「安全なクルマ」大賞を獲得したノア・ヴォクシーと5つ星を逃した車種の違い

2023年6月4日(日)6時0分 JBpress

(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)


毎年行われる「自動車アセスメント」とは?

 交通事故の発生抑止や被害者支援を目的とする独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)は5月23日、2022年度に行った「自動車アセスメント」において、最高賞であるファイブスター(5つ星)大賞モデルにトヨタ自動車のミニバン「ノア」/「ヴォクシー」を選出したと発表した。

 折しもダイハツ工業が小型SUV「ロッキー」/「ライズ」(トヨタへのOEM供給モデル)の受動安全性審査で不正を行ったというニュースが駆け巡る中での発表だっただけに、結果への関心もより高まったことだろう。

 この自動車アセスメントとはどういうものなのか。同機構が毎年度行っているテストで、実際にクルマを衝突させたり衝突被害軽減ブレーキの精度をみたりする「JNCAP」というテストの数値を総合評価したもの。満点は199点で、内訳は歩行者傷害を含めた衝突安全が100点、衝突軽減ブレーキおよび先進運転システムの予防安全が91点、事故時の緊急通報システムの有無が8点。

 実車を使った衝突試験には前面フルラップ(完全な正面衝突を想定)、前面オフセット(クルマの前面の一部が衝突することを想定)、側面衝突があり、それを審査するのに新車が3台は必要というなかなかコストのかかる試験である。

 予算の関係からすべての新型車をテストするわけにいかず、「販売台数の多いクルマが中心」(NASVA関係者)にならざるを得ないという。ほか、NASVAにピックアップされずとも自動車メーカー側からの委託で試験されることもあり、それも自動車アセスメントにノミネートされる。

 ファイブスター大賞は2020年度、2021年度と2年連続でスバルが獲得していたが、今回はトヨタが奪還。安全性に関して最もトータルバランスに優れていると評価されたことで、ノア/ヴォクシーの販売にプラスに作用するのは間違いないところだろう。


2022年度の「ノミネート車」と「総合得点」一覧

 だが、この自動車アセスメント、ちょっと視点を変えてみるとランキングとは違う部分も見えてくる。まず、2022年度に試験を受けたモデルをリストアップしてみよう。

●トヨタ自動車「ノア/ヴォクシー」「シエンタ」「カローラクロス」
●日産自動車「サクラ」
●ホンダ「ステップワゴン」
●三菱自動車「eKクロスEV」
●スバル「ソルテラ/bZ4X(トヨタ)」
●スズキ「アルト/キャロル(マツダ)」「ワゴンRスマイル」
●マツダ「CX-60」
●フォルクスワーゲン「ゴルフ」
●ダイハツ「ムーヴキャンバス」「ハイゼットカーゴ/アトレー/サンバーバン(スバル)/ピクシスバン(トヨタ)

 これを総合得点順に並べてみると、以下のような結果となった。

1位:CX-60(188.68p)
2位:ノア/ヴォクシー(186.44p)
3位:ソルテラ(186.16p)
4位:シエンタ(185.33p)
5位:サクラ(184.92p)
6位:ステップワゴン(183.92p)
7位:eKクロスEV(182.04p)
8位:カローラクロス(179.68p)
9位:ゴルフ(166.08p)
10位:ムーヴキャンバス(161.04p)
11位:ハイゼットカーゴ(155.19p)
12位:アルト(148.57p)
13位:ワゴンRスマイル(147.36p)


得点ではトップの「CX-60」がなぜ4つ星だったのか

 この結果を見て「おや?」と思った読者もいることだろう。ファイブスター大賞のノア/ヴォクシーに2点以上の差をつけ得点トップの座を獲得したのはマツダのCX-60だった。ところが総合評価は「4つ星」だった。

 なぜこのような評価になったのか。理由は自動車アセスメントの判定基準にある。5つ星をもらうには衝突安全と予防安全の両方でA判定をもらう必要があり、CX-60は衝突安全がB判定だったのだ。衝突安全の点数自体はゴルフに次ぐ2位ときわめて優秀だったが、実は点数が高くとも、7つある衝突安全の評価項目のうちひとつでも突出して低いものがあるとA判定にならないというレギュレーションがあり、それが障害となった。

