残高の数字を見てニヤニヤしている人が危ない…投資で「最悪、命を落としかねない人」に共通する口癖と性格

2025年5月29日(木)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/primeimages

投資で成功する人・失敗する人はどこが違うのか。FPの黒田尚子さんは「投資で成功できる人は、正しい金融知識を持ち、儲けようとがっつくことなく、バランス感覚のある人だ」という——。

■少し立ち止まって考えたい「投資に向いている人・向いていない人」


日本経済がトランプ関税に翻弄される中、FPである筆者のところにも、先行き不透明な状況下で「投資を続けても大丈夫か?」という経験者からの声と同時に「今、投資を始めるべきか?」といった“新人さん”からの相談も多く寄せられている。


2024年から新NISAが始まった影響もあり、投資信託の保有者比率も急速に増えている。だが、だからといって国民の金融リテラシーが向上したわけではない。「NISAってどこで買えますか?」と質問する相談者もいるほどだから、正しい金融知識を持たないまま雰囲気に流されて、投資スタートした人も多いはずだ。


このような方々にとって、今回のトランプ関税を端緒とする経済状況の混乱は、自身のリスク許容度を冷静に見極め、ポートフォリオを見直すいい機会になるかもしれない。


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■20代〜30代は、本当に「リスク許容度」が高いのか?


マネー相談を受けていて思うのは、新NISAの影響を最も受けているのは20〜30代の若年層だということだ。彼らの弱点は「リスク許容度」が高くないことだ。


一般的に、この年代は中高年に比べて時間があるため、もし失敗しても取り戻せる、という点で「リスク許容度が高い」とされている。たしかに、長期的な視点ではそうだが、この世代の最大の問題は「収入や貯蓄額が少ない」という点である。


筆者は、投資をするのは、生活防衛資金(生活費×3カ月分)を貯めてから、とアドバイスしているが、これを守る人は少ない。「相場が右肩上がりなのに、チマチマ貯めている時間がもったいない」と、リスク資産(株式や投資信託)に全フリしてしまう人が後を絶たない。


若年層は、病気のリスクは相対的に低い。だが、精神疾患に関しては統合失調症、うつ病など若いうちから発症するケースも多く、交通事故の発生率は40〜50代よりも20〜30代のほうが高い。思いがけぬ事故や病気という災難に襲われ、働けなくなるリスクがあるのだ。そんな時に、資産を「全フリ」していると痛い目に遭う。


■「自分は投資がうまい」と勘違いしてしまう人々


情報の多さと速さが問われる現代、若年層ほどSNSやネットニュースに踊らされやすく、投資への過信も芽生えやすい。とくに、ここ数年は、資産が右肩上がりの人も多く、急激に利益をもたらされる場合、自己評価が過大になって「自分は投資がうまい」と勘違いしてしまうこともある。


ちょうど1年ほど前、レストランの隣席に20代前半とおぼしき、男性2人客がいた。どうやら片方の男性が投資で収益が出たようで、まだ投資を始めていない相手に「人生100年時代のライフプランを考えると、早いうちから投資は始めたほうがよい」などと上から目線で受け売りの言葉を相手に浴びせて得意げにしている。


おもな情報源はYouTubeのようで、そもそもの金融知識は多くなさそうだ。基本的に専門的知識がある人は、友人に対して安易に投資を勧めたりしない。彼のように投資を始めて、幸運にも多少利益が出ると、自分は投資が得意だと思い込んで周囲に投資を勧める人に限って、商品知識が乏しく、リスク管理や資産配分に無頓着という場合が少なくない。


■「定食」よりも「パスタや丼もの」一択の人は投資に向かない


投資ビギナーが肝に銘じるべきは「自己認識力」と「バランス」である。


投資を成功させるためには、企業や経済状況だけでなく、自己分析が欠かせない。自分の欠点や弱点を理解し、コントロールできる人は、投資でも感情のコントロールが可能である。投資が向いている人は、どこかに偏らず、バランスを取ってリスクを分散する習慣が身についていることが多い。


逆に自己認識が甘い人や自分の能力を過信しがちな人は、感情の起伏や周囲の情報に左右されやすく、長期的な視野で投資を継続できない。「今なら、S&P500かオルカン(オール・カントリー)一択でしょ」が口癖で、投資のバランスが悪い。


これを食事に例えてみれば、投資向きの人はバランスよくさまざまなものがセットになっている「定食」派。一方、S&P500やオルカンに一極集中してしまっている人たちは単品の「パスタ」「丼」派のイメージだ。


写真=iStock.com/kuppa_rock
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投資すること自体、間違いではないが、特定の銘柄や商品に依存しすぎると、一つの失敗が大きなダメージとなりうる。自身のライフステージに合わせて、バランスよく銘柄を組み合わせることが重要だ。


もし、今回のトランプ関税のあおりで損をしたなら、投資額やポートフォリオを思い切って見直したほうがいいかもしれない。若い世代ほど、長く続けられることが一番の「勝ち」につながるのだから。


■「行きつけのお店しか行きたくない」という人は投資に向かない


歴史が証明しているように「暴落」は定期的にやってくる。だがそんな時、冷静かつ柔軟に対応できる投資家はそれほど多いとは言えない。それはベテランでも難しいのだ。


以前、相談を受けた会社員のAさん(50代男性)は、投資信託の積立を始めて約10年になる。当初から、バランスファンドや海外株のインデックスファンドに投資してきて、評価額は1000万円以上ある。


ところが先日、がん罹患が発覚した。Aさんは、「保険はコスパが悪いから」と、がん保険や医療保険を解約して、その分も投資に回してきた。Aさんの投資目的は、老後資金ではなく、「効率よく資産を殖やす」こと。本来ならその成果の一部でも取り崩して、生活費、住宅ローン返済、子どもの教育資金に回せれば、安心してがん治療に専念できるはずだ。


