては、少なくとも2020年代いっぱいまでe-TNGAをBEVプラットフォームの主流としながら、グローバル市場動向を睨みつつ次世代BEVへのシフトを段階的に行おうとしていたのではないか。


新設「BEVファクトリー」が次世代BEVを開発

 一方、2022年以降のグローバルBEV市場は、トヨタが当初考えていた以上のスピードで変化してきたと言えるだろう。

 例えば、中国政府が進めるNEV(新エネルギー車)政策により、中国地場メーカーのBEV開発能力が大きく向上した。

 また、アメリカのIRA(インフレ抑制法)におけるバッテリー等の調達に対する制約を受けて、メーカーはBEV生産におけるコスト低減をさらに大きく進めなければならなくなった。

 こうした中、今秋の「ジャパンモビリティショー」にトヨタはどんな次世代BEVコンセプトを登場させるのか。そして、トヨタはそのモデルで何を目指すのか。

 次世代BEVコンセプトを開発するのはトヨタの「BEVファクトリー」である。2023年5月10日、トヨタはBEVファクトリーの新設を発表した。トヨタによると、BEVファクトリーは「ワンリーダーの下、『開発・生産・事業』全てのプロセスを一気通貫で行うことで、スピーディーな意思決定と実行を実現する」組織だという。具体的には、各国や各地域の市場動向をスピーディーに把握するため、海外のトヨタ法人などとの連携を強化する。また、部品の仕入れ先と新技術や新工法によるモノづくりにもチャレンジする。

 その上で、トヨタの中嶋裕樹副社長は「(トヨタの)強みであるトヨタ生産方式を活かし、仕事のやり方を変え、工程数を2分の1に削減する」という製造方法の大胆な転換を明らかにした。無人搬送や自律走行検査などで生産ラインの長さを一気に短縮するとともに、工程の自動化によって一層のコスト削減を目指すという。


注目したい「事業化」の領域

 BEVファクトリーについて筆者が特に注目しているのは「事業化」の領域だ。

 トヨタは次世代BEVの開発を進めると同時に、同社が“クルマの知能化”と呼ぶ車載のIT関連技術と、販売店とのデータ連携を融合するような、ITを活用した新サービスを打ち出すと見られる。つまり、トヨタの次世代BEVは、スタイリング、乗り心地、使い勝手、販売価格といった従来のクルマの評価基準だけではない、新しい領域でのクルマの魅力をユーザーに提案するサービス基盤としての位置づけが強くなることが予想される。

「所有から共有へ」をコンセプトとしたこれまでにないシェアリングサービスや、BEVを活用した自宅や会社でのエネルギーマネジメントのためのコンサルティング業務に着手することも考えられるだろう。

 東京モーターショーがジャパンモビリティショーに生まれ変わるこのタイミングで、トヨタは自動車メーカーからモビリティカンパニーに向けて、どのように脱皮していくのか? そうしたトヨタの変化を“見える化”するのが、トヨタ次世代BEVコンセプトの役割だとも言えそうだ。

筆者:桃田 健史

JBpress

「トヨタ」をもっと詳しく

「トヨタ」のニュース

「トヨタ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