牛乳はむしろ骨折リスクを上げる…管理栄養士が「丈夫な骨のためにはコレ」と断言する日本人が大好きな食べ物

2025年5月19日(月)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

60歳から丈夫な骨のために、摂取すべき食材は何か。管理栄養士の大柳珠美さんは「60歳以降の食事や運動、生活習慣によって骨粗鬆症のリスクが上がる。立ち上がるときなどに背中や腰が痛む際は要注意だ」という——。

※本稿は、大柳珠美『糖質を“毒”にしない食べ方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。


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■「立ち上がるときなどに背中や腰が痛む」は要注意


骨のなかでは古くなった骨が吸収される「骨吸収」と、新しい骨が形成される「骨形成」が繰り返されています。骨吸収と骨形成のバランスが崩れ、骨吸収が進んでしまうと骨量が減って骨がスカスカになる「骨粗鬆症」となり、転倒などで骨折しやすくなってしまいます。


骨折しやすいのは背骨、手首、大腿骨(だいたいこつ)頸部(けいぶ)(太ももの付け根)。大腿骨頸部の骨折は入院手術が必要になり、寝たきりや認知症につながるおそれもあります。


自覚症状がないまま静かに進行し、骨折してはじめて気がつくケースがほとんどですが、軽度から重度では次のような症状が見られます。


○骨粗鬆症の症状(軽度→重度)
□立ち上がるときなどに背中や腰が痛む。→背中や腰が激しく痛み寝込む。
□重いものを持つと背中や腰が痛む。→転んだだけで骨折する。
□背中や腰が曲がってくる。→背中や腰の曲がり方がひどくなる。
□身長が縮んでくる。→身長の縮みがかなり目立つようになる。

骨量は20歳前後をピークにどんどん低下していきます。女性ホルモンのエストロゲンは骨形成を促し骨吸収を抑える働きがあるため、閉経後の50代から女性は骨量が減少して骨粗鬆症のリスクが上がります。


男性は女性に比べて骨が太く丈夫なため骨量もみっしりとあり、女性のようにホルモンの急激な変化にさらされることはありませんが、60歳以降の食事や運動、生活習慣によってそのリスクが上昇します。


男女ともに栄養面ではタンパク質、カルシウム、マグネシウム、ビタミンD、ビタミンKの不足が原因となります。


■「骨の栄養=牛乳」の落とし穴


さて、骨粗鬆症といえば「カルシウム」、カルシウムといえば「牛乳」とばかりに、骨粗鬆症対策で牛乳を常飲している方は多いと思いますが、気になる研究報告もあります。


アメリカのメリーランド大学の調査では、牛乳の摂取量が多いほど骨折率が高いという結果が出たそうです。


1946年から2021年までの観察データを解析したところ、牛乳の摂取と大腿骨骨折には関連が見られませんでした。牛乳をまったく飲まない人と比較したところ、骨折リスクが最も高かったのは1日400gを摂取する人で、リスクは15%も高かったそうです。もう少し詳しく見てみましょう。


・牛乳の摂取量が1日400gまでの場合
→骨折リスクは200g上昇するごとに7%上昇。


・牛乳の摂取量が1日400gを超えた場合
→まったく飲まない群と比較すると700gに達するまでリスクは上昇する。


ただし、ヨーグルトと発酵乳、チーズについては逆の結果になっています。


・ヨーグルトと発酵乳の1日の摂取量が250g増加するごとに
→骨折リスクは15%低下。


・チーズの1日の摂取量が43g増加するごとに
→骨折リスクは19%低下。


乳製品を何代にもわたって摂取し続けてきたアメリカでの調査結果ですから日本人にピッタリ重なるとは限りませんが、そもそも日本人は牛乳に含まれる乳糖を分解する酵素を持たない人が多いのです。


■カルシウム摂取に最適な食材の種類


牛乳を飲む歴史が浅い日本では乳糖分解酵素という仕事人が必要ありませんでした。仕事人なしに牛乳を飲んでも有効活用は難しく、お腹がゴロゴロするだけの牛乳に健康効果があるのかというと疑問符がつくところ。


「お腹がゴロゴロしないなら、カルシウム補給のために牛乳を飲んだほうがいいんじゃないの?」と思う方もいるかもしれませんが、ここにも問題があります。


牛乳だけを飲んでもマグネシウムがないことには骨を構成することはできず、カルシウムしかない牛乳を体に入れ続けると、マグネシウムが足りなくなってしまいます。


筋肉の働きに関わるマグネシウムの不足で筋肉がつる(こむらがえり)などはまだマシで、不整脈や心筋梗塞を起こし、極端な状態では心臓が止まることさえありうるのです。


では、骨を丈夫にするためのカルシウムは何から摂ればいいのか? イワシの丸干しや出汁(だし)をとる煮干しなどの骨ごと食べられる魚、また、海藻や大豆製品もよいでしょう。これらはカルシウムとマグネシウムが両方入っているからです。


写真=iStock.com/Nungning20
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nungning20

これらの食材は、いずれも和食ではお馴染(なじ)みのものばかりです。やはり、日本人の健康のためには何世代にもわたって食べられてきた伝統的な和食が最適といえます。


さて、カルシウムとマグネシウムのように、ペアとなって働くミネラル同士を「ブラザーイオン」といいます。銅と亜鉛、カリウムとナトリウムなどもブラザーイオンです。


ミネラルには体にマイナスとなる「有害ミネラル」も存在し、体のなかの必須ミネラルは有害ミネラルの排出にも作用します。共に協力する「ブラザーイオン」だけでなく、有害ミネラルとそれらを排出するミネラルも、ある意味、「セットで働く(反応する)」といえるでしょう。


