相場展望5月19日号 米国株: 米国債格付け1段階下げ・トランプ関税一時停止後に注目 日本株: 決算発表終了、EPS低下、主要株が軟調⇒慎重さが求められる
2025年5月19日(月)14時1分 財経新聞
●1.NYダウの推移
1)5/15、NYダウ+271ドル高、42,322ドル
2)5/16、NYダウ+331ドル高、42,654ドル
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●2.米国株:米国債の格付け1段階下げの影響、トランプ関税の一時停止後に注目
1)トランプ米国政権は、貿易赤字の削減を目指し「ドル安」志向が強い
・円相場の推移:円高・ドル安の流れ
5/12 148.46円・ドル
5/16 145.57
2)米国主要経済指標が5/15発表で、好感され株価押し上げ
(1)米国4月小売売上高
(2)米国4月生産者物価指数(PPI)
3)NYダウ、貿易摩擦緩和期待で上昇続く
・米国長期金利が低下し、株式の相対的割高感が薄れ、株買いが広がった。
・長期金利の推移(米国10年国債)
5/14 4.536%
5/16 4.482
・ユナイテッドヘルスの大幅高がNYダウの上昇を牽引。
4)格付け会社ムーディーズは5/16、米国の格付けを最高位「AAA」⇒「AA1」格下げ
・現在検討されている財政案では、歳出が大幅に削減される見通しはできず、米国の財政は悪化する可能性が高いとした。
・ムーディーズの格付けは21段階あり、今回、最上位から2番目となる。トランプ関税で、米国債が大きく売られ、米国売りが鮮明となった。
・今後の懸念
・金利上昇。
・ドル安(円相場は円高)。
・トランプ関税の「上乗せ関税」が90日間一時停止であるが、停止後の状況。
●3.ベトナム政府、トランプ氏一族企業が絡む15億ドルの投資計画を承認(ロイター)
1)ゴルフコース、ホテル、不動産プロジェクトの投資計画を承認した。
2)今回の承認は、ベトナムと米国の関税交渉をしているさなかで行われた。
●4.ムディーズ、米国政府に対する格付けを最上位から1段階引き下げ「AA1」(NHK)
1)財政赤字の拡大と利払い増加の懸念を指摘。
●5.バフェット氏が金融株を売却、シティグループは保有株ゼロに(moneyworld)
●6.米国輸入物価、4月は予想外の上昇、資本財価格がエネルギー安を相殺(ロイター)
1)4月輸入物価指数は前月比+0.1%上昇、3月は▲0.4%下落していた。予想は▲0.4%下落だった。
2)4月輸入燃料価格は▲2.6%下落。
3)燃料と食品を除くコア輸入価格は+0.5%上昇、3月は▲0.1%下落していた。前年比では+0.8%上昇した。
●7.米国ミシガン大学・消費者信頼感指数、5月速報値は悪化、1年先期待インフレ急上昇(ロイター)
1)5月は50.8と、4月の52.2から低下し、市場予想の53.4を下回った。
2)1年先の期待インフレ率は7.3%と、前月の6.5%から上昇。
3)トランプ米国大統領が強硬に進める予測不能な貿易政策の経済的影響を巡る懸念が続いていることを示唆した。
4)米国消費者信頼感は過去2番目の低さ、インフレ期待は記録的高水準(ブルームバーグ)
●8.米国製造業生産指数、4月は▲0.4%低下、自動車生産の落ち込みで予想下回る(ロイター)
●9.米国4月生産者物価指数(PPI)は前年比▲2.4%と予想外に低下、5年ぶり(ブルームバーグ)
1)総じてマージンの低下を反映しており、企業が関税引上げによる影響を一部吸収していることを示唆している。
●10 .米国小売売上高は大幅に伸び鈍化、関税懸念で消費者の支出抑制を示唆(ブルームバーグ)
1)4月の小売売上高は前月比+0.1%増、市場予想は横ばい。3月は+1.7%増だった。
2)関税に伴う物価上昇への懸念が広がるなか、消費者は特に自動車やスポーツ用品など輸入品の分野で支出を控えた。
●11 .米国ウォルマート、関税対応で商品値上げへ、5〜7月期の利益見通し非公表(ロイター)
1)米国事業に関しては、5月末あるいは6月からは確実に消費者が価格上昇を実感することになるとの見方を示した。
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)5/15、上海総合▲23安、3,380
2)5/16、上海総合▲13安、3,367
●2 .アリババ、1〜3月期売上高が予想下回る、景気減速で消費者の財布の紐が固くなり同業と激しい価格競争を迫られている(ロイター)
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)5/15、日経平均▲372円安、37,755円
2)5/16、日経平均▲1円安、37,753円
●2.日本株:決算発表終了、EPS低下、主要株が軟調⇒慎重さが求められる局面
1)日経平均は決算発表シーズンをほぼ終え、目線は次の材料へ
