ロシア軍防衛部隊に効果抜群、クラスター弾の威力と戦い方

2023年7月14日(金)6時0分 JBpress

 ウクライナはこれまで、クラスター弾の供与を熱望してきた。

 米国政府は7月7日、やっと「クラスター弾を供与する」と発表した。

 米国は、155ミリ砲弾(口径155ミリ砲用)と227ミリ砲ロケット弾(HIMARS、High Mobility Artillery Rocket System=高機動ロケット砲システム)用のクラスター弾約300万発を備蓄している。

 ウクライナ軍はその2種類の弾薬を要求したようだが、今回供与されるのは155ミリ砲弾である。

 ウクライナ軍が反転攻勢でいま最も必要とする兵器である。この砲弾を使えば、ロシア軍地上部隊の防御を効率的に撃破することができる。

 ウクライナ軍が、クラスター弾を使用できれば、ロシア地上軍の防御戦闘にどのようなダメージを与えられるのかを述べる。特に、

①ロシア軍がクラスター弾を使ってきたこと

②供与されるクラスター弾の威力

③ロシア地上軍の防御行動にどれほどの威力を発揮するか

④クラスター弾を使用する場合の今後の反撃進展速度の予想

 併せて、領土を奪回するために非人道的といわれる兵器保有の是非について考察する。


1.ロシア軍は侵攻当初から頻繁に使用

 クラスター弾を禁止する国際条約は2008年に発効し、2023年までに合計123か国がクラスター弾の製造も保有もしないことを約束した。

 日本も2008年、安全保障会議で自衛隊が保有するすべてのクラスター弾の廃棄を決定した。

 そして、自衛隊は保有していたクラスター弾の廃棄を2015年には完了した*1

 ロシア、ウクライナ、米国はこの国際条約に署名していない。

*1=日本はクラスター弾を破棄したものの、我が国に直接脅威となる中国や北朝鮮は、この国際条約に加盟していない。対人地雷全面禁止条約も同じ。

 ウクライナに侵攻しているロシアは、この条約に加盟していない。

 そのロシアは、侵攻の当初から「BM-30 スメルヒ多連装砲」を使って、クラスター弾を発射している。

 禁止されている白燐発煙弾も撃ち込んでいる。

 ロシア軍は、これらの弾を軍に向けて発射したのではなく、都市部の市民に向けて頻繁に発射していた。

 禁止事項をやりたい放題に実施しているのだ。

 クラスター弾を使用しているかどうかは、砲弾の弾着時の景況を見れば明らかだ。

 通常の砲弾は、1発ごとに爆発による火玉と砂煙が出る。クラスター弾では、小さな子弾が空中で広がるために、数多くの小さな火玉と砂煙が見える。

 夜間であれば、多くの子弾が爆発する閃光が見える。

 ウクライナに侵攻した当初に、ウクライナの軍や都市に向けて、クラスター弾を発射し、それらが破裂する映像が頻繁に公開された。

 ロシア軍は、非人道的と言われるクラスター弾を、侵攻の当初から市民が住む市街地に使用している。

 このため、ウクライナは、多くの死傷者を出していたはずだ。

 ウクライナ軍は、反攻に転じた今になって、やっとこの種の弾を取得できることになった。

 クラスター弾の供与について、否定的な意見を述べる国もあるが、米国が今後、早く供与すればするほど、ウクライナ軍の攻勢は著しく進み、領土の奪回につながることは明らかだ。


2.米国製155ミリクラスター弾の威力

 クラスター弾(親子弾ともいう)とは、複数の子弾を内蔵し、それを散布するように設計された砲弾、ロケット弾、爆弾等である。

 今回、米国から供与される155ミリクラスター砲弾は、155ミリ砲弾の中に、子弾を多数搭載しているものである。

 155ミリ火砲から発射される砲弾は、地表面に近づいた位置で信管が作動し、砲弾の後ろから、子弾を地表面に広範囲に散布する。

 そして、子弾は地表に落下すれば爆発する。

 米国の軍事情報等によれば、155ミリクラスター砲弾は、1975年製造の「M483A1」(射程17キロ)と 1987年製造の「M864」(射程30キロ)の2種類がある。

