人生をかけて経営というギャンブルを続けるSBG孫正義氏の「本心」

2023年6月22日(木)18時0分 JBpress


現段階ではChatGPTより孫氏のほうが賢い?

「ほら吹き男」が復活した。孫正義・ソフトバンクグループ(以下、SBG)会長兼社長のことだ。

 6月21日、SBGが株主総会を開いた。SBGは2022年3月期に1兆7000億円、前3月期も9700億円の巨額赤字を垂れ流している。孫氏はこれまで、3カ月に一度の決算会見で自らの考えを伝えていたが、昨年11月を最後に決算会見への出席を見送っていた。そのため今回の総会は孫氏が久々に公衆の面前に出ることで注目されていた。

 総会では当然のことながら赤字についての株主の質問があった。孫氏の答えは次のようなものだった。

「2兆円、3兆円の赤字は誤差のうち。株主を前にこんなことを言うのは不謹慎。でも本音です」

 そのうえで、創業30周年の時に掲げた「2040年に時価総額世界トップ10入りする」目標について、「自信がある」と言い切った。足元の大赤字と未来への自信。そのギャップを埋めるのが、昨今のAIの爆発的進化だ。

 生成AIのChatGPTはリリースから2カ月で全世界の利用者が1億人を突破するなど、驚異的な普及を遂げている。これを利用する企業のニュースが毎日のように流れるだけでなく、自ら生成AIを創ろうという企業も相次いでいる。

 孫氏自身、毎日ChatGPTと対話しているという。あるビジネスモデルを提案してChatGPTに問題を指摘され、その解決策を提示するというやりとりを繰り返し、最終的にChatGPTに褒められたことを株主総会でも嬉しそうに紹介していた。

 このやりとりは、現段階では孫氏がChatGPTより賢いことの自慢でもある。しかし孫氏は、10年以内にAIが人類の知性を上回る「シンギュラリティ」が起きると断言した。

 従来、シンギュラリティは2040年、もしくは2045年に起きると予測されていた。しかし孫氏は、それがはるかに早まると言い、しかも「全人類の叡智の総和の1万倍」の知識を持つばかりか、AIには不可能とされてきたクリエイテビティや理性を持つようになると予測する。

 普通の人が言ったら「本当かよ」と思うような話だ。しかし孫氏はこれまでも、嘘のような大風呂敷を広げ、それを実現してきた男だ。シンギュラリティについても、まったくの夢物語ではないと孫氏は言う。


幾度となく経営危機から這い上がってきた過去

 その根拠となっているのが、SBGが2016年に3兆3000億円で買収した半導体設計企業、英アームの実績だ。アームの設計に基づく半導体の出荷数は、二次関数的に増えていて、2022年段階で2580億個。これが早晩1兆個に達し、その時にシンギュラリティが起きるというのだ。

 それに伴い、アームの業績もうなぎ登りになると孫氏。事実、アーム社のEBITDA(営業利益+減価償却費)は2019年度の3億6500万ドルを底に、2020年度5億9600万ドル、2021年度9億9900万ドル、2022年度14億8400万ドルと急成長を遂げている。このアームを中核に、SBGは反転攻勢に打って出ると孫氏は宣言した。

 この2年間、SBGはソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の投資の失敗で大赤字を計上したことから「守りに徹してきた」(孫氏)。新規投資を抑え、アリババ株を売却し、手元資金を積み上げた結果、現預金は5兆円まで積み上がった。以前に比べ財務ははるかに健全になった。

 しかし本来、孫氏は攻めの経営者だ。過去、何度も無謀とも思えるチャレンジをして、幾度となく経営危機に陥りながらも、そこから這い上がって今日を築いてきた。

 例えば、2006年のボーダフォン・ジャパンを買収した時、多くの人が「ソフトバンク(現SBG)は終わった」と考えた。当時のソフトバンクの売上高は1兆円強だが、有利子負債も1兆円近く抱えていた。にもかかわらず、ボーダフォン・ジャパンを1兆7500億円で買収した。

