伊藤かずえ58歳「娘は社会人1年目、これからは自分の時間を楽しむ。3年前に始めた水墨画は、一生モノの趣味に」
2025年2月7日(金)12時30分 婦人公論.jp
「水墨画のいいところは、道具が少なく、手軽に始められる点。予定のない午後とか、ちょっと時間ができると、音楽を聴きながら筆を動かしています」(撮影:洞澤佐智子)
50歳から書道教室に通い始め、身近に墨や筆があったことから、ふと水墨画にチャレンジしてみたという伊藤かずえさん。墨の香りに癒やされながら、自由に楽しむ伊藤さんのスタイルを聞きました(構成:村瀬素子 撮影:洞澤佐智子)
* * * * * * *
初めて描いた竹で自信がついて
水墨画を始めたのは、3年ほど前。スマホでネットサーフィンをしていたら、たまたま水墨画の画像を見つけたのです。私は長年書道を習っていて、墨のにじみやかすれ、濃淡の使い方はなんとなくわかっていたので、水墨画も描けそう、と軽い気持ちでトライしてみました。
最初に描いたのは竹。調べたお手本画像を見ながら色紙に描いてみたら、なかなか素敵! 竹は初心者向きなんです。節をきちんと描けばそれらしく見えるし、墨の濃淡で葉っぱの奥行きも出せる。それで自信がついて、動物や花など簡単そうなお手本を探しては、見よう見まねで描くようになりました。
水墨画のいいところは、道具が少なく、手軽に始められる点。私の場合、リビングのテーブルの片隅に、墨汁、小筆、筆ペン一式を入れた小さなカゴを置いて、いつでも取り掛かれる状態に。予定のない午後とか、ちょっと時間ができると、音楽を聴きながら筆を動かしています。
私の描き方は、誰かに教わったわけではなく自己流ですが、たとえばウサギなら、まず輪郭を薄い墨で描いてから、濃い墨で整えたり、目などのパーツを強調したりします。太さや濃さを出したいときは仕上げに筆ペンを使用することも。
色を使わず墨一色で、ウサギのふっくらした毛並みや、月など風景の遠近感を表現できるのが水墨画の面白さですね。だいたい20分あれば1枚描けます。というのも、水墨画は描き足していくと、どんどん黒くなってしまうので、やめどきも大切なのです。
花を描くときは、アクリル絵の具で色を足すこともあります。花と葉の形が似ていると、墨だけではなかなか違いが出せなくて。ネットで調べたら、色を使っているお手本を見つけたので、藤には紫、彼岸花には赤で色をつけたりして、自由に描いています。
南国の風景やアニメのキャラクターなど、現代的な題材にも挑戦していますが、愛車のシーマを描くのがいちばん難しい。1990年発売の初代シーマを修復して34年乗り続けているのですが、そのことを以前SNSに載せたら、話題になったこともありました。動きのない無機質な物は特徴がつかみにくくて、未だに上手く描けません。
多趣味になったのは、不安を抱いたから
私は若い頃から、いろいろな趣味に挑戦しています。きっかけはドラマ『ポニーテールはふり向かない』で初主演を果たしたあと、急に将来が不安になったことでした。芸能界はいつ仕事がなくなるかわかりませんから、何か手に職をつけようと思い立ったのです。
母が和裁の仕事を家でやっていたので、私も洋服を作ることができればと思い、通信教育で型紙を作る技術を習得しました。自分の衣装もよく作りましたね。タモリさんの『笑っていいとも!』に自作の服で出演したこともあります。
今はもっぱら手縫いで、ドラマを観ながらちくちくと。古くなったジーンズをバッグにリメイクするなど楽しんでいます。水墨画もそうですが、私は手先を使うことが好きなんですね。
書道は、50歳から教室に通っています。きっかけはテレビ番組『芸能界特技王決定戦 TEPPEN』の書道対決でした。
もともと小学生のときに習っていたもののブランクがあるので、当時中学生の娘が通っていた近所の書道教室に私も入って猛練習。でも結果は惨敗し、悔しくてもっと上手くなりたいと続けることに。おかげで、2年後に同番組でTEPPEN(1位)を獲ってリベンジを果たしました。