・5/15、日経平均▲372円安=利益確定売り、円高で下落。
5/16、日経平均▲1円安と小幅安。
・今まで買い主力であった、海外短期筋の先物買いの声が聞かれなくなった。売り転換して、先物が売られる展開が見受けられる。海外短期投機筋は日経平均が38,000円を付けたことで、買い目標達成した模様。
・次の決算材料がある7月前後まで待つことになる。トランプ相互関税の「上乗せ部分」の90日一時停止が期日を迎えるポイントもでもある。
・格言「5月に売れ」もあるように、慎重さが求められている。
2)円相場、円高方向に向く
・くすぶるトランプ米国政権の「ドル安志向」に変化なし⇒円高方向に進展する可能性を秘めている。
・格付け会社ムーディーズの1段階格下げにより米国金利高⇒円高・ドル安となる確率が高まりつつある。
・中国の米国債保有残高が減少していることは、中国の米国攻撃の1つの手法と受けとめられる。中国は米国債保有で第1位だったが、前月にはさらに売却し、2位に英国が浮上し、3位まで後退した。中国は米国債投資から、金とユーロにシフトしているが一層のアクセルを踏んだようである。
3)EPS(1株当たり純利益)が急落
・EPSの推移
4/14 2,495円
5/02 2,483
5/16 2,186
・EPSからは、企業の稼ぐ力である「収益力」と「成長性」を見ることができる。成長性をみるには前期比較・翌期比較すると判る。したがって、EPSが決算発表シーズン後の5/16に下がっていることが気懸りとなる。
・EPSが下落したからと言って、日本株相場に即、反落するとはいえない。しかし、企業の1株利益の低下は、日本経済の先行き不安感を示していることに違いはない。その要因は、トランプ関税で世界経済や日本の成長力に影を落としていることにある。トランプ相互関税の上乗せ分の適用は一時90日間停止され、株価は大きく戻した。しかし、「90日間の一時停止」というには、株価の回復が強すぎる。
・相互関税のうち、基本税率10%は据え置きのままであり、上乗せ部分の協議をしているに過ぎない。また、鉄鋼・アルミニウムの25%関税と、自動車25%関税は継続している。さらに今後、「薬品」「木材」の関税引上げが検討されている。トランプ関税は世界貿易に負の影響を与え、世界経済の成長力を削ぐ。さらに、物価上昇をもたらすことや、金利上昇を押し上げる圧力となる。
・企業業績低下への危険信号が、「EPS低下」となって現れてきた可能性がある。企業利益の動向は、株価を形成する主要な項目の1つである。このため、今後のEPSの動向に注意を払いたい。
4)三井物産株価は難渋、日経平均の好調さと違い⇒先行き不透明を示唆か?
・三井物産株価の推移 日経平均の推移
2024年5/21 4,179円 38,617円
8/05 2,436 31,458
10/7 3,442 39,332
2025年4/07 2,470 31,136
5/16 2,941 37,753
・2024年5/21⇒2025年5/16比では、三井物産は▲29.6%安に対し日経平均は▲2.2%安にとどまっている。
・2025年4/07⇒5/16比では、三井物産は+19.0%高に対し日経平均は+21.2%と上昇率に差異が認められる。4/07はトランプ相互関税ショックで大幅安から、5/16の回復率を比較したものである。
・三井物産は日本の大手商社を代表する銘柄であり、バフェット効果を謳歌してきた。他の大手商社株と見ると見劣りする株価推移をしているが、日本株を象徴する銘柄であるだけに、日本株の先行きに一抹の不安を覚える株価推移となっている点に注目したい。
・なお、東京エレクロトン、トヨタなど日本を代表する銘柄も高値から低迷している。
●3.フジ・メディア、昨年度の最終的な損益は▲201億円の赤字(NHK)
●4.三菱UFJFG、発行済み株式の1.52%・2,500億円上限に自社株買い(ロイター)
●5.ワコール、発行済み株式の11.23%・285億円上限に自社株買い(ロイター)
●6.4月工作機械受注は前年比+7.7%増、外需が+13.3%増=工作機械工業会(ロイター)
●7.日本郵政、発行済み株式の8.4%・2,500億円上限に自社株買い(ロイター)
●8.みずほFG、2026年3月期純利益+6.1%増の9,400億円予想、関税影響は1,100億円
1)発行済み株式の1.6%・1,000億円上限に自社株買い(ロイター)
●9.ジャパンディスプレイ、前期▲782億円の最終赤字(NHK)
1)JDI、国内外で人員削減、日本では従業員の▲5割以上(ロイター)
■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
・6473 ジェイテクト 業績好調
・7806 MTG 業績好調
・7952 河合楽器 業績好調
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