あいみょんの「マリーゴールド」は、なぜ“1億回再生”を達成できたのか?

2024年12月20日(金)4時0分 JBpress

 最近の音楽業界で注目を集めるのは、米ビルボードのヒットチャートにランクインしたYOASOBI、Creepy Nutsなど、グローバルで成功するアーティストたち。ネット時代、SNS時代のマーケティングは従来からどう進化しているのか? 本連載では『令和ヒットの方程式』(博報堂DYグループコンテンツビジネスラボ/祥伝社)から内容の一部を抜粋・再編集し、ヒットコンテンツが生まれる時代背景やメカニズムを解説する。

 第1回はSpotify、Apple Musicなど音楽ストリーミングサービスの「プレイリスト」がコンテンツ消費に与える影響を探る。


20年代前半/音楽ストリーミングサービスのプレイリストを攻略する

■〈デバイス〉音楽ストリーミングサービス

 Spotify は、スウェーデンの企業によって2008年にスタートした音楽ストリーミングサービスである。当時、世界の音楽業界は、違法楽曲データによって、セールスが減少していた。

 その問題を解決し、「アーティストに正当な利益を還元するサービスを作る」という志でできたサービスがSpotifyだ。2011年にはアメリカにも進出し、今では世界規模で利用者を増やし続けている。

 Spotify が登場したのちに、Google(2011年にGoogle Play Music、2020年にYouTube Music に統合)やApple(2015年にApple Music)、 Amazon (2019年にAmazon Music HD)といったIT大手企業が続けて定額制の音楽ストリーミングサービスを開始した。これにより同市場は急速に成長する。

 音楽ストリーミングサービスによって、生活者が聴取できる楽曲数は爆発的に増加した。そうして徐々にユーザー数を増やし、2022年の国内の音楽配信の売上は1000億円を超える。2023年の「コンテンツファン消費行動調査」では、音楽利用者のうち58.5%が、有料無料を合わせた音楽ストリーミングサービスを利用しているという結果が出ている。

 この利用デバイスの大きな変化は、日本の音楽市場全体にも影響を及ぼした。コンサートを除く、フィジカルと配信(ダウンロード、ストリーミング)の合計売上額は、1998年から長きにわたり減少傾向だったが、音楽ストリーミングサービスの広がりが、減少に歯止めをかけ、V字回復への兆(きざ)しを見せるようになった。

■〈情報源〉プレイリスト機能の広がり

 音楽ストリーミングサービスは、音楽を聴くためのデバイスの進化版だが、音楽と出会う情報源としての性質も大きい。その役割を担っているのが、「プレイリスト機能」である。

 プレイリスト機能はさまざまな楽しみ方がある。ユーザーが自分の好みの楽曲を自由に選んでプレイリストを作成して公開できるほか、音楽配信のプラットフォーマーが公式にプレイリストを作成し、ユーザーに提供している。

 プレイリストの種類は多岐に及び、 ランキング、音楽ジャンル、アーティスト、生活シーンやそのときの感情などに合わせてプレイリストを選ぶことができる。公式プレイリストには、AIが個人の嗜好に応じて自動で生成するものもあれば、編集者によってキュレーションされるものもある。

 公式プレイリスト入りがきっかけで、ヒットするアーティストが出てくると、プレイリストに入るための音楽ストリーミングプラットフォームへの新曲のプロモートは、アーティストにとって必須の動きになってきている。

 従来の音楽プロモーションの、「マスメディアで取り上げられ、ランキング上位に入り、CDが売れる」という流れは、音楽ストリーミングプラットフォーム上では、「あるプレイリストに入って再生数がアップし、ランキングプレイリストに入り、さらに再生数がアップする」という流れに代替されるようになった。

 デバイスと情報源の融合は、今みんなが聴いている曲をリアルタイムで知り、自分でもすぐに聴くことができるようになった。すべての楽曲には、どの国で、いつ、何回再生されているかのデータが付随し、ユーザーはデイリーランキングや急上昇ランキングも把握できる。

