DBSがデジタル主導銀行へと変革するために取り組んだ、4つの優先項目とは?

2023年8月1日(火)4時0分 JBpress

 世界で初めて『ユーロマネー』『ザ・バンカー』『グローバル・ファイナンス』の3誌から「世界のベストバンク」という称号を12カ月のうちに冠された銀行「DBS」。これは銀行界では、映画でいうアカデミー賞で「作品賞」「監督賞」「主演賞」の3つを同時受賞したに等しいともいわれる。顧客満足度最下位だったシンガポールの元政府系金融機関、DBS銀行(旧称:The Development Bank of Singapore)は、いかにして最先端のテック企業へと生まれ変わったのか?「世界最高のデジタル銀行」と称賛されるDBSの変革の軌跡から、DXを成功させるための教訓、ベストプラクティス、成功の秘訣を学ぶ。

 第2回となる本稿では、DBSが「バンキングを楽しくする」ことを中核に据え、デジタル主導銀行へと変革するために取り組んだ4つ優先項目を紹介する。

(*)当連載は『DBS 世界最高のデジタル銀行:テクノロジー企業を目指した銀行の変革ジャーニー』(ロビン・スペキュランド著、上野 博訳/東洋経済新報社)から一部を抜粋・再編集したものです。

<連載ラインアップ>
■第1回 ビーチに上がる鬨(とき)の声
■第2回 デジタル主導銀行へと変革するために取り組んだ4つ優先項目(今回)
■第3回 組織の芯までデジタル化する

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 2014年のプーケット島での経営陣ミーティングを終えて、DBSは「デジタルウェーブ」の導入に取り掛かった。「新しいアジアにおいて選ばれるアジアの銀行」となることが、「アジアウェーブ」の中核であった。同様に、「デジタルウェーブ」では「バンキングを楽しくする」ことが中核に据えられた。目的は、カスタマージャーニーに焦点を当てて、導入される数々のテクノロジーから得られる機会を活用することである。

(東洋経済新報社)

 その結果どうなるか?バンキングを目に見えなくすることで顧客にとって楽しい経験とするということだ。銀行のあらゆる部署で、顧客のために「バンキングを楽しくする」取り組みが始まった。

 当時のピユシュの懸念は、多くの金融機関がフロントエンドのシステムを多少いじくるか、単純にウェブサイトを更新するといったことをやっていて、中核からの変革に取り組んでいないことだった。こうした考え方が、デジタルテクノロジー導入の3分の2が失敗に終わる理由につながっていることを、様々な調査が示している(※)

(※)「なぜほとんどの変革は失敗するのか?ハリー・ロビンソンとの対話」マッキンゼー&Co

「デジタルの口紅を纏うだけでは十分ではないのだ」—ピユシュ(CEO)

 そのため、経営陣は「デジタルウェーブ」を銀行全体に組み込もうとし始めた。同時に、常に顧客視点からのトランスフォーメーションに取り組むようにした。ピユシュは「デジタルウェーブ」がIT施策として見られることがないようにしようと決心した。実際それは、全く異なるものだった。

 単にデジタルの口紅をつけるのでなく、完全なデジタル主導銀行へと変革するために、ピユシュは以下の4つの項目に優先的に取り組んだ。

1. ジャーニー全体が円滑に流れるインターフェイスを通じて、ポジティブな顧客経験を創造すること。
 例を挙げれば、同行は「DBS PayLah!」というデジタルウォレットアプリを導入して、人々が携帯電話でバンキングが行えるようにした。それは便利で安全に設計されていたが、同時にソーシャルな楽しみも組み込まれた。他の例では、顧客が利用に慣れるまでのデジタルチャネルの利用料は最低限とした。そのためDBSが立ち上げたオンライン口座開設では、中小企業は簡素で速く簡単なプロセスで自社の顧客をデジタルに乗せられた。

 またDBSは、融資の申し込みをデジタル化したアジアで初の銀行となった。それはシンガポール内の支店にとっては重要なものとなっていった。例えば中小企業は今や11種類の融資商品をオンラインで申し込めるのだ。顧客は申し込みをオンラインで追跡可能であり、融資手続きの通知を即時に受けられる。他の例としては、香港の中小企業顧客はモバイルアプリを通じて融資を申し込むことが可能で、原則的に1時間以内に承認を受けられる。

2. モバイル手段とアナリティクスを通じてサービスをデジタル化し、紙を排除すること。
 これを実現するために銀行は、SOA(サービス・オリエンテッド・アーキテクチャー)とAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)のフレームワークを活用した。デジタルサービスによってペーパーレスで即時に手続きが行われるため、顧客にとっては収入や費用面でのベネフィットが実現される。

3. テクノロジーの活用に基づく新しいビジネスモデルを創造すること。
 このゴールは手数料や金利収益からの転換を必要とする。

4.職員がその職務環境下で目的感を育めること。
 これが実現すれば、意思決定の羅針盤として機能し、エンパワーされ取り組み意識の高い労働力が創出される。

 この4つの優先項目によって、銀行経営陣の考え方が統一され、変革に向けた意欲を明確に言葉にできるようになった。


「バンキングを楽しくする」を組織内に伝える

 全ての職員に前向きに取り組んでもらうためには、新しい戦略が導入されつつあることを全員が理解する必要があった。

 DBS銀行は、戦略を説明する1ページの図を作成した。その図には「バンキングを楽しくする」と屋根に大書された家と、5つのアジアの柱が描かれていた。家の基礎部分には、「デジタル世界を受け入れる」「カスタマージャーニーを組み込む」「誇り! と価値を実践する」という戦略優先項目が書き込まれていた。背景はシンガポールの風景となっていた。


「バンキングを楽しくする」を組織外に伝える

 新しい戦略とともに、「Livemore, Bank less(生活をもっと楽しく、バンキングはもっと少なく)」という対外ブランディングが採用された。

 DBSが戦略の名称について調査したところ、「バンキングを楽しくする」では、顧客が理解できないことが分かった。そこで銀行は新しい対外ブランディングを創ることを決定した。

 対外キャッチフレーズでは、DBSが顧客の心の中に実現したいものを表現した。それは、もし銀行の金融サービスが、顧客があるべきと考える方法で提供されるなら、結果としてイライラや退屈さが少なくなるだろうということだ。そうなれば、銀行取引に関する不安は薄まり、一方で「自分がしたい方法で生活を送る」ことに、より多くの時間を使えることを良いと思うことになる。

 実際、DBSが思い切って「Livemore, Bank less」と言ったことで、人々は、バンキングは生活の一部としてシームレスであるべきというそのアイデアを好ましく感じた。一方のDBSの側にとっても、バンキングを顧客の生活に組み込むことで、その財務目標を達成することが楽しいものとなった。DBSがこれを実現するためには、フレキシブルで俊敏になり、同時に真剣に顧客中心になることが求められた。

 銀行のウェブサイトで見られるビデオでは、銀行を目に見えなくするというコンセプトをさらに踏み込んで説明している。この戦略を導入するために、経営陣は以下の3つ戦略原則を同等のレベルで採用した。

1. 組織の芯までデジタル化する(Become Digital to the Core)
2.カスタマージャーニーの中に自らを組み込む(EmbedOurselves in theCustomer Journey)
3.組織文化を変革し、スタートアップ企業のように考える(Culture byDesign, andThinkLike aStart-up)

<連載ラインアップ>
■第1回 ビーチに上がる鬨(とき)の声
■第2回 デジタル主導銀行へと変革するために取り組んだ4つ優先項目(今回)
■第3回 組織の芯までデジタル化する

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筆者:ロビン・スペキュランド,上野 博

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