 CX-60がつまずいたのは追突された時の頸椎保護、すなわちむち打ち防止で、商用車のハイゼットカーゴに次ぐビリから2番目。ゆえにB判定となった。この取りこぼしがなければ今年のファイブスター大賞は文句なしにCX-60のものだった。

 CX-60はエンジン縦置きの後輪駆動車で、直列6気筒エンジンがボンネットに収まるように設計されているため、クラッシャブルゾーンの前後方向の余裕が大きい。2022年度ファイブスター大賞では無冠に終わったが、シートの頸椎保護性能が改良されれば全方位でトップクラスの安全性と評価されることになる。開発陣の今後の頑張りに大いに期待したいところだ。


「ステップワゴン」はこれを装備していたら大賞だった

 CX-60と並んで大賞を狙える位置にいながら取りこぼしたもう一台のモデルが、ホンダのステップワゴンである。こちらは衝突安全、受動安全ともA判定を獲得。評価は5つ星で、ファイブスター大賞の下のファイブスター賞を獲得している。

 ステップワゴンの試験成績は総じて良好だった。衝突安全性の得点はファイブスター大賞のノア/ヴォクシーを上回り、先進運転支援システムの歩行者、自転車検知もノア/ヴォクシーの満点には一歩及ばなかったものの好成績だった。

 ステップワゴンの減点要因は車体や安全システムではなく、ヘッドランプに先行車や対向車を避けて照射するアクティブハイビームが装備されていないことだった。これの有無は総合得点に2.88点響く計算で、かりに装備されていたとしたらステップワゴンがファイブスター大賞だった。

 ステップワゴンに限らず、ホンダはヘッドランプについては少なからず後進的で、昨年ようやく「シビック」にアクティブハイビームが装備されたばかり。ヘッドランプの性能、機能は夜間の能動安全性を大きく左右するので、ヘッドランプメーカーとがっちりタッグを組んでしっかりしたものを装備していただきたいところだ。そうすればおのずと結果がついてくることもあろう。


衝突安全試験でノア・ヴォクシーを凌いだ「サクラ・eKクロスEV」

 このところ軽自動車のJNCAPテストで立て続けに好成績を上げている日産─三菱自連合。サクラとeKクロスEVは衝突安全試験ではクラスが3段階ほども違うノア/ヴォクシーよりも良い成績をマークした。予防安全も1項目を除き満点。軽自動車で唯一のファイブスター賞を獲得した。

 取りこぼした1項目とは対自転車の衝突回避で、45km/hまでしか対応できなかったために2.38点減点された。50km/hで対応できていれば予防安全は満点の91点。そうなれば総合187.3点となっていたはずで、軽自動車として初のファイブスター大賞を獲得するのも夢ではなかったということになる。

 eKクロスEVはサクラのデータの流用で、基本的には同じ点数なのだが、唯一異なるのは、サクラがアクティブハイビームを装備するのに対して、eKクロスEVは単純なハイ/ロービーム切り替え式であること。ステップワゴンと同様、アクティブハイビームがあればファイブスター賞をサクラとダブル受賞できていただろう。


衝突安全は優れているが予防安全でB判定に甘んじた「ゴルフ」

 今回唯一の輸入車ブランドであったゴルフは、予防安全がB判定であったため4つ星評価に甘んじることになった。予防安全における自転車の検出が低スコアであったこと、踏み間違い加速抑制機能や事故時の緊急通報機能が未装備であることなどから総合得点も振るわず、大賞のノア/ヴォクシーから20点以上引き離されるという結果に終わった。

 だが見せ場はあった。衝突安全の100点満点中91.12点はCX-60を抑えて13車種中トップの成績。特に優れていたのは事故の際の歩行者の頭部保護で、ほとんどのモデルが50%から70%台のスコアであった中、84%をマークしている。

 予防安全については日本と欧州で重視する項目に違いがあるということも影響している。電子制御に関しては世界トップランナーの日本に対していささか後れを取っているという側面は否定できない。逆にそこをキャッチアップできれば、元の車体設計がいいだけに、一気にトップに躍り出ることも可能だろう。

 ノア/ヴォクシーがトップを取った2022年度の自動車アセスメント。だが、得点を見ればわかるようにその差は本当にごくわずかだ。こういう激烈な競争が交通事故発生の抑止や事故時の人的損害のさらなる軽減につながるので、自動車メーカー各社にはますます切磋琢磨していただきたいところだ。

筆者:井元 康一郎

JBpress

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