ジャニー喜多川と山川穂高の共通点、現行法ならどちらも「強制性交等」の疑い

2023年5月27日(土)6時0分 JBpress

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 今年3月のWBCの侍ジャパンのメンバーで、プロ野球・西武ライオンズの山川穂高選手(31)が、知人女性に対して性的な暴行に及んだ強制性交の疑いで書類送検されたのは、今週23日のことだった。


強制性交等罪はかつての「強姦罪」

 容疑者となった山川は、昨年11月に20代の女性と都内で食事をした後、港区のホテルで女性を無理やり押し倒し、衣類を脱がし、膣やその他の下半身などから出血するほどのけがを負わせたとして、当初は「強制わいせつ致傷」の容疑で警視庁が被害届を受理した、と報じられていた。

 取材に山川本人はホテルに行ったこと、女性にけがを負わせたことは認めたものの、「無理矢理」であったことは一貫して否定していた。

 それが送検時には「強制性交」の容疑になっている。

 強制性交等罪は、かつての「強姦罪」だ。それが2017年に刑法が改正され、強制性交等罪に変わって厳罰化されている。

 具体的には、強姦罪で、

<暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する>

 と定められていたものが、

<13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下『性交等』という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する>

 となった。5年以上の有期刑に執行猶予はまずつかない。だから、山川が起訴されて、有罪となった場合は、実刑が確実のはずだ。


性犯罪は厳罰化の流れ

 また、この刑法改正にあわせて、強制わいせつ罪が親告罪でなくなったことは、以前にも書いたが(5月15日付:ライオンズ・山川穂高が認識できていない罪の重さ、そして悲しき能天気ぶり)、それは送検容疑の強制性交等罪でも同じだ。

 親告罪とは、被害者による告訴がなければ起訴することができないと規定された犯罪のことで、被害者と示談が成立するなどして、被害者が告訴を取り消せば、起訴されることはなかった。それが親告罪ではないとなると、告訴がなくても起訴できる。

 もっとも、被害者との示談の有る無しは、検察官の起訴の判断材料ともなるが、被害者の処罰感情が強く、示談もないまま起訴が見送られるようなことになれば、被害者が検察審査会に申し立てる可能性が残る。

 検察審査会は、一般市民からくじで選ばれた11人の検察審査員が、検察官の不起訴処分の当否を審査する。そこで「起訴すべき」と判断されれば、検察は再び捜査の必要が出てくる。それでも不起訴とし、もう一度、検察審査会に申し立てが行われ、そこでも「起訴すべき」とする2度目の決議によって、被疑者は強制起訴されることになる。

 同じように一般市民から選ばれた裁判員が参加する裁判員裁判が2009年からはじまって、厳罰化の傾向が著しかったものが性犯罪だった。一般市民の性犯罪に対する厳しい姿勢が見て取れるひとつの証しだ。ただ、強制起訴となっても、福島第一原子力発電所の事故をめぐる東京電力旧経営陣3人や、小沢一郎元民主党代表などのように、有罪となることはほとんどない。

 それでも、2017年の刑法改正で性犯罪への厳罰化が進んだことは、民意の反映と時代の趨勢を表している。


男性も被害の対象に

 ここでもう一度、強姦罪が強制性交等罪に変わった条文を確かめてほしい。「3年以上の有期懲役」が「5年以上」となって、まず執行猶予がつかない厳罰となったことは事実だが、その他に、肛門性交、口腔性交も処罰の対象となって「女子」の文言が消えている。これは、それまでの女性ばかりでなく、男性も被害の対象となったことを意味する。

 つまり、いま世間を騒がせているもうひとつの性加害疑惑、すなわちジャニーズ事務所の創業者で前社長のジャニー喜多川氏(2019年死去・享年87歳)による所属タレントへの性加害について、これが事実であるとすると、いまの法律ならジャニー氏も山川と同じ強制性交等罪の嫌疑がかけられることになる。「男性が男性に」だから「男性が女性に」よりも罪が軽いということはない。同じ罪だ。

