「不文律」破り非製造・金融…経団連新会長に日生・筒井氏、「驚くほど同じ考え」十倉氏の意向色濃く

2024年12月18日(水)7時55分 読売新聞

 経団連の次期会長に日本生命保険の筒井義信会長(70)が選ばれた。「財界総理」と呼ばれる会長ポストはこれまで、製造業出身者が選考の基本的な「不文律」となってきた。日本経済全体を俯瞰ふかんできるのは製造業だとされてきたためだ。初の金融機関出身の会長誕生は産業構造の変化を象徴する一方、課題もみえる。(石黒慎祐、米沢知史)

「我が意得たり」

 「驚くほど(自分と)同じ考えで、特に全世代型社会保障制度の改革では『我が意を得たり』という思いがあった」

 十倉雅和会長は17日、東京都内で報道陣に筒井氏の次期会長就任を明らかにした際、筒井氏を選んだ理由をこう説明した。

 十倉氏は任期中、経済の好循環実現に向けて賃上げの旗を振り、社会保障費の増大で財政が逼迫ひっぱくする中、社会保障制度の改革を訴えるなど、経団連の活動には社会的な視点が必要との認識を示してきた。今年5月の記者会見では、後任について「社会・経済を大局的に捉え、発信できる方を選びたい」と発言していた。

選考レース

 十倉氏の任期最終年度となり、選考レースの号砲が鳴った時点では、次期会長の候補者として筒井氏のほか、日立製作所の東原敏昭会長や日本製鉄の橋本英二会長、非製造業ではNTTの澤田純会長、三井物産の安永竜夫会長らの名前が挙がっていた。選考が進む中で、東原氏は「日立の会長職に専念したい」との意向を強め、米鉄鋼大手USスチールの買収計画を主導する橋本氏も、「経団連会長は他に多くの適任者がいる」と漏らしていた。

 それでも、歴代会長の中に「製造業が日本をリードする形は変わっていない」との声もあり、製造業が軸との見方が根強かった。だが、十倉氏は製造業を推す声を振り切り、11月に東京・大手町の経団連会館に筒井氏を招き、次期会長を打診した。筒井氏は即答を避けたが、数週間後に受諾したという。筒井氏に近い日生の幹部は「打診がきたことにも、受けたことにも驚いた」と話す。

 十倉氏は当初から、「製造業にこだわる時代ではない」と発言しており、「会長の意向が色濃く反映した人事」(経団連幹部)となった。

違和感指摘も

 経団連の歴代会長は、15人中13人が製造業出身だ。1980年代当時、国内総生産(GDP)に占める製造業の割合は約3割を占めていたが、現在は2割程度だ。伝統的な選考ルールが破られたことで、「重厚長大産業の代表とみられてきた経団連が名実ともに変わる」(財界関係者)と評価する声が上がる。

 病気で退任した中西宏明前会長も、当初は金融出身者などを後任候補とした。だが、「(技術で競う)メーカーと金融の企業間競争は形態が違う」ことを理由に、財界内に無用の争いが生じることを回避するとして、製造業出身の十倉氏に決まった経緯がある。

 また、規制改革などを提言する立場の経団連トップを、金融庁が監督する企業から選ぶことへの違和感を指摘する声もある。経団連幹部は「不文律を破る大決断だが、メリットとデメリットの両方がある人事だ」と話す。

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