共に働く仲間があぶれることのないよう、また有害ミネラルの排出のためにも、ミネラルという仕事人をバランスよく多数そろえておくことは重要なのです。


■骨の材料となる栄養素


丈夫な骨をつくるために牛乳がプラスにならないのは、骨をつくるために必要な栄養素がそろっていないからです。栄養素は単体で働くのではなく互いに作用しながら力を発揮します。骨をつくるために必要な栄養素には次のようなものがあります。


○タンパク質

摂取したタンパク質は分解合成されてコラーゲンとなり、血管、臓器、皮膚、そして骨とあらゆるところで利用されます。骨の主成分はコラーゲンであり、その材料のタンパク質は丈夫な骨をつくるために必須です。


○マグネシウム

前述のようにカルシウムのブラザーイオンとして、カルシウムとともに骨や歯の構成成分となり、骨の代謝を正常に保つ働きがあります。ストレスが多いと尿となって排泄されてしまうので、大豆製品、海藻、小豆(あずき)などで補充しましょう。


○リン

リンはカルシウムの次に体内に多く存在するミネラルで、カルシウムやマグネシウムと結びついて骨や歯をつくっています。一般的な食生活を送っていれば不足することはありませんが、ビタミンDの不足、栄養不良、薬剤の使用などの影響で利用率が低下することがあります。


○亜鉛

骨はコラーゲンを主成分として、カルシウムとリン酸、そしてマグネシウムでできています。亜鉛はビタミンCとともにコラーゲンの生成に必要です。


○コンドロイチン硫酸

タンパク質と結びついて各臓器に存在し、カルシウムの代謝・骨の成長に関わり、関節の軟骨を守る効果も期待されています。鶏皮、鶏の軟骨、牛、豚のほか、納豆やオクラといったネバネバ食品に多く含まれます。真皮のコラーゲン層を丈夫にすることから肌にもプラスになると考えられています。


○ビタミンC

骨の主成分となるコラーゲンの合成に働きます。骨のほか、血管、皮膚、粘膜のコラーゲン形成にも関わっています。白血球を活性化させるので、風邪や感染症の際には免疫力を上げるためビタミンCを積極的に補給しましょう。


写真=iStock.com/Prostock-Studio
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○ビタミンD

カルシウムやリンの吸収を促進して骨量を保ち、折れにくい骨をつくります。補充に最適なのは「魚」です。


○ビタミンK

骨へのカルシウムの取り込みを助けて石灰化を促すほか、骨からのカルシウムの流出を抑制してしっかりした骨づくりをサポート。納豆、海苔、ワカメに多く含まれます。抗生物質の長期服用でビタミンKを活性化させる酵素の働きが低下することがあります。


○ビタミンB12、葉酸

コラーゲン繊維を規則正しく配列して適度な弾力を保ちます。


■骨密度が高いのに骨折する人が多い理由


骨粗鬆症のリスクを計る指標のひとつに「骨密度」があります。骨密度検査とは骨を構成するカルシウム、リン、マグネシウムなどのミネラル成分がどれだけ骨に詰まっているかを調べるものです。


骨密度が高いほどミネラルが詰まっているので丈夫な骨のようですが、それでも骨折するケースがあります。


実は、骨の強度を決めるのは骨密度と「骨質」です。では、骨質とはなんでしょうか?



大柳珠美『糖質を“毒”にしない食べ方』(青春出版社)

それがコラーゲンです。


骨を鉄筋コンクリートの建物だと考えてみましょう。鉄筋はコラーゲン、コンクリートはカルシウムなどのミネラルにあたり、鉄筋とコンクリートがしっかりしていないと建物の強度は保てません。


骨密度(コンクリート)が詰まっていても、鉄筋であるコラーゲンの質が悪ければ骨折だって起こります。骨の強度は骨密度70%、骨質30%で決まるといわれているのです。


鉄筋であるコラーゲンはタンパク質なので、体内の糖と結びつくと糖化を起こし弱体化します。ミネラルが詰まって骨密度が高くても、コラーゲンが糖化してしまうと骨の強度は低下し、骨折リスクを負うことになるのです。


■体内の糖化を進めるおそれも


さて、ここで牛乳の話に戻りましょう。牛乳はカルシウムは豊富でも、カルシウムと結合するマグネシウムを含んでいないため、骨密度を上げず骨粗鬆症予防にはならないと説明しました。


もうひとつの牛乳のデメリットが乳糖です。牛乳瓶1本分の乳糖は角砂糖2個分にあたります。つまり、体内の糖化を進めるおそれがあるのです。「骨粗鬆症予防に牛乳」と信じて常飲していると骨の劣化をもたらしかねません。


反対に、乳糖も含めた糖質を制限することはコラーゲンの糖化を抑え、骨粗鬆症予防にもつながるといえます。


【まとめ】60歳から丈夫な骨のために「牛乳」よりも「豆腐とワカメのみそ汁」を
□牛乳は骨をカルシウムとともに働くマグネシウムがない。
□カルシウムなどのミネラルを増やしながら、コラーゲンをしっかりつくって骨質を上げることも大事。
□骨を強くする栄養素が豊富な和の食材を活用。出汁に使った煮干しも一緒に摂れる「豆腐とワカメのみそ汁」はおすすめ。

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大柳 珠美(おおやなぎ・たまみ)
管理栄養士
2006年より糖質制限理論を学び、都内のクリニックで糖尿病、肥満などの生活習慣病を対象に、糖質の過剰摂取を見直し栄養不足を解消する食事指導を行う。講演、雑誌、インスタグラムなどで、真の栄養学による糖質制限食の情報を発信している。著書に『腸からきれいにヤセる! グルテンフリーレシピ』(青春出版社)などがある。
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(管理栄養士 大柳 珠美)

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