サンダル履きのような気軽さ、乗客同士の触れ合いも魅力…城谷邦男・日本バス友の会顧問
2025年5月25日(日)12時55分 読売新聞
[楽しいバス]<4>
コロナ禍後も利用者が回復しない苦しい状況の中でも、バスの事業者は乗客を楽しませる工夫を各地で続けている。バス会社が置かれた現状や、利用者がこれからできることなどについて、専門家に聞いた。
最も身近な公共交通といえるバスは、まさに庶民の足。電車に乗るのは少しハードルが高いと感じる人は多く、よそ行きの感覚があるはずだ。一方で、バスはサンダル履きでも気軽に乗ることができる、という魅力がある。
地方でバスに乗るとき、私はよく一緒になった乗客に話しかける。聞き慣れない地元の言葉が聞こえたら、少し勇気を出して声をかけている。
例えば、目的地の最寄りのバス停について聞いてみるなど、内容は何でもいい。バスは地域によって、前乗りか後乗りか、前払いか後払いかなどが異なっている。こういった違いを乗る前のバス停で尋ねてみてもいいと思う。
そうすると、目的地以外のおすすめスポットを教えてもらえることもあり、中には、スーパーで買ったばかりの食べ物をお土産として渡そうとしてくれた人もいた。地域の人との触れ合いが生まれるのが魅力の一つだと感じる。
また、路線バスは遠回りをして目的地に向かうことがあるが、歩くような気持ちでゆっくり景色を楽しんでいると、その地域のことがよく分かってくる。車窓から興味をひかれる寺社などを見付けたら、気軽に降りられるのも停留所が多いバスの魅力。本数が少ない路線では気をつけなければいけないが。
バスの楽しさは旅行に出なくても味わえる。家の近くを走るバスに乗り、「こんな所があるんだ」といった新しい地域の魅力が発見できることもある。乗り放題の1日乗車券を販売しているバス会社もあり、いろいろ巡ると1日しっかり楽しめる。
バス好きの興味はさまざまで、車体を見るのが好きな人、写真を撮るのが好きな人、乗るのが好きな人、エンジン音を楽しむ人など、人それぞれ。ぜひ、気軽にバスを楽しんでほしいと思う。
路線維持、利用者も知恵を…東京都市大教授・西山敏樹さん
乗り合いバス事業者の9割近くは赤字で、経営状態はとても厳しい。大きな要因は自家用車の普及だ。
一部で残っていた通勤需要もコロナ禍で激減し、収束した後も戻りきっていない。毎年4月と10月にあった定期券収入が減少し、それが資金繰りの悪化につながっている。新たな投資ができず、利便性は低下し、さらに利用者が減るという悪循環に陥ってしまっている。
運転手の働き方改革が進められることで人手不足が加速し、路線の廃止を余儀なくされたり、本来稼ぎ頭である高速バスの運行を取りやめたりするケースも出ている。収益が悪化する中では、給与水準を上げることも難しく、若い運転手がトラック業界に転職する動きもある。
バス会社はこうした窮状をもっと訴えていくべきだ。バスの利用者も、ある日突然、自分が乗っている路線が廃止されるよりも、数十円の値上げに協力してくれるのではないか。値上げには多くの反対意見が挙がるが、その声は本当のバス利用者とは限らず、乗らない人からの意見の場合もある。
バスを維持するために何が必要かと考えたときに、利用者ができるのは、文句を言うことではなく、乗ることだ。ある自治体で「年に3回はバスに乗ろう」と訴えたところ、1年で乗客が7万人増えた例がある。別の自治体では、ショッピングセンターとも協力し、一定額の買い物をした客にバスの無料乗車券を配布する利用促進に取り組んでいる。
自動運転技術の導入も期待されているが、そこまでバス会社が持つのかも分からない状況だ。どうすればバスを維持できるのか、バス会社や行政はもちろん、利用者もともに考えていく必要がある。(おわり。この連載は、及川昭夫と加藤亮が担当しました)