トヨタとダイムラーの電撃提携、トラックに立ちはだかる「CASEの壁」

2023年6月2日(金)17時0分 JBpress

 トヨタ自動車と独ダイムラートラックが、それぞれ傘下の日野自動車と三菱ふそうトラック・バスを統合することを決めた。2023年5月30日、都内で開かれた共同記者会見では、トヨタとダイムラートラックが商用車向けにCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングなどのサービス、電動化)技術の開発で協業すると説明。背景には、スケールメリットを追求しなければ、これまでトラック・バスに立ちはだかっていた「CASEの壁」を突き崩せないとの危機感がある。

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 三菱ふそうと日野は対等な立場で統合し、商用車の開発、調達、生産分野で協業する。グローバルに競争力のある商用車メーカーを目指す。トヨタとダイムラートラックは、三菱ふそうと日野を傘下に置く持ち株会社を2024年末までに設立し、出資比率は同じ割合とする。

 ダイムラートラックは、旧ダイムラーが乗用車部門のメルセデス・ベンツグループと商用車部門に分離して誕生した企業だ。「メルセデス・ベンツ トラックス」「フレイトライナー」「三菱ふそう」など小型から大型までトラックやバスを手掛けるブランドを傘下に持つ世界最大級の商用車メーカーである。ここに、日野が加わる形となる。

 トヨタ、ダイムラートラックの両トップが共に強調したのが、「社会インフラとしての商用車」の役割だ。トヨタの佐藤恒治社長は記者会見の冒頭、物流に占めるトラック輸送の割合は世界で約50%、日本で約90%に及ぶというデータを示し、いかに商用車が社会・経済を支える存在であるかを強調した。続いて登壇したダイムラートラックのマーティン・ダウムCEO(最高経営責任者)、三菱ふそうのカール・デッペンCEO、そして日野の小木曽聡CEOも同様の意義を繰り返し説明した。

 それだけに、あらゆる産業で脱炭素に向けた流れが加速するなか、商用車でも対応が急務になっている。乗用車では電気自動車(EV)が急速に広がり始めている一方、トラックなどの商用車では電動化などCASEの歩みは遅れていた。


乗用車に出遅れたトラック・バスの電動化

 商用車の電動化が遅れていた背景の一つが、乗用車と比べて商用車は車種ごとの販売台数が少ないことだ。そのため、巨額の投資が必要となる電動化などのCASE技術の開発でスケールメリットを得にくい。積載量が大きい商用車のEV化では大型のバッテリーを積む必要がありコストがかさむ。一方、長い航続距離が必要な大型トラックでは電動化が難しいとされており、水素技術の活用がカギとなると見られている。ただ、燃料電池や水素エンジンの開発は道半ばだ。

 4社協業に至るきっかけについては、ダイムラートラック側が昨年、トヨタと日野に提案したことが明らかになった。日野は昨年3月にエンジン関連の不正が発覚し、自社のトラックやバスの多くで生産と販売が止まり、経営状態は極めて厳しい状況に陥った。4社協業の交渉が具体的にどのように進んだかは明らかにされなかった。だが、「商用車の次世代技術の開発を進めるにはスケールメリットを考えることが重要」との考えは明確に示された。

 具体的には、CASEおよび水素技術の開発にスケールメリットを活かす。そもそもCASEという言葉はダイムラー(当時)が2010年代半ばに次世代車のコンセプトを示す造語として打ち出したものだ。それが、グローバルの自動車産業界で一般名詞のように使われるようになった。


広がるCASEでのアライアンス

 CASEでは、高性能な電池の開発や自動運転などに用いるソフトウエアの開発などが重要課題だ。研究開発や最先端の部品や材料の調達、新たな製造プロセスの実用化などに巨額のコストがかかる。そのため、自動車メーカー同士のアライアンス(協業)が広がっている。

 例えば、乗用車では仏ルノー、日産自動車、三菱自動車によるアライアンスや、トヨタを中心としたダイハツ、スバル、マツダ、スズキによる一部事業における協業などがある。

 一方、トラックなど中・大型の商用車の世界市場規模は「300万〜350万台程度」(トヨタの佐藤社長)と、乗用車と比べて圧倒的に少ない。そのため、CASEなど次世代車技術の開発でスケールメリットを得るためには、乗用車以上に細かい技術領域まで踏み込んだ協業が必要となる。

 一般的にCASEについてはこれまで、メーカー間での協調領域と競争領域という考え方に基づきアライアンスなどが組まれてきた。だが、今回の4社協業は、開発、調達、生産にも及ぶ広範なものだ。従来の協調領域という概念の枠を超えた協業になるとみられる。

 また、水素技術への対応も興味深い。

 水素関連の開発では近年、トヨタが燃料電池車に加えて、内燃機関に気体水素や液体水素を使う水素エンジンでモータースポーツを活用した開発を行っていることに注目が集まっている。ダイムラートラックのダウムCEOは、次世代の商用車については三菱ふそうが量産している小型EVトラック「eキャンター」への期待を示した。その一方で、「中型・大型トラックでは当面、EV化することは実用性やコストの面で難しい。燃料電池車や水素エンジン車の活用が必要だ」(ダウムCEO)と述べ、トヨタとの協業の重要性を強調した。

 トヨタとして今回、世界最大の商用車メーカーであるダイムラートラックと水素関連開発でパートナーを組むことになった意義は、極めて大きいだろう。


ベンチャーもスケールメリットの確保に試行錯誤

 トヨタなど4社協業に関する会見と同じ日、EVベンチャーのフォロフライと総合商社の丸紅、そして化学メーカーの太陽インキ製造が、都内で商用EVに関する報道陣向けセミナーを開催した。そこでも、スケールメリットをいかに確保するかが1つのテーマだった。

 フォロフライは、国内で商品を企画し中国のメーカーに生産を委託するファブレス企業だ。「自動車メーカーの機能もある社会インフラ事業」を手掛けるという経営方針を掲げる。販売するモデルは国内初の1トン級EVトラックである「F1シリーズ」で、今回新たに社用車としても活用できる「F1VS4」が加わる。ラインアップを拡充することで少しでもスケールメリットを増やすことを目指す。

 フォロフライを販売やマーケティング面で支援しているのが丸紅だ。丸紅は2022年7月にフォロフライと資本業務提携した。一方、丸紅はパナソニックと折半出資で商用EV向けにフリートマネージメントサービス事業を行う新会社を2023年6月に設立することを明らかにした。

 丸紅とパナソニックによる新会社は、EVの試験・本格導入、充電インフラの整備、EVの運行管理、車載電池の管理や車両のメンテナンス、EVや電池のリユースなど、商用EVに関わるサービスを総合的に手かげるのが特徴だ。使用する商用EVはフォロフライ以外からも調達するが、フォロフライがスケールメリットを追求する上でもフリートマネジメントサービスの充実は不可欠な要素だ。

 今後、商用車分野でグローバルでは大手による本格的な協業が進む一方、ベンチャーでも商社などを巻き込みながらスケールメリットをいち早く得るための試行錯誤が加速しそうだ。商用EV事業に関わる各社がいかに「Win-Win」の関係を築けるかが、商用車の脱炭素が進むかどうかのカギとなる。

筆者:桃田 健史

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