丸亀製麺に次ぐ宝の山になるかもしれない…トリドールが展開のハワイアンカフェ"コナズ珈琲"急成長の理由

2025年4月15日(火)10時15分 プレジデント社

「コナズ珈琲」外観イメージ(多摩ニュータウン店) - 画像=プレスリリースより

トリドールホールディングスが展開する喫茶店業態の「コナズ珈琲」が急成長している。経済評論家の鈴木貴博さんは「2025年2月に発表された決算資料によれば、丸亀製麺の売上の伸び率よりも高い。客単価は1000円を超えているのに、躍進している」という——。
画像=プレスリリースより
「コナズ珈琲」外観イメージ(多摩ニュータウン店) - 画像=プレスリリースより

■冬の時代を迎えている喫茶店


喫茶店は冬の時代です。帝国データバンクによれば2024年度における負債額1000万円以上の喫茶店の倒産件数は2月段階ですでに66件で、2023年度の倒産件数68件を上回りそうな勢いです。背景にはコンビニコーヒーに客を奪われていることや、電気・ガス代、人件費の高騰に加えて、世界的なコーヒー豆の値上がりがあると言われています。


一方で丸亀製麺を運営するトリドールの喫茶店業態であるコナズ珈琲の急成長が話題になっています。直近、2025年2月に発表された決算資料によれば、国内での丸亀製麺の売上の伸び率が12.1%だったのに対して、国内のその他業態の伸び率は24.5%です。うどんよりもその他の伸び率が倍以上高いのです。


その売上増分の約4割を占めるのがコナズ珈琲です。ちなみに約3割のラーメン業態のずんどう屋がそれに次ぐのですが、事業利益への貢献ではずんどう屋の伸びはマイナスです。一方のコナズ珈琲の事業利益増加額は第3四半期の累計で4.2億円の利益増ですから、たいしたものです。


さらに注目すべきこととして、トリドールの国内店舗売上ランキングではトップ20の中にコナズ珈琲が10店舗ランクインしていて、6店舗ランクインの丸亀製麺を完全に抑えているのです。


■街の喫茶店の苦戦理由は「新しい競争相手の出現」


街の喫茶店では倒産急増現象が起きている一方で、コナズ珈琲が丸亀製麺以上に急躍進している。この一見パラドックスのように見える現象について、経済の視点で解明してみたいと思います。


さて、順序としてはなぜ街の喫茶店が苦戦しているのかから話を始めます。というのも苦戦の理由を理解することで、コナズ珈琲の戦略も深く理解できるようになるからです。


昭和の時代には町のいたるところにあった喫茶店ですが、小規模の喫茶店は最近では軒並み苦戦しています。ここ30年ぐらいの長期スパンでみて、街の喫茶店が衰退した理由は相次ぐ新しい競争相手の出現です。


もともと街の喫茶店は、私たち庶民が息抜きに休憩する場所でした。仕事の合間や学校の帰りなどにちょっと喫茶店に立ち寄って一息つく。それが喫茶店という場所でした。コーヒー一杯は500円。それで(スマホのない時代でしたから)新聞や雑誌を読んで時間をつぶして、リフレッシュしたらまた仕事に戻る。それが喫茶店の存在価値でした。


当時は喫茶店は脱サラしたサラリーマンが起業する一番多い業態でもありました。ある程度サラリーマン時代に貯めた貯金を元手に起業するなら、喫茶店は手ごろで確実な商売だったものです。


■ドトール、スタバ、コンビニコーヒーの登場


この風向きが変わったのが1990年頃です。ドトールなどのコーヒーチェーンが増加し始めます。堅いキッチンスツールのような椅子で居場所としては狭い店内ですが、200円ほどでコーヒー一杯が楽しめる。バブル崩壊で経済が停滞した時代には、喫茶店よりも安いチェーン店はサラリーマンの味方として急成長します。


90年代後半にはアメリカからスターバックスが上陸します。より上質なコーヒーに400円程度の対価を払う消費者が増えたという意味では喫茶店にとってはよい変化でしたが、喫茶店からみればより強い競合相手が出現して全国へと広がったマイナスの方が大きかったでしょう。


