「楽して稼げる」「地球にやさしい」太陽光発電が家族を壊す…持続可能なクリーンエネルギーの"とんでもない闇"

2024年12月19日(木)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/schwartstock

記録的な猛暑だった2024年夏。異常気象は世界中で起きており、温室効果ガス抑制のため各国で太陽光や風力など「クリーンエネルギー」の重要性が訴えられている。一方で、ソーラーパネルなどの負の側面も近年指摘されている。ジャーナリストの此花わかさんが、映画『太陽と桃の歌』の監督へのインタビューをもとに考察する——。
写真=iStock.com/schwartstock
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クリーンエネルギーへの移行は、人類が気候変動に立ち向かうための解決策と考えられている。その方向性に賛同する人は多いが、太陽光発電するためのパネルの導入が思わぬトラブルを引き起こすケースもある。


スペイン人のカルラ・シモン監督は、自身の経験をもとに制作した映画『太陽と桃の歌』(12月13日公開)でこの問題を扱った。本稿では、シモン監督へインタビューをもとに、この「ソーラーパネル」の負の側面について問題提起したい。


■地球を守り、雇用創出と経済成長を支えるクリーンエネルギー政策


2022年度のベルリン国際映画祭で最高賞にあたる金熊賞を受賞した『太陽と桃の歌』は、スペインの小さい村で伝統的な桃園を営む家族が、ソーラーパネルの設置により、桃園の伐採に追いやられていく物語だ。


写真提供=『太陽と桃の歌』
桃農園を営むソレ家の子供たちはカタルーニャの大自然を駆け回る日々を送っていた - 写真提供=『太陽と桃の歌』

実は、この映画はシモン監督の家族をモチーフとしており、監督が出会った農家の人々から聞いた話も反映している。フィクションといえど、スペインの田舎で起きている現実を映し出している作品だ。


この物語の背景を知るには、スペインのクリーンエネルギー政策が地域社会に及ぼしている影響について理解する必要があるだろう。日本でも似たような状況だ。


コロナ禍で大きな経済打撃を受けたスペインは、クリーンエネルギーのシフトを積極的に進めている。EUの復興基金(次世代のEU)を活用し、太陽光や風力発電を中心に再生可能エネルギーの導入拡大をしているところだ。


特に、「気候中立化」を目指す国家戦略の一環として、2050年までに電力消費の97%を再生可能エネルギーで賄う目標を掲げている。2020年には20%しかなかったグリーンエネルギーの比率を30年間でほぼ100%にしようとしているのだ。この取り組みには、雇用創出や経済成長を支える目的も含まれている。


一方で、この急速なシフトが私たちに及ぼしている影響はどのようなものか。映画では詳しく描かれていない背景を見てみよう。


■再生可能エネルギーの導入が電力価格の高騰を引き起こしている


まずは電気料金の高騰だ。天候に依存する再生可能エネルギーは電力供給が不安定である。その上、風力・太陽発電施設やインフラ整備にかかる初期投資コストが高い。電力供給の不安定性と初期費用が電気料金の上昇に直結している。ほかにもさまざまな理由はあるが、電力価格の高騰の背景に再生可能エネルギーがあることは否めない。さらに、こうした経済的影響に加えて、急速な政策推進は政治的対立も招いている。


■欧米でリベラル政党が不人気に…


例えば、フランスのマクロン大統領やカナダのトルドー首相の支持率低下、そしてカマラ・ハリス氏の大統領選敗退と、欧米の国々では最近リベラル政党が支持を失っているが、ここにもクリーンエネルギー政策が絡んでいる。


もちろん、エネルギー価格の上昇だけが、リベラル政党の支持率低下の原因ではない。再生可能エネルギー政策は「都市部エリートの価値観の押し付け」と受け取られることが多い。都市に住むリベラルなエリート層にとっては環境問題が最優先事項だろうが、一般の国民にとって電気代などを含む物価の値上がりは死活問題だ。そういうわけで、クリーンエネルギーへの急速な傾倒が政治的な分断を生んでいる。


このような背景を踏まえ、映画が描き出した家族や地域の分断を見てみよう。


写真提供=『太陽と桃の歌』
ソーラーパネルを設置するか農園を去るかの決断を迫られる一家 - 写真提供=『太陽と桃の歌』

■家族とコミュニティを崩壊させる政策を“持続可能”と呼べるのか


本作では、ソーラーパネルを自分の土地に導入すると助成金が出ることを知った桃園の所有者が、桃農園を営む一家に桃園を伐採してソーラーパネルの管理をするか、桃園を立ち去るかの決断を迫り、一家は分裂していく。


儲からない農業を辞めてソーラーパネルを管理したい人、土地を売って都市部に移住したい人がいる一方で、伝統的な農業を続けて家族を守りたい人もおり、同じ家族のなかで意見は分かれる。楽して稼ぎたい派と桃づくりを地道に続けたい派の対立だ。筆者のインタビューにシモン監督はこう語る。


「結局は、多くの小規模農家が土地を手放さざるを得ない。それが現実です。政府や地方自治体との契約によってソーラーパネル導入が決定されるため、住民が反対の声を上げるのは難しい」


