Yahoo!ニュース×ザ・ノンフィクション、異文化コラボでドキュメンタリーの裾野拡大へ「“引っかかり”をどう表現するか」

2024年3月10日(日)14時55分 マイナビニュース

●食い入るように見た『令和の婚活漂流記』
日本最大のニュースポータルサイト「Yahoo!ニュース」と、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)が、共同プロジェクトを始動した。新設した「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」の第1弾として、『ザ・ノンフィクション』の話題作や新作の映像を約10分に編集し、担当ディレクターの取材後記などのテキスト記事とともに配信していく。
同じドキュメンタリーというジャンルを手がけながらも、互いの文化が違うと感じた両者によるコラボレーションには、どのような狙いがあるのか。そして、なぜ『ザ・ノンフィクション』からバズる作品が放たれ続けるのか。「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」の金川雄策チーフ・プロデューサーと、『ザ・ノンフィクション』の西村陽次郎チーフプロデューサーの対談を通して、ドキュメンタリーの未来を探っていく——。
○フジテレビに感じた異常なほどの熱い思い
——まずは、今回タッグを組むことになった経緯から教えてください。
金川:「Yahoo!ニュースドキュメンタリー」を立ち上げる準備をする中で、共通の知人にフジテレビの濱(潤 情報制作局情報制作センター室長)さんや宮下(佐紀子 同局情報企画開発部長)さんをご紹介いただいて、何か一緒にできないかとお付き合いを始めさせていただいたんです。そこで驚いたのが、皆さんの異常なほどのドキュメンタリーへの熱い思いでした。僕のイメージでは、言葉を選ばずに言うと、テレビ局の中でドキュメンタリーというのが日陰にあると勝手に思っていたので、ドキュメンタリーへの熱い思いを持っている方々が中心にいるからこそ、今の『ザ・ノンフィクション』があるんだと感じました。
 国際共同制作を目指すピッチイベント「Tokyo Docs」で、日本のドキュメンタリーを海外に紹介する場所を一緒に作らせていただきながら、 「Yahoo!ニュースドキュメンタリー」の第1弾をぜひフジテレビさんと一緒にやってみたいとお声がけさせていただいたら、その番組として『ザ・ノンフィクション』を挙げていただき、西村さんと一緒にお仕事をするようになりました。
——『ザ・ノンフィクション』という番組名が挙がってきたときは、どんな印象でしたか?
金川:個人的にも大好きな番組で、弊社にも「毎週見ているよ」というファンが大勢いるんです。そんな番組と第一歩を踏めるなんて、こんなにありがたいことはないので、ぜひぜひという感じで話が進んでいきました。
——金川さんの中で最近の『ザ・ノンフィクション』のお気に入り回は何ですか?
金川:この前の結婚相談所で婚活に挑む人たちの回(『結婚したい彼と彼女の場合 〜令和の婚活漂流記2024〜』2月4日・11日放送)は、食い入るように見てしまいました(笑)。よくぞあそこまで自分のことをさらけ出してくれたと思うのと同時に、私は男性たちの不器用な感じに共感して応援する気持ちで見ていたんです。あれだけ頑張っているのだから、本人に何かしらの変化は絶対あるだろうし、いい方向に向かってくれていると願いたいです。なので、婚活シリーズはぜひラインナップに加えていただきたいですね。
——婚活シリーズは前作も非常に反響の大きかった回ですね。ただ、全国を対象にしているネットメディアに対し、『ザ・ノンフィクション』は関東ローカルの番組です。そこは懸念点にならなかったのでしょうか。
金川:他局のテレビ朝日さんの『アメトーーク!』で特集されるくらいの認知度がありますし、ローカル放送だからこそ、ここが初めて見られる場所になると思うので、そういう意味ですごく価値があるのではないかと思っています。
——西村さんは、今回の話を受けた際の感触はいかがでしたか?
