ビジネスは当たり前のことを当たり前にするだけでいい…ビジネスを成功させる"チームのタスク管理"

2025年5月29日(木)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ngkaki

ビジネスで利益を上げ続けるにはどうすればいいか。複数の中堅・中小企業やスタートアップの経営をしてきた小松裕介さんは「トヨタが長年にわたり競争優位性を確保できているのは、世界一と称されるケイパビリティがあるからだ。当たり前のことを当たり前に実行するだけでビジネスは成功できる」という——。(第1回/全2回)

※本稿は、小松裕介『1+1が10になる組織のつくりかた チームのタスク管理による生産性向上』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。


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■大企業と中小企業との一番の違いはここ


本稿では、中小企業の組織力獲得の根幹となるマネジメントシステム「チームのタスク管理」の効果について説明する。


私は中小企業の経営の仕事を長らくやってきており、その間で様々な業種業態や成長ステージの会社経営に関わってきた。このようなキャリアのため、上場企業の経営者やプライベート・エクイティ・ファンドの友人からどのように会社経営をしているのかよく聞かれるのだが、決して難しいことはしていない。


教科書どおりの組織論に則って、当たり前のことを当たり前にして、ケイパビリティの獲得をしているだけである。


ケイパビリティとは、例えばスピード、効率性や高品質など、会社が全体として持つ組織的な能力や、その会社が得意とする組織的な能力のことをいう。


チームで働くとは何かについて考えて、しっかりと組織を作れば、あっという間に多くの利益を創出できる会社を創ることができる。


中小企業の企業価値向上を仕事にしてきた私からすると、大企業と中小企業との一番の違いは、当たり前のことを当たり前にできるかどうかにある。


■細かい入力作業なくして、組織全体の生産性の向上は実現できない


当たり前のことというのは、オフィスを清潔に維持し整理整頓することができる、時間どおりに集合時間に集まることができる、決められた日時に定例会議を行うことができ議事録を作成することができる、会社が指定するコミュニケーション・ツールでやりとりができる、そして、タスクの期限を守ることができるなど、決して大きなことでも難しいことでもない。


組織の構築やコミュニケーションの整備をした後に、チームのタスク管理を導入することによって、タスクの見える化が実現するわけであるが、その運用によって、社員の能力や意識も変わってくる。


まずは、社員が当たり前のように、チームのタスク管理の前提となるタスクの入力を日々行うことができるようになる。このタスクの設定作業や更新作業がなければ、そもそもタスク管理は始まらない。


こちらも自分のためだけではなく、会社のため、他で働く社員のためにタスクの入力をするという献身性が求められるわけだが、これを持続するのが本当に難しい。


日本のサラリーマンならば自分が担当するタスクの期限はしっかりと守ることができると思うが、売上に直結せず、また、社内の評価とも連動しないような細かいデータの入力作業は、どうしても優先順位が劣後してしまうため滞りがちなのだ。しかし、この細かい入力作業なくして、組織全体の生産性の向上は実現できない。


■チームで働く上で最も大事な“たった1つ”のこと


次に、部署ごと、役職者以上などで、ちゃんとした定例会議を実施することができるようになるなど、コミュニケーションのレベルが上がる。


組織で働く以上、社員間で意思疎通がしっかりできていなければ、どうしてもミスに繋がってしまう。


コミュニケーションの中でも、例えば会議の運営はなかなか奥深く、会議の目的、会議メンバー、開催頻度、そして、議事録の作成など論点も多い。社内の会議のレベルが上がるだけで、業務効率も上がるし、リスクマネジメントも行える。



小松裕介『1+1が10になる組織のつくりかた チームのタスク管理による生産性向上』(実業之日本社)

また、チームのタスク管理によって担当者、タスク内容、期限などを意識してコミュニケーションを取ることができるようになるため、チェックポイントを押さえた効率的なコミュニケーションも行えるようになる。チームで働く上でコミュニケーションほど重要なことはないだろう。社員はみな、このビジネスパーソンとして必須のスキルを身につけることができる。


最後に、何と言ってもだが、タスクの設定ができ、タスクの期限を守れるようになる。


そもそもタスクの設定ができるということは、会社が向かうべき方向を理解していて、業務全体を順序立てて時系列に、もしくは、論理的に分解できることを意味する。これはしっかりと業務全体を理解していないとできることではない。


つまり、タスクの設定ができるということは、会社の業務に精通しており経営方針を理解しているということになる。


■トヨタが長年にわたり競争優位性を確保できている理由


また、全社員がタスクの期限を守れる会社ほど強い会社はない。これだけで大きく労働生産性の向上を実現することができる。


このように組織の構築をし、その組織間でコミュニケーションのルールを整備する。そして、組織全体でタスク管理をするというチームのタスク管理を導入することで、その会社はケイパビリティを獲得できる。そこで初めて経営戦略を実行に移せるようになる(図表1)。