さらに2010年代に入ってコンビニコーヒーが普及します。スターバックスに対抗できる品質のコーヒー豆をその場でマシンが淹れてくれる。それで100円ですから、このコンビニコーヒーの持ち帰りがデフレ時代の寵児のように消費者の支持を得たわけです。


写真提供=共同通信社
セブン‐イレブン・ジャパンのセルフ式ドリップコーヒー「セブンカフェ」(2013年11月29日) - 写真提供=共同通信社

とはいえ街の喫茶店も以前ほどは儲からないにせよ、一定の利用客がいてなんとか経営を続けてこられたというのが2010年代までの状況でした。2020年にコロナ禍が起きて、そこで経営をあきらめた事業者もいました。それでも生き残ってきた街の喫茶店に、今ふりかかっているのがインフレの猛威です。


■コーヒー豆の国際価格が高騰している


事情通の方はコーヒー豆の国際価格が高騰していることをご存知だと思います。実はこの問題よりももっと大きな問題があるのですが、先にコーヒー豆の価格高騰状況について解説させていただきます。


きっかけは気候変動です。2021年頃からコーヒー豆の産地では雨が降らないなどの天候不順があって、コーヒー豆の不作が続きました。2019年に1kgあたり2.88ドルだったアラビカ種のコーヒー豆は、直近では8.59ドルの価格に急騰しています。


それでも為替が円安になったタイミングでは一瞬コーヒー豆の価格が下がるなどの幸運があって、過去3年間は円建てのコーヒー豆の価格は1kgあたり700円前後で推移していたのです。その均衡が今年は完全に破れて直近では1375円まで国際価格が上がってしまいました。コーヒー豆の価格は1年で約2倍に高騰しているのです。


「これは大変だ。喫茶店の経営が成り立たなくなるんじゃないか?」


とお感じかもしれませんが、実はそうでもありません。


純粋にコーヒーの原価だけで考えてみます。喫茶店がコーヒー豆を仕入れる卸売り価格は国際価格からさらに上がって1kgあたり1800円程度になります。では私たち消費者が飲むコーヒーはというと、一杯のコーヒーに使われるコーヒー豆の分量は約10gです。原価が倍になったといっても、それまでの一杯9円が18円に値上がりしただけです。


■コーヒー一杯には「800円の壁」がある


実際は顧客に提供されずに廃棄されるコーヒー豆もあるわけで、提供原価という視点でいえば中小の喫茶店の価格に占める原価は50円程度だと計算したほうがいいかもしれません。それでもコーヒー豆だけが要因ならコーヒー一杯600円で提供しているお店なら、20〜30円の価格改定ができれば大丈夫。そのような水準です。


一方で今回のようなコーヒー豆の国際価格の高騰ではコンビニコーヒーのように安価で提供してきた事業者には価格改定が必須です。これまでが一杯100円なら新価格は120円になるぐらい価格を変更しないとコンビニコーヒーは成り立ちません。


では街の喫茶店では何が厳しいかというと、コーヒー豆以外にも、従業員の賃金や電気代・ガス代などそれ以外のコストが一斉に上がっていることです。要するにコーヒー一杯600円ではトータルの経営は成り立たず赤字だという状況に追い込まれているのです。


さて、ここで喫茶店が値上げをしたいと考えても、実は喫茶店には価格の壁が存在します。コーヒー一杯の価格が800円を超えてしまうと、顧客は喫茶店に立ち寄らなくなるのです。しかもこの800円の壁、これから先も当面は動きそうにはないのです。


写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■600円で買っているのは「喫茶店で過ごす時間」


よく似た話としてラーメン店には1000円の壁があると言われてきました。ラーメン店でも仕込みに使うさまざまな食材が高騰し、光熱費や人件費も同様に急騰しています。しかし長年の感覚でラーメンは一杯1000円でおつりがくるというのが庶民感覚だったことで、値上げができないと言われてきました。


この壁が最近、崩れつつあります。ファミレスやファストフードの食事とは違い、ラーメン店が提供する一杯には手間暇がかかっていて、それに対してファストフードよりも高い対価を支払うのは当然だという考え方が広まってきたのです。普段は牛丼を500円で食べているけれども、今日はちょっと贅沢をしておいしいラーメンを一杯1200円で食べようというような習慣が定着し始めているのです。


では同じように喫茶店でも、


「今日は一杯1000円のおいしいコーヒーを飲んで、自分にご褒美をしたい」


と考える顧客が出てこないのでしょうか?