 この2つには、72〜88個の子弾が装填されている。

 これらの子弾は、直径約100メートルの範囲にばら撒かれ、着弾し爆発する。

 爆発効果は、数メートル範囲の兵員を殺傷し、約7センチの装甲を貫徹する。

米国製155砲弾用のM483A1型クラスター弾

(図が正しく表示されない場合にはオリジナルサイトでお読みください)

 通常弾は、着発時に砲弾そのものが爆発し、その破片が約50メートルの範囲に飛び散る。

 建物や壕を破壊するには、爆破威力が1か所に集中する通常弾が効果的である。

 だが、その破片は斜め上空に広がるために、その範囲にいる兵士が立っていれば死傷するが、伏せていれば直撃弾でなければ負傷しないことが多い。

 広範囲に展開する兵士や装甲車等には、多くの砲弾が必要になる。

通常弾の破裂と破片の飛散イメージ

 一方で、クラスター弾の場合は、子弾が約100メートルの範囲に散布されて、落下したその位置で爆破するので、爆破効果がその範囲に均等に広がる。

 つまり、100メートルの広い範囲に展開する兵士を殺傷することや歩兵戦闘車等を上部から破壊することが可能になる。

 したがって、広範囲に展開する部隊や移動中の部隊に対しては、少ない弾でも殺傷効果は大きくなる。

米軍M483A1クラスター弾の散布(左)と子弾が爆発(右)するイメージ


3.ロシア地上軍に対する威力

 ウクライナ軍の反転攻勢に対して、ロシア地上軍は現段階では、ハルキウ、ドネツク、ザポリージャ、へルソンの正面で防御を行っている。

 その防御方法は、陣地防御と機動防御だ。

 時には、陣前に出撃してウクライナ軍に対して攻撃を行っている。戦車や歩兵戦闘車を保有するロシア地上軍は、機動打撃が十八番なのである。

 参照:JBpress『ウクライナ軍の反転攻勢はなぜゆっくり進んでいるのか』(2023.7.8)