出典=『1+1が10になる組織のつくりかた チームのタスク管理による生産性向上』(実業之日本社)

中小企業は、チームのタスク管理をはじめとするマネジメントシステムの構築をすることで、組織力を向上させることができるのである。


私は、ケイパビリティの獲得によって、会社を一つ上のレベルの組織に生まれ変わらせることができると考えている。


日本を代表する企業であるトヨタが、競合と比較して、長年にわたり競争優位性を確保できているのは、世界一と称されるケイパビリティがあるからこそなのだ。


ケイパビリティがあれば、PDCAサイクル(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Action=改善という4つのステップを繰り返すフレームワーク)を早くまわすことができるので、軌道修正も素早く行うことができるし、新しいことにチャレンジできるようになり、経営戦略の自由度も増えるのである。


■YouTuber事務所「VAZ」の経営改革の事例


日本を代表する著名なYouTuberが所属していた「VAZ」という大手YouTuber事務所がある。私は企業再生のために2020年10月から2022年1月まで同社の代表取締役社長を務めた。


同社は、エンターテインメント企業のため世間的にも知名度のある会社だが、私が社長を務める前の2020年6月期は売上高10億円、営業赤字3億2500万円、翌期は売上高8億円、営業赤字1億400万円で、社員数も50人弱の経営危機に瀕したスタートアップであった。


本稿は、中小企業が組織力を獲得した事例として、企業再生の際に私が実施した経営改革のうち、どのようにして同社がケイパビリティの獲得をしたのかについて説明しよう。


株式会社VAZは、創業者の森泰輝氏が2015年7月に設立したが、学生起業家だった森氏の初めての起業時に私の友人が投資していた経緯もあって、私は創業後間もない同年の秋から顧問として同社を手伝うことになった。


その後、時代のニーズもあって、大手メディア企業やエンターテインメント企業との資本業務提携も実現し、日本を代表するようなYouTuberも数多く所属した同社は、飛ぶ鳥を落とす勢いでメディアを席巻していった。


しかしながら、度重なるYouTuberの炎上騒ぎや事務所脱退が相次ぎ、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症問題が決定打となり、事業継続の危機に陥ってしまった。


同社の株主は私が声掛けした投資家が多かったことに加えて、私は企業再生の専門家でもあった。そこで、同社のステークホルダーからの要請があったため、私がVAZの立て直しをすることになったのである。


私個人としても、VAZの創業期から企業成長を伴走支援してきた自負があり会社への愛着もあったし、YouTuberという人が商品であり、人が人を売るYouTuber事務所の企業再生は非常に難易度が高く、職業人としても挑戦し甲斐のある案件だと捉えていた。


なお、本稿については、私がVAZの社長の在任中に受けたインタビュー取材をベースに記載をしており、既出の情報を再構成したものである。


また、YouTuber事務所というビジネスモデルについては、業界トップのUUUM株式会社が業績悪化により非公開化して上場廃止するなど業界・事業の変化も激しいため、経営戦略の詳細はなるべく避けて記述している。


■「ケイパビリティ」の獲得が大人の会社になるということ


①問題点はケイパビリティ

私が社長に就任した時のYouTuber事務所「VAZ」の問題点は、まさにケイパビリティにあった。


先述のとおり、時代の寵児になったVAZだったが、会社組織については森氏曰く「大炎上に耐えきれず組織が崩壊」するなど脆弱(ぜいじゃく)な状態にあった。


YouTuberは、視聴者をはじめ関係者から「クリエイター」と呼ばれ、動画制作も自ら企画、出演し編集するスタイルが主流だ。


一方で、テレビ業界では、番組に出演するタレント、番組制作に従事する制作スタッフ、そして、どの番組に出演するか交渉などしてタレントマネジメントを行うマネージャーなど役割分担されている。


このようにYouTube業界とテレビ業界は同じ映像業界だが、業務の進め方は似て非なるものである。


YouTuber事務所と芸能事務所という比較でも、YouTuberやタレントという多くのファンを持つスーパースターをサポートする「マネージャー」という職業の名称は同じものの、全く異なる業務内容になっている。


私が関与した時点でYouTuberを支えるマネージャーの多くは「付き人化」しており、YouTuberの動画制作を補助することが主な仕事になっていた。


写真=iStock.com/bombermoon
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YouTuberからしてみれば、そのマネージャーの補助に対して、対価を固定額ではなく売上に対するレベニューシェアで支払っていたため、事務所が提供する役務に対して対価が見合っていない事例も散見され、脱退するYouTuberの多くは金銭面で不満を持っていた。


本質的な付加価値を提供しなければYouTuberが事務所に所属する意味がないという状況に陥っていたのである。


VAZの企業再生は、ビジネスモデル自体を大きく変えたのではなく、主にケイパビリティの獲得を目指して、どのようにYouTuberをサポートする体制を作るかが課題だった。