政府が推し進める“持続可能な環境政策”が、実は家族や共同体にとっては、“持続可能ではない”という皮肉な結果をもらすのだ。


さらに、この問題は農地の喪失や景観・自然破壊へと広がっている。


写真提供=『太陽と桃の歌』
祖父から孫へ受け継いできた太陽と桃の歌に暗い影がさしかかる - 写真提供=『太陽と桃の歌』

■肥沃な農地を侵食するソーラーパネル


最近、日本でも無残に削られた山林や田園地帯に建つソーラーファームを見かけるようになったが、この現象はスペインでも顕著だという。シモン監督によると、2024年は、映画が本国で公開された2022年よりも、ずっと多くのファームが作品の舞台となる地域に乱立し、その景観は痛ましいものだという。


「確かに気候変動により、農作物が採れなくなった農地にソーラーパネルを設置するのは必要なことかもしれない。でも、スペインでは農作物を育てることのできる土地にまで、助成金目当てでソーラーパネルが置かれています。クリーンエネルギーの必要性は理解していますが、まだ農業ができる土地にソーラーパネルを置くことは、自然と共に生きてきた人間にとってよくないはずです」(シモン監督)


こうした状況下で、地域社会は土地を守りたい層と利益を享受したい層に、二分されている。農地が失われるということは、そこで生活を営んでいた村の祭り、行事や文化的遺産も消滅するということだ。地方の農地に大規模なソーラーパネル設置が進むなか、土地の利用を巡る住民との摩擦や景観問題があちこちで発生しているという。


そして、ソーラーパネルの持つ問題は土地利用だけに留まらない。


写真提供=『太陽と桃の歌』
一家はバラバラになるしかないのだろうか……? - 写真提供=『太陽と桃の歌』

■ウイグル強制収容所がソーラーパネルの部品を製造している


ソーラーパネルの製造過程で、中国・ウイグル自治区の強制労働が関与していると、国際的に批判されている。国際エネルギー機関(IEA)は2022年の報告で、中国がソーラーパネルの主要部品の生産能力において世界の80%以上を占めていると指摘した。


その中でも新疆ウイグル自治区は、ソーラーパネルの重要素材である多結晶シリコンの世界生産の約40%を担っているという。


ウイグル自治区での人権侵害は、トランプ前政権が強く問題視し、バイデン政権が2022年6月に新疆ウイグル自治区が関与する製品の輸入を禁止した。だが、これで一件落着とはいかない。


インドのソーラーメーカーが、ウイグル強制収容所が生産した部品を使い「インド製」としてアメリカにソーラーパネルを輸出している可能性もある、とブルームバーグが報じており、実際は世界中に広がっているのかもしれない。


「ウイグル強制収容所とソーラーパネルの関係についてスペインではあまり議論がされていませんが、ソーラー製品は年々安くなっています。もしかしたら、この裏には労働搾取があるのかもしれません」(シモン監督)


スペインのソーラーパネルがウイグル自治区で作られた製品かどうかは不明だが、「中国の太陽光パネル産業が輸出産業化するうえで大きく貢献したのがスペインやドイツを中心とする欧州市場だった」と国際貿易投資研究所の研究主幹・大木博巳氏はレポートしている。


ソーラーパネルがもたらす「持続可能性」という耳障りのいいキャッチフレーズは、農業従事者、地域社会、さらには製造過程に関わる労働者たちが負う、現実のコストを覆い隠している可能性がある。


日本でも以前から、森林を大規模に伐採してメガソーラー(大規模な太陽光発電施設)が建設されており、自然破壊だとの批判も相次いでいる。とりわけ、日本のように食料自給率が低い国で、貴重な農地をソーラーファームにするのはサステナブルのスピリットに反するものと言わざるを得ないだろう。


これらの問題を総合すると、再生可能エネルギー政策が持続可能性を目指す一方で、多くの矛盾を抱えていることがわかる。9000人のカタルーニャの農民をオーディションしてキャストを選び、3カ月も家族のように暮らし本物の家族を作り上げて制作された『太陽と桃の歌』のリアルな視点は、その矛盾を直視させる一助となっている。


写真提供=『太陽と桃の歌』
映画『太陽と桃の歌』キービジュアル - 写真提供=『太陽と桃の歌』

●タイトル
『太陽と桃の歌』


●公開表記
全国上映中


●コピーライト
© 2022 AVALON PC / ELASTICA FILMS / VILAÜT FILMS / KINO PRODUZIONI / ALCARRÀS FILM AI


●ビリング
監督・脚本:カルラ・シモン 『悲しみに、こんにちは』
出演:ジョゼ・アバッド、ジョルディ・プジョル・ドルセ、アンナ・オティン
2022年/スペイン・イタリア/カタルーニャ語/カラー/ヴィスタ/5.1ch/121分/原題:ALCARRÀS/日本語字幕:草刈かおり
後援:スペイン大使館 インスティトゥト・セルバンテス東京 配給:東京テアトル
© 2022 AVALON PC / ELASTICA FILMS / VILAÜT FILMS / KINO PRODUZIONI / ALCARRÀS FILM AI


『太陽と桃の歌』公式サイト


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此花 わか(このはな・わか)
ジャーナリスト
社会・文化を取材し、日本語と英語で発信するジャーナリスト。ライアン・ゴズリングやヒュー・ジャックマンなどのハリウッドスターから、宇宙飛行士や芥川賞作家まで様々なジャンルの人々へのインタビューも手掛ける。
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(ジャーナリスト 此花 わか)

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