 では、このクラスター弾がロシア地上軍のどのような行動に対して効果があるのか。

 戦車・歩兵戦闘車・装甲車による機動打撃あるいは陣前出撃に対して、クラスター弾を使った攻撃を受けた場合は、戦車を除き、歩兵戦闘車や装甲車は破壊される。

 また、これらに乗車している歩兵も殺傷される。

 残存できた戦車には、その後、ジャベリン(歩兵携行式多目的ミサイル)で射撃すればよい。

 これらの機動打撃時に、歩兵が歩兵戦闘車から降りて攻撃しようとすれば、その歩兵は、ほとんどが短時間に殺傷される。

機動打撃部隊に対するクラスター弾による攻撃、その後、残存する兵器

 だが、壕の中に入っている兵士に対しては、壕そのものを破壊できないので、中の兵士を殺傷できない。

 交通壕を移動する兵士には、殺傷効果がある。

 そのため、この射撃の時には、兵士は壕の外に出ることはできない。

 バフムトのような市街地の戦闘では、まず歩兵が徒歩で攻撃を行い、その後ろに歩兵戦闘車や戦車が続く戦いを行っている。

 この場合、通常弾では建物がじゃまになり爆破効果が少なくなるが、上空で広域に散布されるクラスター弾であれば、かなり有効である。

 現在、ウクライナ軍はバフムトの南北から攻撃し、包囲するように進んでいる。

 そして、それぞれの地域で、バフムト市街地を展望できる高台を占拠したことで、市街地のどの場所にもクラスター弾を撃ち込める態勢ができている。

 今後、ワグネルの囚人兵らが自爆覚悟で戦車等の前を攻撃前進する場合も予想される。

 これらの兵に対しても、クラスター弾は極めて効果が高く、ほとんどの兵を殺傷できる。

 ロシア軍の陣地が破られそうになる場合、逆襲部隊による攻撃、あるいは増援部隊の補充が緊急に行われる。

 これらの部隊は、路上を移動しているので、歩兵戦闘車等のほとんどを殺傷できる。

 兵站部隊が車両で移動を行う場合、あるいは密集して集結している場合がある。

 これらの部隊も、装甲能力が全くないので短時間に破壊することができる。

 つまり、クラスター弾を使えば、戦車や壕内の兵士や兵器に対しては効果が少ないが、その他の部隊や兵器には、広範囲にわたり極めて破壊効果が高いと言える。


4.クラスター弾使用で格段に速くなる反撃

 ウクライナ軍は、反転攻勢にあたってロシア軍の防御における機動打撃、陣前出撃、陣地防御、砲迫射撃、戦力転用による増援に手を焼いていた。

 ロシア軍の砲迫火力の破壊については、かなり成果を挙げてはいたものの、陣地に就いているロシア地上軍の抵抗は依然としてしぶとい。

 そのため、ウクライナ軍兵士にも、相当数の被害が出ている。

 ここで、供与されるクラスター弾を使って、ロシア軍の機動打撃、陣前出撃、増援、砲兵の部隊を破壊できれば、ロシア軍の防御を瓦解させることが可能だ。

 壕内の兵器に対しては、クラスター弾の射撃効果は少ないので、通常弾を使って陣地を破壊すればよい。

 ロシア軍は、防御陣地で防御ラインを守り抜くことができなくなれば、次の陣地に後退する。

 その移動間に、クラスター弾を撃ち込めば、ロシア軍防御部隊はほとんど破壊される。

ロシア軍機動部隊等へのクラスター弾攻撃のイメージ

 ロシア軍部隊の行動や兵器の種類によって、砲弾の種類を効率的に使い分ければ、破壊効果も大きい。

 クラスター弾を使用することによって、ウクライナ軍兵士の損失を著しく減少させ、ロシア軍の防御を瓦解させやすくできるのだ。

 ウクライナ軍の反攻は、今後2〜3か月が決定的な山場である。

 クラスター弾が速やかに供与されれば、おそらく9〜10月末までには、ザポリージャ正面、へルソン正面、ドネツク正面のロシア軍防御陣地をほぼ確実に瓦解させるだろう。

 また、このことによりロシア軍が混乱すれば、クリミア半島の奪回、そして両国の境界線まで奪回できる可能性がでてくる。


5.領土奪回には使用もやむを得ない

 クラスター弾は、非人道的兵器だという。

 だが、ロシアのように、これらの兵器を実際に市民に向けて発射する国がある。

 そして、あらゆる場で、強く非難されてもそれをやめないという現実がある。

 侵攻され占拠された領土を取り返すために、クラスター弾を使わないで多くの自国の兵士(兵士は自分の夫であり、息子でもある)の犠牲を受け入れる方が良いのか。

 それとも、クラスター弾を使用して自国の兵士の犠牲を少なくし、目的を達成するのか。

 隣国の軍事大国に侵攻され、領土が占領された時に敵国兵を撃破し、自国の兵士の命を守るためならば、クラスター弾を使用してでも領土を奪回しようとするのは、やむを得ないことであろう。

 非人道的兵器は使わない方が良いというのは、自国が隣国の軍事的大国から侵攻される脅威がない国がほとんどである。

 一方で、今回のウクライナのように、隣に軍事大国があり、侵攻される恐れがある場合にはどうであろう。

 国際的合意だから、これらの兵器を保有も使用もしないというのでは、最初から国民と領土を守る意志を放棄しているようなものだ。

 ウクライナでの戦いにおいて、クラスター弾が供与されることになった。

 このことから、国を防衛するには、危機を想定した場合、通常の兵器だけでは守れないことが判明すれば、非人道的兵器であっても保有しておくことの重要性を改めて認識させられた。

筆者:西村 金一

JBpress

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