「ペイペイ決済額から所得・金融資産を予測、その人に合った投資商品や運用の仕方を提示可能に」…PayPay証券・栗尾圭一郎社長
2025年5月29日(木)14時20分 読売新聞
PayPay証券の栗尾圭一郎社長(東京都新宿区で)
ソフトバンクグループのPayPay(ペイペイ)証券は、NISA(少額投資非課税制度)を追い風に、大きく成長している。口座数は、ネット証券大手に追いついた。4月に就任した栗尾圭一郎社長に話を聞いた。(聞き手・市川大輔)
一気にサービス面の連携強化
——ペイペイ証券がペイペイの連結子会社になった意義は何か。
「ペイペイとソフトバンク、みずほ証券の3社で出資していた状態から、ペイペイが親会社として75%の当社の株式を保有することになった。このことには、大きな意味がある。ペイペイと顧客基盤やデータを連携し、アプローチできるからだ。
すでにカード会社を連結子会社にしており、ノウハウも積んできた。4月のタイミングで、証券だけでなく銀行も連結子会社化した。グループとして、一気にサービス面の連携を強化し、これまでと違うスピード感と深度で進められると期待している」
——どのようなデータ連携ができるのか。
「データのプライバシーポリシーや、第三者提供同意をきちんとユーザーに示すことが前提だが、ペイペイは利用者の決済取引がわかる。一方で、証券では、利用者の決済額や年収はわからない。口座を開設する時に聞く金融資産は、利用者が任意に入力するデータで、正しいとは限らない。
ペイペイの決済額からはそれなりに所得が予測できる。それを掛け合わせると、金融資産もある程度わかる。資産を持っているが、運用をしていない方をターゲットにして、その人に合った投資商品や運用の仕方が提示できる」
——カードや銀行との間ですでにできている連携の例は。
「クレジットカードを使って証券で積み立てる。銀行の預金残高から証券で商品を買いつけることなどは実現した。ただ、それは象徴的な機能をつなげただけだ。スマホのアプリでそれぞれのサービスをよりシームレスにつなげることを目指している」
——ほかにはどんなサービスを考えているのか。
「銀行と証券の連携では、金利優遇が考えられると思う。金利優遇がいいのか、ポイントで返すのがいいのかなど、いろいろな議論がある。まだ公表できないが、絶賛検討中だ」
ポイントの疑似運用
——今後、どんな分野に力を入れたいか。
「ポイントの疑似運用だ。ペイペイ利用者の多くに使ってもらい、利用者は2000万人を超えた。最近、ビットコインの値動きと連動したサービスを始めた。利用者がポイントの疑似運用状況をSNSに投稿しており、初心者の投資という狙いに応えられた。
この体験で終わることなく、証券口座を開設し、商品で運用してもらいたい。結果として、利用者の資産形成に貢献するというストーリーを考えている」
——NISA口座の数では大手ネット証券5社に近づいてきている。「(最大手の)SBI証券、楽天証券とはまだ離れているが、3位のマネックス証券には追いつきつつあり、4位となった。昨年1年間に増加した口座数ではSBI証券、楽天証券に次ぐ3位だった」
中長期的な視点で運用を
——年初から株式相場は低調だ。御社は、投資初心者が多く、離れる人もいるのではないか。
「トランプ米政権の関税政策による相場を踏まえて、利用者にメールを出した。『中長期的な視点で運用してください。分散投資を考えましょう。積み立て投資をやりましょう』という内容だ。カスタマーセンターには『メールをもらい、落ち着いて行動できた』という声も寄せられた」
——個人の資産形成の基本として、中長期の運用とともに、分散投資の考え方がある。
「当社では、金の関連商品が売れている。売れ筋は、初心者を含めて投資信託、ETF(上場投資信託)、金という感じだ。全世界株式だけでなく、分散をしてもらうのがいいと思う。
当社では毎月だけではなく、毎週、毎日でも積み立てができる。しかも、100円からだ。相場を見て、積み立ての額、積み立ての頻度も変えられる。アプリから設定が簡単に変えられる。
利用者に合わせて、アプリ上のアイコンを変えている。初心者には、ゴールドや安定した商品を勧めており、経験者には高配当株や売れ筋を提案している。法律上、特定の商品を案内することはできないが、利用者に合った商品を提案していきたい」
——分散投資ではどんな商品が人気なのか。
「当社では、高配当株式が人気だ。米国株はこれまで強すぎたので、全世界株式の投資も増えている。金の人気も伸びている。この傾向は、初心者でも取引が活発な方でも変わらない」 「初心者でもリテラシーが違うことが、データを見て最近、わかってきた。当社がメディアを通じて投資情報を出し続けているので、リテラシーを積んでもらったということもあるかと思う。初心者でも情報を出しわけていくべきではないかと思っている」
◆栗尾圭一郎氏(くりお・けいいちろう) 2006年立教大社卒、森永乳業入社。08年ソフトバンク入社、19年ヤフー出向。22年PayPayに出向し、金融戦略部長。25年4月からPayPay証券社長。