 身の丈以上の買収劇だった。ある通信会社のトップは、「ああいうのはリスクテーカーとは言わない。単なるギャンブラーだ」と語っていたほどの大博打だった。

 しかし、当時、筆者のインタビューで孫氏は「もっと背伸びをしていた時期がある」と語っていた。それは1996年にIT出版の大手、ジフ・デービスを1800億円で買収したことだ。

「この時は少しドキドキした。当時は売上げが300億円か400億円、経常利益が20億円いくかどうかだった。それで1800億円の買い物をしたというのだから当時のほうがはるかに背伸びだった」(孫社長)

 売上高と買収金額の比率で考えれば、ジフの買収のほうが、ボーダフォンの買収よりはるかにリスクがあった。しかしジフを手に入れたことで、同社社長から孫氏は、「今後もっとも有望なのはヤフー」との情報を仕入れて100億円を出資した。

 それが今日のヤフー・ジャパンにつながっただけでなく、財務的にSBGの屋台骨を支えた。もしこの出資がなければ、現在のSBGはなく、孫氏の経営者としての評価も今とは大きく異なっていたのは間違いない。


後継者へのバトンタッチなど所詮無理な話だったのか

 そんな孫氏でも、「経営者人生の終わり」を意識し、守りに入ったこともある。

 今では聞くことがなくなったが、50代までの孫氏は、「人生50年計画」をよく口にしていた。これは孫氏が19歳の時に立てた人生計画で、「20代で名乗りを上げる。30代は1000億、2000億の軍資金を貯める。40代で1兆円2兆円の大勝負をする。そして50代で事業を完成させて60代で後継者にバトンタッチする」(孫氏)。

 ボーダフォンを買収したのは48歳の時で、これが大勝負。そして携帯事業が順調に利益を上げるようになった時、孫氏は決断を下す。「50代で事業を完成させるというのは、自分のつくった借金をすべて返済すること。そして60代でバトンタッチし、後継者が自由に経営できるようにする」と、一時3兆円まで膨らんだ借金返済にまい進した。

 その舌の根も乾かない2012年、米携帯電話3位のスプリント・ネクステルの買収を発表する。それにより一時は1兆円を下回った有利子負債は、4兆円にまで膨らんだ。2016年に3兆3000億円でアームを買収。さらにはSVFを立ち上げたこともあり、現在、SBGの有利子負債は20兆円に達している。

 かつて孫氏は「人生50年計画はとても大切なもの、その通りの人生を歩む」と語っていた。その言葉は一体何だったのか。しかも60代のバトンタッチさえ、ないがしろにしようとしている。

 孫氏は一度、グーグル出身のニケシュ・アローラ氏を後継指名したが、その後取り消し、自ら社長業を続けると宣言。先日の株主総会でも後継者について問われたが、AIなどの進化を目の前にして「ワクワクしすぎて引退したくない。もう少しやりたい」と答えている。人生50年計画など、最初からなかったかのような答弁だった。

 孫氏はかつて、こんなことも語っていた。

「経営はメチャクチャ面白い。これ以上面白い総合種目はないし飽きることもない。こんな幸せでいいのかとさえ思う」

 バトンタッチなど、所詮無理な話だった。


2年で貯めた5兆円で「反転攻勢」へ

 その孫氏が2年間の雌伏を経て、反転攻勢を宣言した。

「10代の時には毎日右脳を使い、1年間で250ほどの発明をした。経営者になってからは左脳を使ってばかりいたが、昨年11月から、自分が本当にやりたいことはアーキテクトだ。人類の未来はどうなるのか、どうあるべきかを設計する。それから毎日右脳を使って、8カ月で630件発明した。1年間で1000件になるかもしれない」

 孫氏は10代の時の発明の中から自動翻訳機を選び、これをシャープに売って1億円の軍資金を稼いだ。今度の発明はAIに関するものが大半で、すぐにも事業化できそうなものも多いという。

 この発明と、アームを組み合わせることで、孫氏は再び攻勢に出ようとしている。手元にはこの2年で貯めた5兆円がある。封印していた新規投資やM&Aも再開すると思われる。

 ギャンブラー・孫正義が戻ってきた。ギャンブラーの中には、最後まで賭け続け、身を亡ぼす人もいる。人生をかけて経営というギャンブルを続ける孫氏。この先、何が待っているのか。

筆者:関 慎夫

JBpress

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