これまで描いてきた水墨画の数々。植物から動物、干支まで題材は多岐にわたる。「見た目は難しそうでも、描いてみると意外と簡単なものもあります」(伊藤さん)
書道教室には今も月4回通っています。その教室の流派では、私の今の段位は、師範や修士などの上、進士です。
お稽古は、午後1時から5時半まで。かな文字や、空海の文字をお手本にして書くこともあります。作品を提出すると、先生が細かく添削してくださり、OKが出るまで何枚も書き直すので、あっという間に時間が過ぎるのです。
教室には、小学生から私より年上の方までいて、和気あいあいとした雰囲気。ときどき雑談しながら書いています。シーンと静かな環境より、ちょっとざわざわしたところのほうが集中力を養えるようです。
書道は、家ではやりません。悪いクセがついてしまうから、先生の筆の力の入れ方などを見ながら練習するほうがいいのです。私の中で書道は、一歩一歩高みを目指して続けている趣味。水墨画は、あくまでも自己流でリラックスして楽しめる趣味。今のところそんな感じです。
「手軽、簡単、と言いましたけれど、もちろん本格的に取り組めば、一生かかっても辿り着けない奥深い芸術だと思います」
子どもが巣立ったあとはマイペースに趣味を楽しむ
11年前に離婚し、以来、娘と二人暮らしです。娘は社会人1年生。仕事が楽しいようで、親としてはホッとしています。娘は朝早くに家を出て、帰りも遅い。体を壊さないように、娘のために朝ごはんとお弁当作りは続けています。朝は焼き魚に、野菜をたっぷり入れた味噌汁、納豆とごはん、が定番ですね。
娘とは仲がよく、一緒に運動したり、娘の友だちや、そのママたちみんなでカラオケに行ったりもします。ただ、今はとにかく娘が忙しい時期。水墨画を一度すすめたのですがそんな時間の余裕はないようで、私の作品を見せても「いいんじゃない」と一言で終わりです。(笑)
私も若いときは、ドラマを掛け持ちして忙しかった。現在は昔に比べると仕事も落ち着き、子育ても終了したので、こうして趣味を楽しむこともできます。
水墨画はさしあたって、墨、小筆、あとは表面が少しザラッとしている画仙紙があれば始められるので、読者のみなさんにもおすすめです。全部100円ショップで揃えられますよ。
私はもともと書道で使っていた小筆を再利用したり、水と墨汁を混ぜるための容器には、ヨーグルトのプラスチック製の蓋を使ったりもしています。汚れたらそのまま捨てられて手軽なのです。
書道経験がない方でも、やってみると意外に簡単だと思います。思いがけないにじみやかすれのおかげで味わいが出ますから。墨の香りは心が落ち着きますし、マイペースにできるので、老後の趣味にも最適です。
手軽、簡単、と言いましたけれど、もちろん本格的に取り組めば、一生かかっても辿り着けない奥深い芸術だと思います。
私も、今は簡単に描けそうな題材ばかり選んでいますが、断崖が連なる中国の風景画とか、相当なテクニックを要する作品にも、そのうち挑戦したいですね。描きたいものは尽きないので、一生楽しめそうです。
関連記事(外部サイト)
- 【筆ペンで気軽に水墨画1】黒一色だからこそ、観る人の想像力を刺激する。まずは基本の「点」「線」「面」から
- 【筆ペンで気軽に水墨画2】味わいが一気に深まる「濃淡」「にじみ」「かすれ」「ぼかし」のテクニック
- 和田秀樹が<女性は60歳になったらやりたい放題で生きていくべき>と断言する理由とは…第二の人生は「偽りの自己」から「本当の自己」で進むべし
- 「老後資金2000万円に縛られすぎかも。適度に使って今を楽しむことも必要な理由」経済の専門家が解説!永濱利廣×岸本葉子
- 「推し活」「開放感での散財」は要注意!生きがいに繋がる娯楽費は、時期と予算を書き出して優先順位を明確に【高齢期の家計を圧迫する5大支出】