高校時代のリーダー経験で将来の収入が33%アップ! データで明かされる驚くべき事実
2024年12月25日(水)6時0分 ダイヤモンドオンライン
高校時代のリーダー経験で将来の収入が33%アップ! データで明かされる驚くべき事実
37万部のベストセラーとなった『「学力」の経済学』(中室牧子著)から早9年。教育分野にはすっかり「科学的根拠(エビデンス)」という言葉が根付いた。とはいえ、ジャーナリストや教育関係者が「科学的根拠」として紹介しているものには、信頼性の低い研究も多い。そこで、中室牧子氏がみずから、世界で最も権威のある学術論文誌の中から信頼性の高い研究を厳選、これ以上ないくらいわかりやすく解説した待望の新刊が発売された。「勉強できない子をできる子に変える3つの秘策とは?」「学力の高い友人と同じグループになると学力が下がる」といった学力に関する研究だけでなく、「小学校の学内順位は将来の年収に影響する」「スポーツをすると将来の年収が上がる」といった、「学校を卒業した後の人生の本番で役に立つ教育」に関する研究が満載。育児に悩む親や教員はもちろん、「人を育てる」役割を担う人にとって必ず役に立つ知見が凝縮された本に仕上がった。待望の新刊『科学的根拠(エビデンス)で子育て』の中から、一部を特別に公開する。
Photo: Adobe Stock
リーダーになることも将来の収入を上げる
「将来しっかり稼ぐ大人に育てる」方法の2つ目は、子どもたちが積極的にリーダーになるよう仕向けることです。
そもそも、リーダーとしての経験をほかのさまざまな経験と区別して数値化することができるのでしょうか。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校のピーター・クーン教授らは、アメリカの高校生についての豊富な情報が含まれた複数のデータを用いた研究を行いました(*1)。
なかでもとりわけ「才能調査」は、アメリカの40万人もの高校生が、丸2日間、400問もの質問を含むアンケート調査やインタビューに協力して行われた大規模な調査で、高校生の行動や人格、能力に関するさまざまな情報が含まれています。
「才能調査」のデータによれば、22.0%の男子生徒が、3年間の高校生活のあいだに少なくとも1度は部活動のキャプテンや生徒会の会長などのリーダーを経験しているということです。
これ以外にも、「自然と人がついてきてくれるかどうか」とか「自分は影響力があるほうだと思うか」といったリーダーとしての資質に関する自己評価の質問や、「50人以上の前で話をすることがあるか」とか「会議の議長をすることがあるか」といったリーダーとしての行動を問う質問もありました。
さらに、この調査の対象になった高校生たちは、9〜13年後にもう一度インタビューされましたから、クーン教授らは、高校時代のリーダー経験が就職したあとの収入に与える影響を調べることができました。
分析の結果、高校時代にリーダーシップを発揮した経験がある人は、そうした経験のない人に比べると、高校を卒業して11年後の収入が4〜33%も高くなることが示されたのです。
もう少し具体的に言うと、高校時代に運動部のキャプテンだった男性は、部活動に参加してはいたもののキャプテンではなかった人と比較すると、11年後の収入が4.2%も高くなります。
また、リーダーシップに関する自己評価が上位3%の人たちは、自己評価が平均以下の人たちよりも11年後の収入が16.2%も高くなります。リーダーとしての行動を取った頻度が上位3%の人たちは、頻度が平均以下の人たちよりも11年後の収入が32.5%も高くなるということがわかったのです。
加えて、高校在学中にリーダーだった人は、高校を卒業して11年後に管理職に就く確率も高くなっていました。リーダー経験の賃金プレミアム(リーダー経験があることの賃金の上乗せ分)は、彼らが将来管理職になったときにもっとも大きくなることが示されています。
しかし、リーダー経験が、キャリアのどの時期に有利に働くかについては、いくぶん見解が分かれています。クーン教授は、管理職になったあと、つまりキャリアの中盤に影響が大きいことを示していますが、むしろキャリアの初期や採用の時点で有利になることを示すエビデンスもあります。
中でも、スウェーデンの3つの有名大学における「学生組合」の選挙データを用いた研究は有名です(*2)。
スウェーデンでは、大学の経営に関する意思決定は、学長・副学長を含む14人のボードメンバーが行うことが法律で定められています。この14人の中には、学生の代表として、学生組合のリーダーも含まれ、彼ら彼女らも参加します。
このため、学生組合のリーダーの役割は非常に重く、本格的な選挙が行われることが知られています。しかし、政治家を選ぶ選挙とは異なり、世論調査もありませんので、立候補する学生自身は自分が当落線上にいるのかどうかはよくわかりません。
この状況を利用して、当落線上ぎりぎりのところで選挙に勝ってリーダーに選出された人と、逆にぎりぎりのところで負けてリーダーになれなかった人を比較したのがスウェーデンの国立研究機関である労働市場・教育政策評価機構のマーティン・ランディン准教授らです(このような分析手法を「回帰不連続デザイン」と呼びます)。
こうすることで、選挙の時点での周囲からの評価はほとんど変わらないのに、リーダーを経験できたかできなかったかという違いが生じ、リーダー経験がもたらす効果をより正確に知ることができます。
この研究では、選挙に当選して実際にリーダーになった学生は、落選した学生に比べて、選挙後3年以内に高収入の仕事に就く確率が高いことがわかりました。
*1 Kuhn, P., & Weinberger, C. (2005). Leadership skills and wages.Journal of Labor Economics, 23(3), 395-436.
*2 Lundin, M., Skans, O. N., & Zetterberg, P. (2021). Leadership experiences, labor market entry, and early career trajectories. Journal of Human Resources, 56(2), 480-511.
(この記事は、『科学的根拠(エビデンス)で子育て』の内容を抜粋・編集したものです)