今年は「富山産の大粒ホタルイカ」をスーパーで買える…例年なら出回らない高級食材が特売されているワケ

2024年4月25日(木)10時15分 プレジデント社

ボイルされた富山県産のホタルイカ - 写真=筆者提供

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富山県でホタルイカが豊漁だ。昨年は歴史的な不漁だったが、今年はその5倍以上の漁獲量が見込まれている。時事通信社水産部の川本大吾部長は「例年なら料理店向けに流通する富山県産が、今年はスーパーで安く売られている。大粒でワタの詰まったホタルイカが食べごろだ」という——。
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ボイルされた富山県産のホタルイカ - 写真=筆者提供

■地震の影響を回避してホタルイカが大漁


温暖化や海洋環境の異変などで、このところサンマやサケ、イカをはじめ、メジャーな魚介の不漁が続いている。この春、初ガツオなどの豊漁に期待がかかるが、一足早く、日本海で獲れるホタルイカが、漁業関係者の努力もあって、例年以上に好調な水揚げとなっている。


今年の元日に発生した能登半島地震は、石川県で甚大な被害をもたらしたことは記憶に新しい。隣接する富山県でも大きな被害が出ており、漁業被害も少なくなかった。ホタルイカ漁を目前に控え、県内の漁港では地割れや地盤沈下が発生したほか、ホタルイカを獲る定置網も破損。漁場となる富山湾内でも海底の地形が変化するなど「例年通りホタルイカ漁ができるのだろうか」と不安視された。


だが漁業関係者の漁港機能の回復、漁具の復旧への努力によって、3月1日に始まった富山湾でのホタルイカの定置網漁は、好調なスタートを切った。富山県農林水産総合技術センター水産研究所(滑川市)によると、3月1カ月間の水揚げ量は計1153トン。昨年3月は、わずか70トンにとどまったため、まさに大漁。漁業関係者のほか、加工・流通業者などもホタルイカの活発な取引を継続している。


■2023年は歴史に残る記録的不漁だった


そもそも富山県のホタルイカは、年によって豊漁・不漁の波が大きく、毎年3〜6月までの漁期中に「たくさん獲れていたのに、急にぱったり獲れなくなることもある魚種」と同研究所の専門家も悩ますほど、未解明な点が多い。


これまで十数年の水揚げ量をみても、2013年に約2500トンだったかと思えば、5年後の18年にはおよそ700トンに落ち込み、その後も増えたり減ったりと不安定。昨年2023年はわずか418トンと、データが残る1953年以来、過去最低の水揚げで終漁。それだけに、今年のスタートダッシュは過去にないほどの大漁で、今後の漁にも大きな期待を寄せる向きが多い。


富山県農林水産総合技術センター水産研究所のデータを基に作成

同研究所が3月1日に発表した「令和6年ホタルイカ漁況の見通し」によると、今シーズンの県内の漁獲量は2238トンと過去10年間の平均値(1261トン)を大幅に上回ると予想。豊漁の目安とされる2000トン以上の水揚げが期待できると分析している。


前述の通り、すでに今年の3月に1153トンの水揚げがあり、シーズン予想値の半分以上を稼いでいるわけだが、「4月も順調に漁獲されている」(富山県の漁業関係者)といい、予想を大幅に超える大豊漁となる可能性もありそうだ。


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ボイルせず冷凍した状態で出回る富山県産ホタルイカ - 写真=筆者提供

■今年は富山湾への回遊に適した海況


昨年の大不漁から一転、富山湾でたくさん獲れているのはなぜか。同研究所によると、確かな要因はわからないとしながらも「日本海を回遊する群れが大きいことに加え、海流や水温といった海況条件が湾への流入に適しているのではないか」とみる。


ホタルイカが日本海を回遊しても、富山湾へ入ってこなければ県内の漁獲は上がらない。昨年はそうした状況が顕著で、過去最少の水揚げに終わってしまった。湾への流入が極端に少なかったのに対し、日本海への回遊はあったため、兵庫県ではそれなりに漁獲され、東京などでも旬の味覚を味わうことができた。


ホタルイカといえば富山県が有名だが、実は水揚げ日本一は兵庫県。香住港や浜坂港といった但馬地区で、富山県以上の生産がある。なぜ富山県産が有名なのかといえば、漁業者だけでなく、一般の人も楽しませる沿岸での幻想的な風景が観光資源となっているためであろう。


