「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?

2024年11月19日(火)4時0分 JBpress

 一軒の焼き鳥屋から始まり、「丸亀製麺」の大ヒットから東証プライム上場を果たしたトリドールホールディングス(HD)。今や国内外に約20の飲食ブランドを持つまでに成長したグローバルフードカンパニーは、なぜ次々と繁盛店を生み出せるのか。本連載では『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』(粟田貴也著/宣伝会議)から、内容の一部を抜粋・再編集。「外食は最も身近なレジャー」をコンセプトに快進撃を続けるトリドールの戦略ストーリーと、成功の源泉とも言える独自の経営論について、創業社長・粟田貴也氏が自ら明かす。

 第2回は、製麺所の風情を生かした特有の店舗設計をはじめ、各店で何もかも手づくりするオペレーションなど、セントラルキッチン化の真逆を行く非合理なチェーン展開に丸亀製麺がこだわる理由を探る。

<連載ラインアップ>
■第1回 「新規参入でもシェアを取れる」トリドールHD粟田社長が語る、外食産業市場のダイナミックな可能性とは?
■第2回 「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?(本稿)
■第3回 省人化の時代に、なぜ丸亀製麺は“増人化”へ舵を切ったのか?トリドールHD粟田社長が語る「体験価値」
■第4回 トリドールHDが始めた「KANDO開拓コミッティ」とは?離職率が下がれば顧客満足度が高まるメカニズム(12月3日公開)
■第5回 トリドールHD急成長の土台、従業員一人ひとりが持つ成長哲学「トリドール3項」とは?(12月10日公開)
■第6回 国内外で年間250店、トリドールHD粟田社長はなぜ新規出店の意思決定を人に任せるのか?(12月17日公開)

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チェーン展開に潜む標準化の罠

 体験価値は店づくりから始まります。丸亀製麺の店舗は、ひと目見て「丸亀製麺だ」とわかるように統一したイメージで作られています。細部にいたるまで、丸亀製麺の世界観を反映しているのです。

 入り口付近にあるのは、小麦粉の袋に製麺機、うどんを茹でる釜です。入店してすぐ製麺のシーンやうどんを湯がくシーンが目に飛び込んでくるよう、うどんの切り出し機の位置や釜を置く台の高さなどを細かく調整しています。麺は小麦粉と水と塩だけを使い、店内で製麺します。生地を1日寝かせるための熟成室もお客様に見える場所に設置するようにしています。

画像提供:トリドールホールディングス

 切り出したうどんは小分けにして15分から20分ほど茹でます。お客様のオーダーに合わせて、釜揚げうどんならば釜揚げ用の桶に移します。かけうどんやぶっかけなどのだしで食べるうどんであれば、水で締め、その様子もしっかり見えるようにしています。肉系のうどんであれば、肉を焼く調理もお客様の目の前で行います。

 その隣には、天ぷらとおむすびのコーナー。売れ行きを見ながら、リアルタイムで天ぷらを揚げ、おむすびを握ります。すべて視覚や嗅覚など五感で楽しめるオープンキッチンになっているのです。天ぷらはできるだけ揚げたてを召し上がっていただきたい一方で、さまざまな天ぷらが並んでいる様子が食欲をそそるため、こまめに揚げて並べるようにしています。

 薬味はセルフサービスで取れるようにし、だしも店で1日6回ほど引いています。お客様が多い店舗では、それ以上引くこともあります。だしはすぐに風味や香りが飛んでしまうため、1日分を作り置くことはできないのです。調理の部分だけでも、チェーン店とは思えない非効率なオペレーションであることが、おわかりいただけますでしょうか。

 自分の考えた業態が全国に広がって、たくさんのお客様に料理を食べていただける。これは、飲食店経営をしている人にとっては夢の一つだと言えるでしょう。

 しかし、チェーン化には標準化の罠があります。個人店で繁盛している店がチェーン化する際、店が増えるにつれて人気が落ちていくのを見たことはありませんか。それは希少価値が薄れたことよりも、標準化することでその店の強みが失われるからではないか、と私は考えています。

 チェーン展開する時は、オペレーションやメニューを効率的・画一的にしていくことを求められます。その過程で、お客様の考える「これがある・ここがいいからこの店に行く」といったその業態の強みが薄まってしまう、あるいはなくなってしまうのでしょう。

 逆に言えば、一番の強みを手放さなければ、いくら店舗が増えても人気であり続けられると思います。その強みが何であるのかで、どれだけ多店舗化できるかが決まるのです。もしその店の強みが「シェフの人柄がいい」「歴史ある店舗の風情が素敵」など、人や物件そのものによる場合は、チェーン展開は難しいと考えられます。

 丸亀製麺の強みは、製麺所の風情を感じながら打ち立て・茹でたてのうどんが食べられるという体験価値です。それを手放したら、お客様は来なくなり、自分たちは丸亀製麺ではなくなってしまう。そんな危機感を常に抱いています。