 過去と同じく、ランキングには強い力がある。ランキングの曲がそのまま聴けるという便利さから、とりあえずランキングのプレイリストを聴いているというユーザーも少なくないからだ。

 また、日本の場合は音楽ストリーミングサービスのランキングに入るアーティスト数は世界最少にもかかわらず、ランキング停滞期間は世界最長というデータもある。ランキング入りをして楽曲認知を広めることは簡単ではないが、一度入るとその後のロングヒットになりやすい状況であると言える。

 一方、定額制で聴き放題という仕組みは、知らない曲との出会いも後押ししている。「聴いたことがない曲」を避けがちな音楽ライト層も、さまざまなプレイリストを利用し、新しい楽曲との出会いを受け止めるようになった。これは、過去の楽曲(旧譜)に対しても同様である。新曲だけでなく旧譜にもアクセスしやすくなったことで、ユーザーにとっての新譜と旧譜の境目はあいまいになった。

 膨大な音楽データを保有する分析プラットフォーム「LUMINATE」によると、2023年の日本のストリーミングトップ1万の楽曲の中の約3割は、5年以上前の旧譜だという。楽曲リリース時にはまだ生まれていなかったような若い世代に、過去の名曲が再発見され、SNSやショート動画によって、再びブレイクする楽曲も出現してきている。

 旧譜を懐かしく聴取するだけではなく、リリース日にこだわらずに聴取する利用者によって、CDが流通のメインだった頃には考えられなかったような音楽消費行動が始まった。

■〈アーティスト〉プレイリストを味方につけたあいみょん

 音楽配信サービス時代を代表するアーティストと言えば、あいみょんを外せないだろう。2018年にリリースした《マリーゴールド》が2019年6月に日本国内アーティストとして初のストリーミングで累計1億再生を達成すると、2023年中には9曲が1億回を達成した。

 ちなみに、2023年で1億回達成楽曲は200曲を超えている。「日経トレンディ」の記事によると、あいみょんはSpotifyから生まれたビッグアーティストであるという。最初にあいみょんの人気に大きく火がついたのは、2018年の夏だった。2018年夏に《マリーゴールド》をリリースし、テレビ音楽番組での露出が増えると、全国的なヒットとなる。

 じつは、Spotifyの担当者は、リリースと同時にこの曲のブレイクを予測し、新譜紹介のプレイリストやその他の人気プレイリスト多数にあいみょんをピックアップしていたのだ。これらのプレイリストでリスナーとの接点を広く用意していたことが、テレビ出演などのプロモーションと連動して急激なリスナー数の拡大につながったという。

 Spotify が、ブレイクを予測できたのは、今後の活躍を期待し、アーティストを応援するプレイリスト「Early Noise」(2017年)にあいみょんを選んでいたことが大きい。それによって、あいみょんが初期の段階のリスナーを獲得し、このリスナーたちの視聴行動データを、早い段階で分析できたことが奏功したという。

 これまでもレコード会社は、CDの売上データやコンサートの動員などのさまざまなデータを分析し、アーティストのプロモートに活かしてきた。

 しかし、音楽ストリーミングサービスでは、それらのデータに加えてさらに詳細なユーザーの音楽聴取データを分析することで、より高度なアーティスト、プロモート戦略を立てることができるようになった。いつ、誰が、どの楽曲を聴いているというデータをリアルタイムで取得できる進化したデバイスは、音楽を提供するアーティストサイドのプロモーションも大きく変えたのである。

<連載ラインアップ>
■第1回 あいみょんの「マリーゴールド」は、なぜ“1億回再生”を達成できたのか?(本稿)
■第2回 乃紫(noa)の「全方向美少女」が押さえた“ヒットの公式”とは?
■第3回 生活者が思わず食いつく ドラマ「逃げ恥」と星野源「恋」のヒットを生んだフィードコンテンツとは?(1月8日公開)

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筆者:博報堂DYグループコンテンツビジネスラボ

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