富山湾に入ったホタルイカは、産卵のために岸に寄ってくる群れが、夜間に青い光を放ちながら一部は浜辺に打ち上げられる。この「身投げ」と呼ばれる光景が、春の風物詩となっており、観光客向けの見学ツアーも人気となっている。


■都市部のスーパーに例年出回るのは兵庫県産


一方、兵庫県の漁は沿岸でなく、遠い沖合での底引き網漁でホタルイカが漁獲される。兵庫県漁業協同組合連合会(明石市)によると、漁獲時に船上で凍結されるため、漁港に水揚げされるときには「ほとんどが死んでいて、青く光ることはない」(同)のだとか。まさに漁業だけの世界で、観光客が見学することはできない。


兵庫県内のホタルイカ水揚げ量は、2017年には5000トンを超え、昨年は約2700トンで低調だったという。今年は富山県同様に順調な水揚げがみられ、漁港は大盛況。県内外に春の味覚が流通し、東京など都市部のスーパーなどでも大量に売られている。


兵庫県但馬水産事務所のデータをもとに作成

富山県と兵庫県のホタルイカ。味は大差ないようだが、見た目は大きく違う。産地を中心に一部は生のまま流通しているが、大半はそれぞれ漁港付近の加工場でボイルされ、広域的に流通し、スーパーなどの店頭に並ぶ。明らかに富山県産のほうが大粒で、筆者が重量を測ってみると富山県産が5〜8グラム、兵庫県産が3〜5グラムといったところだ。


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左が富山県産、右が兵庫県産 - 写真=筆者提供

■豊洲市場でも富山県産の仕入れにシフトする動き


豊洲市場の卸値は富山県産のほうが高く、例えば不漁だった昨年の4月中旬は、富山県産がトレー1枚(300〜400グラム)当たり1200〜1300円で、兵庫県産が同400円前後。3倍くらいの差があり、スーパーなどの小売りでは主に兵庫県産を扱い、富山県産は料理店向けなどになっていた。したがって通常、ホタルイカといえば一般には、兵庫県産がポピュラーな存在なのだ。


ところが、今シーズンは事情が違う。すでに店頭で「今年のホタルイカは大きいな」と感じた人も多いだろう。豊洲では富山県産の豊漁を受け、4月中旬の卸値は1枚500円前後の安値に。兵庫県産は同400円前後と例年と大差なし。


豊洲の競り人によれば、「スーパーなども春の特売対象として、これまで兵庫県を扱っていた業者が富山県産に切り替えたり、兵庫県産と一緒に扱ったりという傾向が目立ってきた」という。料理店の一品料理でなくても、気軽に富山県産の「大粒・腹ワタいっぱい」の濃厚な味を楽しめるというわけだ。


■消費が鈍る兵庫県産は原料用として需要を喚起


富山県産の豊漁により、兵庫県産のホタルイカに影響が出ている。消費が鈍っていることで、各業者は冷凍して沖漬けの原料用として保存したり、ボイルのほか、生のまま冷凍した透明感あるホタルイカを出荷したりして、需要を喚起している。ホタルイカの生食については、寄生虫・アニサキキスの心配があるが、冷凍すればOKだ。


兵庫県では、瀬戸内名産・イカナゴのくぎ煮作りが終わった後、残ったタレ(醤油やみりんなど)で、ホタルイカの佃煮を作ることも多いという。今年は「イカナゴがあまり獲れないため、たくさん獲れているホタルイカだけを煮て佃煮にする人も多いのではないか」と兵庫県漁連。


富山県、兵庫県産ともに、豊漁となっているホタルイカ。酢味噌やワサビ醤油、ショウガ醤油などはもちろん、なめろうや茶わん蒸しなどもおいしいという。筆者としては、エビなどほかの海鮮と、にんにくスライスを入れたオリーブオイルで炒め、ゆでたパスタにバジルソースを絡めたジェノベーゼ風がおすすめ。調理前にはホタルイカの目玉は取り除くのを忘れずに、この機会に、お好みの味で春の味覚を堪能してみてほしい。


写真=筆者提供
ホタルイカのジェノベーゼ風パスタ - 写真=筆者提供

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川本 大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006〜07年には『水産週報』編集長。2010〜11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)など。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)

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