 仮に丸亀製麺が店内製麺をやめて工場で大量生産した冷凍麺を使用したら? 茹で釜を無くしたら? これらの施策は、調理時間の短縮や水道光熱費のコストカットにつながります。現在の冷凍技術であれば、かなり状態の良いうどんを出すこともできるでしょう。でも、それでお客様はいらっしゃるでしょうか。私はそうは思いません。

 製麺機などの設備投資、茹でる湯を沸かしたり水でうどんを締めたりする水道光熱費などのランニングコスト、すべて手作業にすることによる人件費や教育投資費の増加…効率やコストパフォーマンスが悪く見えるようなことでも、体験価値を生み出すためにやっているのです。店づくりの段階からかけてきたコストは来店動機につながっていると考えています。

 私もこれまで多店舗化についてはさまざまなアドバイスを受けてきました。その多くが効率化・簡略化に関するものでした。しかし私は、効率化が先ではないと考えています。たくさんのお客様が来てくださることで、収益が上がり、多店舗化できるのです。非効率だと言われても、お客様の感動を生み出す部分は省略したらいけないと肝に銘じています。


二律両立をやり抜くことで、他社の追随を防ぐ

 丸亀製麺の店舗が増え始めた頃、繁盛する様子を見て、いくつものコピー店が出てきました。しかし、店名を「○○製麺」にしようと、セルフうどんの方式だけを取り入れようと、丸亀製麺で提供している体験価値がなければ、お客様はリピートしてくれません。そうして、コピー店はいつのまにか消えていきました。

 同業態への他社の参入が難しいのは、丸亀製麺が「二律両立」をやり抜いているからです。二律両立とは、「うどんを手間暇かけて粉から手づくりする」と「全国各地に店舗を増やし同じクオリティで提供する」というように、一見すると相反する事柄を両立することです。

 通常、全国に店舗を増やそうとすると、セントラルキッチン化を進めるものです。そのほうがどう考えても早い上に、クオリティも一定に保てるからです。しかし、丸亀製麺はそうしない。創意工夫と信念で、2つを同時に成り立たせるのです。

「スピード感を持って出店する」と「すべて直営店にする」も相反する考え方でしょう。1年に100店というペースで出店するならば、フランチャイズ方式のほうが早いし出店コストも抑えられる。でも、丸亀製麺はそうしません。

「体験価値」こそが丸亀製麺の強みであり、マニュアルにしばられず臨機応変にお客様を感動させられる人に運営してほしいからです。それはやはり、丸亀製麺の社員や丸亀製麺のパートナーさん(丸亀製麺のアルバイト・パート従業員の名称)にしかできないことなのです。

 だからどれだけコストがかかっても、丸亀製麺の理念に共感してくれる人を採用し、トレーニングを受けてもらい、店舗に立ってもらう。そうすれば、お客様の体験価値が損なわれることはないと考えています。

 結局、コストカットや効率化によるスピードアップよりも大切なのは、繁盛店をつくることです。それが優先順位の最上位となる。繁盛店をつくると売上収益が立つ。投資したコストを上回る利益を出すくらい、一つひとつの店が繁盛すればいいのです。

 そうすれば固定費の比率が低くなり、収益が上がり、出店資金ができる。そして、結果的に早い出店につながっていく。遠回りしているようで、長い目でみれば持続的に多くの店を出す早道になっているのです。

 手間暇をかけ、非合理を貫く。これは一朝一夕で真似できることではなく、参入障壁は高くなる。飲食店経営をわかっている人であればあるほど、丸亀製麺のやり方は非合理すぎて真似できないでしょう。それゆえに他社との売上競争に巻き込まれることなく、お客様の求めることだけを追求することができます。

 価格帯やファストフードというくくりであれば競争相手がいるのかもしれませんが、体験価値という点では競争相手がいないブルーオーシャンが広がっています。だからこそ、このやり方が我々独自の勝ち筋となったのです。

<連載ラインアップ>
■第1回 「新規参入でもシェアを取れる」トリドールHD粟田社長が語る、外食産業市場のダイナミックな可能性とは?
■第2回 「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?(本稿)
■第3回 省人化の時代に、なぜ丸亀製麺は“増人化”へ舵を切ったのか?トリドールHD粟田社長が語る「体験価値」
■第4回 トリドールHDが始めた「KANDO開拓コミッティ」とは?離職率が下がれば顧客満足度が高まるメカニズム(12月3日公開)
■第5回 トリドールHD急成長の土台、従業員一人ひとりが持つ成長哲学「トリドール3項」とは?(12月10日公開)
■第6回 国内外で年間250店、トリドールHD粟田社長はなぜ新規出店の意思決定を人に任せるのか?(12月17日公開)

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筆者:粟田 貴也

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