鈴木おさむ氏、SMAPが見せてくれた“奇跡”とは「信じて書くことは、もうできない」

2024年2月9日(金)9時0分 マイナビニュース

「来年2024年3月31日で32年やってきた放送作家業を辞めることにしました。脚本業も辞めます」——2023年10月12日、自身のSNSで放送作家業を辞めることを発表した鈴木おさむ氏。現在、地上波連ドラ最後の脚本作であるテレビ朝日系土曜ナイトドラマ『離婚しない男—サレ夫と悪嫁の騙し愛—』(毎週土曜23:30〜)が放送されている。
今作は、“父親の親権獲得率わずか1割”という壁に立ち向かう男の奮闘を描くリコン・ブラックコメディ。キャストとの座談会では「最後にバズるドラマを作りたい」と胸の内を明かしていた鈴木氏だが、1月20日に放送された第1話の見逃し配信は、テレビ朝日の歴代全番組史上、初回配信再生数トップとなる15日間で580万再生を突破(582万6,167再生 ビデオリサーチにて算出 期間1月21日〜2月4日)するなど、その思いが現実のものに。そんな鈴木氏が、脚本家でも小説家でもなく“放送作家”として大事にしてきたこと、そしてSMAPがいたから信じられた“奇跡”とは——。
○放送作家として「話題を呼ぶ仕掛け」を大事に
——『離婚しない男』発表時のコメントでは、「正直、色んな意味で話題作になり、問題作となると思います」と仰っていました。これまでもたくさんの話題作、そして問題作を生み出してきた鈴木さんの、放送作家としての矜持を教えてください。
結果を出すこと、です。ドラマでもバラエティでも、用意した台本を出演者が嫌がることや、現場でモメることは必ずあります。だけど放送したあとの視聴率や評判が良ければ、すべてが救われるんですよね。結果を出せなかったら怒られますけど。僕は執筆業を始めて32年間、何をするときにも「“放送作家”の鈴木おさむです」と名乗ってきました。脚本だけやっている方にも、小説だけやっている方にも勝てないけど、放送作家の僕だから書けるものが絶対にあると信じて、自分がやるからには放送作家ならではのアプローチで話題作を生み出そうと思ってやってきました。どんなにいい作品でも、人知れず終わっていくことがありますよね。僕はそれは嫌で、やっぱり話題になってナンボ。まずは振り向かせないと話にならないので、“最初に話題を呼ぶ仕掛け”をめちゃくちゃ大事にしています。『離婚しない男』も、必ずスタートから話題作になると自信がありました。
○ラジオ番組での経験から“当て書き”が武器に
——キャストとの座談会では、最終回のこだわりのシーンで、「どんな女優よりも、篠田(麻里子)さんが綾香として言うのが一番」と、篠田さんを想像して書いた、篠田さんに言ってもらいたかった台詞があると話していましたが、鈴木さんの作品は、“当て書き”による役者とキャラクターのシンクロ度の高さも魅力の一つだと感じます。鈴木さんは放送作家としてデビューした頃からタレントさんのラジオの脚本を担当されていましたが、その経験が活かされているのでしょうか。
『ニッポン放送』で担当していたあるラジオ番組では、オープニングトークを全部書くくらい、台本をしっかり用意していました。ラジオはテレビよりもタレントさんのパーソナリティーが表に出やすいから、放送作家も「その人が話す言葉」で書かないといけない。その経験は勉強になりました。
——タレントさんのことをくわしく知らないと、「その人が話しそうな言葉」を書くのが難しそうですが、どのように書いていたのでしょうか。
タレントさんについて知ることも大事ですが、「その人がこんなことを話していたらいいな」というイメージを膨らませて書くのが肝で。たとえば小池徹平くんのラジオだとしたら、現在の年齢の「小池徹平」にどんなことを話してほしいかな、「小池徹平」が今どんなことを話してたら話題になるだろうと考えながら書いていました。言われてみると、その経験がドラマの当て書きに活きているのかもしれません。
○SMAPは奇跡を信じさせてくれる存在だった
——鈴木さんは、昨年10月に放送作家業を辞めることを発表された際、SNSで「SMAPが解散してから、自分の中で120%の力が、入りにくくなってしまったというのもあります」と投稿されていました。20代でSMAPと出会って、大ヒット番組『SMAP×SMAP』の放送作家を20年以上務めてきた鈴木さんにとって、SMAPはどんな存在だったのでしょうか。
僕にとってSMAPは、奇跡を信じさせてくれる存在でした。彼らの番組では、1%の奇跡を信じて台本を書いていました。たとえば、「ストライクが出ないと終われないボウリング」なんて、普通のタレントの企画だったらやりません。テレビなんて、奇跡を信じて作っても奇跡が起こらないことがほとんどですから。だけどSMAPなら、僕はストライクを信じて書くことができたんです。しかも、実際に結構な確率で奇跡が起こる。だからSMAPがいたときは、奇跡を信じて番組を作ることができていたんですけど、彼らがいなくなって、奇跡を信じるスイッチが入らなくなってしまいました。
——奇跡を信じて、たくさんの奇跡を一緒に作ってこられたんですね。
『27時間テレビ』で野外ライブを企画したことがありました(フジテレビ『武器はテレビ。 SMAP×FNS 27時間テレビ』、14年)。夏の野外ライブは台風による雨や雷で中止になる恐れがあるので、普通に考えたらスタジオで開催すべきなんです。だけど野外だと5,000人のお客さんを呼べるし、いい画が撮れる。僕は奇跡を信じて、野外ライブを企画しました。そしたら台風が来て、雨が降り始めて(笑)。これでは野外ライブは難しいと屋内にもセットを組み始めたんですけど、当日の夕方に突然、雨雲と台風が去っていって、野外ライブをやることができたんです。天気予報でも全くそうなる予定はなかったので、本当にそのライブのために避けていったみたいに。
——それが奇跡の「45分3秒のノンストップライブ」になったと。
そんな奇跡を信じて書くことは、もうできない。いい時代に一緒に番組を作らせてもらえて、十分やりきったかなと思えます。
■鈴木おさむ
1972年4月25日生まれ、千葉県出身。大学在学中に放送作家デビュー。現在放送中の『ワルイコあつまれ』、『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』、『家事ヤロウ!!!』、『GENERATIONS高校TV』など、多数の人気バラエティ番組を担当。映画『ラブ★コン』(06)、『ハンサム★スーツ』(08)、『ONE PIECE FILM Z』(12)、『新宿スワン』(15)、ドラマ『人にやさしく』(02)、『奪い愛』シリーズ(17〜)、『M 愛すべき人がいて』、『先生を消す方程式。』(20)などを手掛けた。2024年3月31日をもって放送作家業を引退することを発表しており、『離婚しない男—サレ夫と悪嫁の騙し愛—』は地上波連ドラ最後の作品となる。

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