「音がうるさいですよ」では逆ギレされるだけ…電車内で音漏れがひどい人を一撃で謝らせる最強の"3文字"

2024年5月23日(木)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Deagreez

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■今日の敵でも明日は? 関係改善の余地は残す


私は2005年までキャリア外交官として勤務し、最後は対北朝鮮外交の最前線におりました。わが国としては拉致問題について一歩も譲ることができない。同時に関係性を進める交渉もしないといけません。NOを言いながらも、次に向けた条件を提示する。そういう経験を積みました。


外交の現場においては「NOを言うことで何を得るのか」を考えることが必須です。NOを言うことで関係を完全に切ってしまうのか、NOを言ったからこそ次の交渉に進むのか。


前者のように関係を切ってしまうにしても、こちらから切るのではなく、向こうからNOを言わせるように仕向けることが大事です。状況は常に激しく変化します。今日の敵が、明日は味方になるかもしれません。関係改善の余地を残すため、NOは向こうに言わせるようにすべきです。


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わが国のビジネスパーソンは、今この瞬間に起きていることについて分析するのは得意です。これはこうでこうで……というように、すごくきれいな絵を描くんです。


ところがシナリオ思考と呼ばれる、今後局面がどう動くのかという動的な分析は、大変苦手です。どう動く可能性があるのか、それぞれがどのくらいの確率かといったシナリオを、日々作り変えていく必要があるのですが、そのための訓練を受けていないのです。意外と行き当たりばったりの人が多いようです。


もうひとつ交渉の際に日本人が苦手とするものがあります。感情と議論を分けられないことです。話し合いの場で感情的になっては、良いことなどひとつもありません。


怒りが込み上げてきても、少しの間我慢すれば、自然におさまっていきます。馬鹿らしく聞こえるかもしれませんが、私は外交交渉の最中に怒りを抑える必要があるときは、頭の中で美しい南の島の海岸を思い浮かべて心を鎮めたりしていました。


ただし演技として計算ずくで怒ってみせるのはいいと思います。


ドイツと年金に関する交渉をしたときのことです。平行線の話し合いが続く中、向こうの交渉担当官が「これは絶対に無理だ」と突然怒り出したんですよ。その結果、交渉は真夜中に持ち込まれることになりました。時間を気にすることになるのは日独どちらか。そこまで計算しているのです。怒るタイミングをよく考えているな、と感心したことを思い出します。


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さて私の経験をもとに、場面別のNOの言い方を説明します。


まず無理無体な要求をしてきたクライアントへの対処法。これは、はっきりと「無理です」と伝えることが大原則です。これを曲げてはいけません。


そのうえで相手に理由を伝えるのです。「これは上司の判断です」「世間におけるルールにのっとって、これはできません」というように、あなたが絶対に変えられないものを理由として挙げましょう。「最近はこういう風潮ですので」というように「風潮」という言葉を使うのもいいでしょう。


そうすることで相手の顔を立てるのです。あなたでは絶対に変えることのできない理由だと知れば、「しょうがないな」となる確率が高くなると思います。


また、こちらが出した提案に取引先がNOと言ってきたので、再交渉をしないといけない場面もあるでしょう。NOに対してNOを伝えるわけです。


この場面では相手に「提案を断った結果、何が起きるか。どれだけ不利益をこうむるか。こちらの提案を受け入れればどれだけの利益を得られるのか」を伝えることが大事です。「本当にNOなんですか? YESと言った瞬間にこれだけ素晴らしい話が待っているのに」という言い方がいいでしょう。


■こちらは仲間だと思わせたうえで交渉


取引先が締め切りを守らないこともあるでしょう。「締め切りを守ってください」と言っても、守らない。こんなときは、根本的に何か別の理由があることが多いのです。この仕事をやりたくないと思っていたり、この仕事そのものを納得していなかったり。そうした部分を察したうえで、「そこはちゃんと理解していますよ。でもこの局面でそれじゃあダメでしょう」と諭すような形でNOを伝えるようにしてみてはどうでしょうか。


単純にNOを言うだけではなく、相手の立場を考えることが大事だと思います。時には相手を持ち上げる。相手がこちらを味方だと感じてくれれば、変わることもあるわけですよ。


たとえば近隣住民で、ゴミ出しルールを守らない人がいたとしましょう。その人には、ひょっとしてその人なりの理由があるかもしれません。正面からNOを突きつける前に、その人の事情を推察してみましょう。


仕事の関係でどうしても朝に家にいないとか、家族が入院したりしているとか。そういう事情のある人でしたら、「これこれこのような状況だということはわかっていますが……」と伝えることで、相手は「ああ、理解してくれているんだ」という気持ちになり、あなたに対して仲間意識を持つ可能性が出てきます。仲間であるあなたからのNOなら、「わかりました」となる確率が上がると思います。


一方、行政・公務員相手に要求を通そうとする場合は、そのような方法を用いても無駄です。公務員というのは、ルールにのっとらないと動かないからです。たとえあなたの言い分が正しいとしても、公務員は「こういうルールですから」と言うだけです。直接言っても絶対に変わりません。


ルール順守を逆手に取りましょう。ルールは誰が決めているのか。それは行政ではなく、いわゆる世間様です。住民の代表である議会、住民の意見を伝えるマスメディアの力が絶大なのです。そこで「○○先生に相談しようと思います」「××新聞に知り合いの記者がいるんだよね」というように、具体的に議員やメディアの名を出すと、行政は動きます。


ルールを作る側からの言葉には、説得力があります。電車の中でイヤホンからの音漏れのひどい人がいたとしましょう。その人にNOを伝えるには、ルールを作る側、駅係員や車掌といった鉄道会社の人に言ってもらうのがいいのです。


とはいっても車掌が回ってこないことがほとんどでしょう。その場合の効果的な方法は、相手の目を見て「あなた、それを止めてください」と言うことです。「音がうるさいですよ」という一般論を伝えても、相手は「なんだ」となりますが、「あなた」という一言が入ると効くんです。相手も音漏れしていることに気づいているんですよ。正面から言われると「ああ、すみません」と止めることが多いと思います。


日本人はNOを言うことが不得意です。ですが、言わないといけない場面はたくさんあります。前述のように相手がどういう反応を示すかシナリオを作ったうえで、伝えてみてください。もうひとつ大切なのは、最初にNOを言うこと。日本人は、かくかくしかじかこうでこうで……と長々と話しがちですが、それでは結論が曖昧になって相手に真意が通じませんので。


※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月31日号)の一部を再編集したものです。


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原田 武夫(はらだ・たけお)
原田武夫国際戦略情報研究所CEO
東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務省に12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。在任中は、6カ国協議や日朝協議等に多数出席した。『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』など著書多数。
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(原田武夫国際戦略情報研究所CEO 原田 武夫 構成=本誌編集部)

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