 ジャニー喜多川氏による所属タレントの性被害については、今年3月にイギリスの国営放送「BBC Two」がゴールデンタイムに『Predator:The Secret Scandal of J-Pop(邦題「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」)』と題する1時間のドキュメンタリーを放送して波紋を広げると、4月には日本外国特派員協会で、ジャニーズJr.に所属していたカウアン・オカモト氏が記者会見を行なって、中学校を卒業する直前に「ジャニーさんに口淫されました」と赤裸々に告白している。

 実は、この会見で記者から強制性交等罪についての質問が出ている。強制性交等罪の時効は10年、怪我をした場合は15年。加害者が死亡していても警察は捜査、書類送検できるとした上で、そうした法的措置をジャニー氏に対して求めるのかどうか。

 被害を告白したカウアン・オカモト氏は、その法律のことをいまはじめて知ったとしつつ、「そこまでは考えていない」と答えている。

 一方でカウアン氏は、「ジャニーさんには個人的には感謝の気持ちを今も持っています。僕のエンターテインメントの世界はジャニーさんが育ててくれたものだと思っているからです」とも、会見で述べている。

 ここに性被害を受けた側の複雑な感情が現れている。記者会見で告白したほどだから、ジャニー氏の行為を指弾する気持ちはあるはずだ。だが、その同じ口で感謝の言葉を語らなければならない。それが精神的な重荷となる。


加害者が亡くなっているのに再発防止策にどんな意味が

 こうしたこともあって、性犯罪は親告罪ではなくなった。性犯罪の被害者は、肉体的、精神的の両面で大きな被害を受ける。そんな被害者に告訴の検討を迫ることは、さらに精神的な負担を負わせて、苦しめることになるからだ。

 捜査当局ですら被害者に配慮を必要とする。相談窓口に「はい、どうぞ」なんて軽々しく言えるものでもない。そんな厳しい現実をどこまで承知してなのか、ジャニーズ事務所は26日に、3つの新たな対応策を発表している。

「心のケア相談窓口」を31日に開設し、「心を痛めたジャニーズ事務所の所属経験者」を対象として、心療内科医または公認心理師が個別対応を行う。

「外部専門家による再発防止特別チーム」を設置し、前検事総長の林眞琴弁護士を中心に、事務所におけるガバナンス(企業統治)問題などを把握し、再発防止策を提言する。

 また「社外取締役」に3人が就任し、再発防止策の確実な遂行を含めた、経営改革を推進するとしている。

 だが、そもそも今回の問題は、後にも先にも、いまのところジャニー喜多川氏による性加害しかなく、その人物が亡き後で「再発防止策」に何の意味があるのか。

 まして、社外取締役には今年のWBCで侍ジャパンのヘッドコーチを務めた元日本ハムの白井一幸氏が就くというから驚く。山川との共通点を際立たせて、そこに意味があることなのか首を傾げたくなる。

 そうでなくても、日本国内の性犯罪に対するさらなる厳罰化は、すでに進んでいる。


「故人だから追及できない」で終わらせていいのか

 ジャニーズ事務所が新たな対応策を発表したのと同じ26日。衆院法務委員会では、「強制性交等罪」を「不同意性交等罪」に変更し、それまでの「暴行又は脅迫」の要件に加えて、例えば恐怖で身体が硬直して抵抗できないなどの状況を見据えて、「同意しない意思」を示すことが困難な状況でも処罰できるようにする刑法改正案が、全会一致で可決した。

 あわせて、性行為への同意を判断できるとする「性交同意年齢」を13歳から16歳に引き上げる。16歳未満(中学生に相当)との性交は、同意の有無にかかわらず違法となる。今月中には衆院本会議で可決され、参院に送られる見通しだ。

 この改正案に当てはめれば、元所属タレントが告白するジャニー氏の行為は、犯罪以外の何ものでもない。

 西武ライオンズの山川穂高と、ジャニーズ事務所の創業者のジャニー喜多川氏との共通点。それはいまの日本の刑法で問われるとすると、同じ罪になるだけでなく、彼らを取り囲む環境の性犯罪に対する認識が、現実社会からかけ離れていることだ。果たして、不起訴だからいい、故人だから追及できないで済まされるものだろうか。

筆者:青沼 陽一郎

JBpress

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