ここが喫茶店経営にとってのジレンマです。常連顧客が600円出して買っているのはコーヒーではなく喫茶店で過ごす時間なのです


仕事の合間に休憩してコーヒーを飲む。その小一時間程度の時間に対して消費者が支払う対価の相場はというと、比較対象は原価ではなく自分自身の時給になります。日本人の最低賃金が1000円程度であれば、休み時間の相場は高くても800円というのが庶民の考え方です。


■コナズ珈琲の客単価は1000円を超えている


ラーメンが900円から1200円に値上がりしても庶民がついてきたのは、原価率がそれなりにかかっているのを知っているからです。一方で庶民は自宅で飲むコーヒーが一杯いくらなのか、細かい原価計算はしていなくても一杯数十円以内だろうということには気づいています。


ですから街のコーヒー店ではどんなにいいコーヒー豆を使ったとしても高い価格はとれません。高い価格のコーヒーを提供できるのは場所代としての価値が高い場所だけ。それが都心の外資系の高級ホテルのロビーでコーヒーが一杯2000円で提供される理由なのです。


さて、前半の街の喫茶店の苦境のメカニズムが理解できたところで、この記事の後半ではトリドールの運営するコナズ珈琲がなぜ躍進しているのかを考えてみたいと思います。簡単にいえばコナズ珈琲の客単価は1000円を超えているのです。なぜなのかを解説したいと思います。


■ハワイのコーヒーショップは居心地が良い


そもそもトリドールがコナズ珈琲を始めようと考えたきっかけは、ハワイに丸亀製麺を出店したことでした。ワイキキのクヒオ通りにある丸亀製麺は観光客に大人気で、いつ見ても長蛇の列ができています。物価の高いハワイでは丸亀製麺はめちゃくちゃ美味しいにもかかわらずあの安さということでアメリカ人観光客にも大いにウケているのです。


さて、トリドールの経営陣はこの丸亀製麺のハワイ進出にあたって何度も現地に出かけているのですが、そこで出会ったのがハワイのコーヒーショップの居心地の良さでした。より正確にいうとハワイのパンケーキショップの居心地の良さが気に入って、そのコンセプトのお店を日本で展開しようとして誕生したのがコナズ珈琲だったというわけです。


画像=プレスリリースより
「コナズ珈琲」内観イメージ(神奈川綾瀬店) - 画像=プレスリリースより

ハワイ好きの方ならそう申し上げるとピンとくるかもしれません。ホノルル観光では、行くべきお店として最初に名前があがるのがエッグスンシングスという有名なパンケーキ店です。


トリドールの経営陣が訪店したという意味では、同じクヒオ通りにあるIHOP(アイホップ)というファミレスチェーンもコナズ珈琲の原点といってもいいコンセプトのお店です。日本でいうとジョナサンに近いコンセプトのカフェレストランで、ここでもやはり人気メニューはパンケーキです。


■トリドールにとって小麦は得意中の得意


さらに地元の人だけが知っているという観点では、ワイキキのはずれ、ヒルトンビレッジの横道を入ったところにあるパンケーキ店アロハキッチンの店内は、居心地のよさという観点ではよりコナズ珈琲に近いかもしれません。ではそれらのお店を参考にしたと思われるコナズ珈琲とはどのようなお店なのでしょうか?


店舗数は直近で47店舗。基本的にロードサイド店が中心で、都内では電車で行きやすい駅近のお店は板橋店ぐらいしかありません。お店は喫茶店というよりはファミレスぐらいの広さで、内装は手作りのハワイ風。椅子やテーブルもあえてまちまちの物を揃えていますが、その座り心地はゆったりしていて長時間居続けても疲れないのが特徴です。


そして一番人気のメニューはスイートパンケーキです。ハワイのパンケーキを食べたことがある方ならぴんと来るかもしれませんが、ただのパンケーキではなくパンケーキの上に巨大なホイップクリームがのっているのが特徴です。中でも人気なのがフルーツがふんだんに添えられたストロベリー&バナナホイップパンケーキ1590円(税抜、以下同じ)です。