私はこのケイパビリティの獲得を「大人な会社」というように表現した。私は、社長就任時の東洋経済のインタビューで、以下のように述べている。


——12月の記者会見では経営陣の交代によって「大人な会社になる」と何度も述べていました。どういう意味でしょうか。


小松裕介社長:硬い言葉を使えば、「ケイパビリティ」の獲得が大人の会社になるということだ。ベンチャー企業には、組織がきちんと作れず、その結果、実行力がないということがよくある。


VAZはネット炎上を繰り返してきたが、そういったこともケイパビリティが欠けていたことに起因している部分もあるだろう。創業から5年経っているので、組織作りをしっかりやっていくことが僕の感覚で言えば「大人の会社になる」ということだ。


■経営戦略を変更したら組織を変えるべき


②マネジメントシステムの構築による解決

VAZの企業再生では100日プランを順調に消化していった。100日プランとはM&Aが成約してから100日間の作業計画やスケジュールのことである。一般のビジネスパーソンが思っている以上に、M&Aによって経営者が交代になる時は行うことが決まっている。


VAZのケイパビリティの獲得はこの100日プランの中で立案された。


具体的には、従業員や所属YouTuberからのヒアリングを実施し、経営戦略の立案、それを実現するための組織の再構築、その組織に適したコミュニケーションの整備、そして、チームのタスク管理の導入などマネジメントシステムの構築をした。


新たに立案した経営戦略では、YouTuber事務所として所属YouTuberのサポートをしっかり行い付加価値を創造することを目指した。


例えば、YouTuberのニーズの多様化に応えるため、より積極的に広告獲得を進める営業機能の強化を筆頭に、広告窓口だけを担うエージェントや、テレビなど従来の芸能の領域に踏み出して活躍したいと考えるYouTuberに向けて芸能事務所出身者のマネージャーを付けるなどマネジメント方法の多様化を図り機能を拡充した。


また、事業領域も広げ、以前から展開していたYouTuber事務所としての「マネジメント事業」に加えて、YouTubeで自社企画のチャンネルを制作する「メディア事業」、企業や自治体などのチャンネルの制作を受託する「運用・受託事業」の3つの事業領域に再定義した。


特に「メディア事業」では、VAZが自らYouTubeチャンネル、つまりメディアを持つことによって、所属YouTuberの露出機会を増やし影響力拡大などのサポートができる体制を目指した。


この経営戦略に従って、組織の再構築を行った。経営史学者アルフレッド・チャンドラーの格言の「組織は戦略に従う」のとおり、経営戦略を変更したら組織を変えなければならない。


■当たり前のことを当たり前に実行すればビジネスは成功できる


具体的には、YouTuberの動画制作をサポートし自社のYouTubeチャンネルを制作する「メディア部」、YouTuberのマネージャー業務をする「マネジメント部」、そして、広告獲得を行う「営業部」という体制に整備しなおした。


経営戦略に基づいた部署や役職の整理・統合をした上で、組織が動きやすいように会議体やビジネスチャットツールなどコミュニケーションの再設定をした。


会議体については、部署ごとの部署会議、一定の管理職以上の役職者会議、株主からのオブザーバー参加もある取締役会、そして、全体会議といったように1カ月の定例会議のサイクルを定めた。


そして、最後にチームのタスク管理の導入である。改めて経営戦略を立案したため、その戦略に基づいて、会社として部署として行うべきタスクの設定をしたのだ。


各部署の「誰が、どのようなタスクを、いつまでに実行しなければならないか」を明確にし、タスクの見える化を行い、これを先ほど新たにルール化した部署や管理職以上の定例会議で、みんなで進捗管理をしていったのである。


写真=iStock.com/maroke
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このチームのタスク管理などのマネジメントシステムを導入してから、1年と少しの経過を見て、VAZは黒字化の目途が立ち、上場企業の共同ピーアール株式会社の子会社となることになった。


YouTubeビジネスという既に市場が確立したビジネスモデルにおいて、正しい経営戦略の下で、戦略に適合した組織の構築とコミュニケーションの整備をし、戦略を実現するタスクを設定しチームで管理まですれば、必ず業績が上がる。


何か特別に難しいことをしているわけではないことが分かるだろう。当たり前のことを当たり前に実行するだけでビジネスは成功できるのである。


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小松 裕介(こまつ・ゆうすけ)
スーツ代表取締役社長CEO
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト(現社名:伊豆シャボテンリゾート、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。2020年10月にYouTuber事務所VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し、2022年1月に上場企業の子会社化を実現。2022年12月にスーツ社を新設分割し同社を商号変更、新たにスーツ設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。
現在、スーツ社では、チームのタスク管理ツール「スーツアップ」の開発・運営を行い、中小企業から大企業のチームまで、日本社会全体の労働生産性の向上を目指している。
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(スーツ代表取締役社長CEO 小松 裕介)

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