しかし、Aさんは、積立を始めた際、当時の担当FPに「最低10年は取り崩さないように!」と言われたそうで、絶対に解約しませんと言い張っている。


たしかに、投資のセオリーは「長期・積立・分散」である。長期とは「10年」以上を指すことが多い。なぜなら、短期的な相場の上下を乗り越えて、経済成長や企業の利益成長がリターンに反映されるまでには、それくらいの時間がかかるからだが、「絶対」ではない。例外もある。がん罹患のようなケースはそのいい例だろう。


聞けば、Aさんは外食や買い物など「行きつけのお店しか行きたくない」タイプで、自分が最初に決めたことは絶対守りたい人だった。初志貫徹は美徳の一つだろうが、逆に言えば、変化を嫌い、柔軟に対応できない人は、投資や家計管理においてはリスクにもつながる。


Aさんのように自分の考えやスタイルを変えられない人は少なくない。例えば、住宅ローンやスマホ代、サブスク料金の見直しなど、家計改善できるチャンスを見逃している人はかなりの数にのぼる。


■投資で儲けたお金を万が一に充当させる考え方はキケン!


Aさんの事例からの「学び」をもうひとつ。


彼は前述したように、投資分を捻出させるため民間医療保険を解約していた。実は投資ブームになってからというもの、そういう人が目立つ。なぜ解約するのかといえば、「保険不要論者」だからだ。


彼らのほとんどは、「日本は公的医療保険や高額療養費など社会保険が手厚いので、民間保険は不要。老後のために資産運用をしたほうがいい」と考えている。そして、「病気やケガをしたときは、投資で儲けた分を回せばOKですよね?」と自信満々に語る相談者もいる。


かつて乳がんと闘った経験のある筆者としては、そうした考え方は大変危険でやめたほうがいいと思う。


その理由は、突然お金が必要になった時期に、投資状況が良いと限らないからだ。投資は、健康なときも買い時より売り時のほうが見極めは難しい。価格が上昇傾向であれば、明日はもっと上がるかもと欲張り、下落傾向にあれば、もう少し値が戻ってから売ろうとする。


例えば、Aさんと同じく、自分や家族が、がんになったとしよう。


がん告知後は、とにかく時間との勝負だ。どの病院でどんな治療や検査を受けるのか。セカンドオピニオンを受けるのか。仕事はどうするのか。治療費はどこから捻出するのか。がんになったことを周囲にどこまで話すのか……。考えなければならないことが山積みである。


そんな中、悠長に売却のタイミングをはかっていられるものではない。もし、医療保険に加入していれば、そうした煩わしさはない。


写真=iStock.com/da-kuk
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ここで、がんに罹患して大変な思いをしたというBさん(60歳男性)の話も参考にしてほしい。


Bさんは、元銀行員で金融知識は豊富だ。定年後に保険も見直しをして解約あるいは保障額を減らしたという。30年以上、個別株を中心に運用していており、何かあったら資産を取り崩せばいいだろうくらいに考えていたそうだ。


「結果的には、株を売却して治療費などに充てたんですけど、絶対に人にはお勧めしませんよ。自分の命がかかっている選択を迫られている時に、チャートとにらめっこする心の余裕なんかありません。今は、再発・転移に備えて、ある程度の収益がでたものは売却して、すぐに使えるようにしています」


■投資の「中毒性」にはまってはいけない


筆者も40歳で乳がんに罹患後、流動性資金の割合を高めにしている。相場が良い時に、イザという時がくるとは限らないし、どれだけ資産を殖やしても、自分が使えなければ意味がないからだ。


投資をしていて、残高がどんどん積み上がっていけば気分は上々だ。しかし、投資には「中毒性」もある。SNSやアプリが普及して、「リアルタイムで値動きを確認できる」ことが、投資の沼にハマりやすくさせているといった指摘もある。


昨秋に相談を受けたCさん(70代男性)も、がんに罹患した後に相談を受けた一人だ。前立腺がんの患者で、2年ほど前に摘出手術を受け、今は年1回の経過観察中。症状は安定しているが、年齢的に終活を検討したいとのことだった。


10年以上、コツコツと日本株のアクティブファンドの積立を続け、保有期間が長くなるほど、資産残高が増えていた。がん再発・転移などに備えて、現金など流動性資金の割合を高めることを提案したが、途中で取り崩すのが「もったいない」としきりに言っていた。「毎日のように口座の残高をチェックして、ニヤニヤと楽しんでいるんです」と。


写真=iStock.com/wing-wing
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ある意味、資産運用が老後の楽しみ、ひょっとすると残高の数字を眺めるのが唯一の幸せタイムなのかもしれない。だが、FPの立場からすれば、使わずに亡くなってしまうほうが、よほど「もったいない」と思ってしまう。やはり、バランスをとって備えるのが賢明だが、あまり聞く耳を持ってくれないことも多い。


「残高をみながらニヤニヤ」する自分流のやり方に固執するのは自由だ。しかし、もしも必要な治療を受けられずに命を落としてしまっては元も子もない。どこかバランスの悪いCさんも投資向きの人とは言えないのかもしれない。


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黒田 尚子(くろだ・なおこ)
ファイナンシャルプランナー
CFP認定者、1級FP技能士。一般社団法人「患者家計サポート協会」顧問、城西国際大学・経営情報学部非常勤講師もつとめる。日本総合研究所に勤務後、1998年にFPとして独立。著書に『親の介護は9割逃げよ 「親の老後」の悩みを解決する50代からのお金のはなし』など多数。
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(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)

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