画像=プレスリリースより
「ストロベリー&バナナホイップパンケーキ」 - 画像=プレスリリースより

インスタ映えすることからこのメニューを選ぶ客が多いというのですが、実は店内で焼いているこのパンケーキがとても美味しいのです。家族で意見が一致したのですが、おそらく丸亀製麺のDNAから小麦を扱わせたらトリドールは得意中の得意なのでしょう。


■注文すべきは「ハワイコナ100%のコーヒー」


ハワイのエッグスンシングスでは観光客がパンケーキを注文して、到着したパンケーキがあまりに大きくてびっくりすることがあるのですが、コナズ珈琲も基本的にそのサイズです。ただ常連客になったらそのあたりはわかってくるのでサイズの小ぶりなクラッシックホイップパンケーキ3枚890円を注文すれば、体重の増加を気にせずに優雅に午後の時間を過ごせそうです。


食事のメニューはロコモコやガーリックシュリンプなどのハワイアンプレートか、ハワイで有名なクア・アイナを彷彿させるハワイアンバーガーなど、やはり現地風のメニューが1500円前後で充実しています。


そして肝心のコーヒーですが本日のドリップコーヒーが550円、ハウスブレンドが650円、そしてハワイ原産のコナブレンドが750円とコーヒーショップとしては一見、800円の壁を意識した基本ラインナップになっているように見えます。


しかし実はハワイ通の目でみるとコナズ珈琲で注文すべきコーヒーはそれではありません。ハワイの現地価格と比べるとおどろくほど安く提供されているのがハワイコナ100%のコーヒー880円です。


■ハワイ通には信じられない価格設定


コナコーヒーとはハワイでとれる希少なコーヒー豆で、観光客がよく買って帰るのは10%のコナコーヒーブレンドです。アマゾンで調べてみるとわかりますが200gのコーヒー豆がだいたい1500円程度で購入できます。一方で100%コナコーヒーとなると一気に価格があがり200gなら5000〜7000円もするのが普通です。


コナズ珈琲の場合、お店の名前を「コナズ」と命名するぐらいですから、コナコーヒーはお店にとっての看板商品ということでしょう。その100%コナコーヒーが880円、ハウスブレンドが650円という価格設定はハワイ通の目から見ると信じられないくらいコナコーヒーが割安です。


ちなみにお店でお土産としてコーヒー豆を買って帰る場合、ハワイコナ100%は200gが税込4752円で販売されています。そのお隣ではハウスブレンド200gが税込1836円ですから、本来はこれくらい価格差があるのが当然なのです。


写真=iStock.com/SCStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SCStock

そこでコナズ珈琲の価格設定の秘密を考えてみたいと思います。先述したようにコーヒー一杯に使われるコーヒー豆の量は10gです。そこから単純計算すればお店で出すハウスブレンドコーヒーの豆代は小売価格で91円。同じく100%コナコーヒー一杯は238円です。


■成長の鍵は「食べ物」による客単価の上乗せ


コスト差が2.6倍ある100%コナコーヒーなので、ハウスブレンドの2.6倍の1700円で売ってもいいと飲食店経営なら考えるところですが、コナズ珈琲ではこれを完全に顧客サービスと割り切って設定している計算です。原価が150円高い100%コナコーヒーなのに売価は230円しか上乗せしていない。これを飲まない手はないと思いませんか?


さて、最後にこのように比較してみると珈琲店業態での成長の鍵は、実はコーヒーではなく食べ物のメニューによる客単価の上乗せにあることがわかります。


今回は取り上げませんでしたが、日本のコーヒー業界でダントツに頭角を現しているのは名古屋発祥のコメダ珈琲です。そのコメダはモーニングやシロノワール、カツサンドなど規格外に大きな食事メニューを提供することで有名です。


アメリカのカントリーロードサイド風のコメダ珈琲に対して、トリドールが展開するコナズ珈琲はハワイテイストの休憩場所です。言い換えると既存のコーヒーチェーンとはまったく競合しない独自の業態です。


それを考えるとコナズ珈琲、トリドールにとっては丸亀製麺に次ぐ宝の山になりそうです。トランプ関税で下がったタイミングで株を買ってもいいかもしれません(笑)。


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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経済評論家
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。
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(経済評論家 鈴木 貴博)

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