西村:10月で30年目を迎える長寿番組だからこそ、常に新しい仕掛けを考えてないと、番組って簡単に停滞してしまうんです。決して恵まれた制作環境ではないなか、どう盛り上げていくかを考えると、やっぱり新しい地平に開拓していかなきゃいけないと思っています。
 僕自身がチーフプロデューサーになってもうすぐ丸5年で、ネット上で新しいことに挑戦すると、番組にいい形で跳ね返ってくるということは、今までの取り組みで分かっていたので、Yahoo!ニュースさんという大きなニュースメディアと組めば、また新しいことができると思い「絶対やりたいです」ということで実現しました。
●能登半島地震で急きょ『花嫁のれん』の取材へ
——今回のテーマは、令和の時代を生きる人々の記録を残すという意味で「#令和アーカイブス」と設定されていますが、この狙いは。
西村:『ザ・ノンフィクション』は2021年4月に放送1,000回を迎えたのですが、その時に、これまで番組が何を伝えてきたのかを検証するドキュメンタリーを放送したんです。そこで振り返ってみると、その時代を生きる人たちの映像記録、そして「心」を記録してきたというのが、この番組の持っている特徴であり、やってきたことだと改めて感じました。なので将来、「令和の人々はあんな時代を生きていたんだ」と記録に残るようなものを出したほうがいいと思いました。
 最近はそうでもなくなってきましたが、僕らテレビメディアは1回放送したら基本終わりなんです。でも今回のような取り組みは、Yahoo!ニュースさんがある限り残っていくと思うので、そこできちんと令和を生きる人たちを描いて記録を残すという企画は、Yahoo!ニュースさんと一緒にやる意味がとてもあると思って提案しました。
金川:我々としては、『ザ・ノンフィクション』が作ってきたその時々の記録という強いコンテンツをインターネット上にアーカイブしていくと、見え方が少し変わってくるところがあると思うんです。インターネットメディアとしてドキュメンタリーを棚出ししていくとどうなっていくのか、ワクワクしています。
——そうしたテーマに沿って、3月10日現在で『ひとりで産むと決めたから〜未婚の母が生きる道〜』『新宿二丁目の深夜食堂〜名物ママ 54年目の閉店〜』『花嫁のれん物語2024〜能登半島地震 若女将の苦悩〜』『わすれない 放射能から逃れた少女の10年』『塙山キャバレー物語〜母と娘 20年ぶりの再会〜』が配信されています。このうち、『花嫁のれん』は新作ですね。
西村:近年放送した話題作に加えて、今後『ザ・ノンフィクション』で続編や新作を作るもので、タイムリー性のあるものを先に配信していくという場にもしたいと考えています。今回の話が始まった当初は、3月からスタートするということで、東日本大震災の被災者を追ってきた『わすれない』シリーズから、原発事故で福島の南相馬市から9カ所も住まいの移動を繰り返した絵理奈さんのドキュメンタリーを配信することが決まっていたんです。そしたら、今年の元日に能登半島地震が発生しました。
金川:それで西村さんが、「『わすれない』というシリーズもありますが、能登で言うと長期取材をやっている『花嫁のれん』というシリーズがあって、今現場に取材が入ってるんです」という話をポロッとされて、「それをこの取り組みでぜひやっていただけないでしょうか!」と無理を言ってお願いしたら、「できますよ」と言っていただいて。週1でドキュメンタリーを作ってらっしゃるからそういう感覚なのかもしれないですが、その返しがカッコよくて(笑)。そういうことで、「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」の最初の作品になりました。
西村:『花嫁のれんは』は担当ディレクターの大里(正人)さんが18年にわたり取材をされていて、地震が起きてすぐ「続編をやりたいです」と提案を受けたんです。63歳のディレクターさんで、最近は国内最高齢のストリッパーのシリーズ(『私が踊り続けるわけ』)という名作を作られて、『ザ・ノンフィクション』に対してもうやる気満々で(笑)。それで取材に行ってもらったら、和倉温泉の「多田屋」という旅館なんですけど、館内のモニターがたくさんあるので、地震発生時の映像記録がたくさんあるんです。あれを見て、衝撃を受けましたね。
金川:本当にグッと被害が近くなる感じがありましたね。ぜひ多くの人に見てもらいたいです。
○ネットとドキュメンタリーの親和性は
——フジテレビとのコラボが決まる前に、「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」を立ち上げることになった狙いは、どういうものだったのでしょうか?
金川:Yahoo!ニュースではこれまで、個人のクリエイターさんのドキュメンタリー制作を支援する活動をやってきました。2018年から始めて、これも10分くらいの短尺で300本以上の作品を出してきたのですが、ドキュメンタリーを作っていらっしゃる方は本当に必死で、すごく情熱をかけて撮られるんですよ。それに対して、私たちとしてももっともっと多くの人に見てほしい気持ちがずっとあって、どうやって社会に広げていけばいいのかと考えたときに、コンテンツパートナーと手を組んで一緒にやっていくことを始めようと思いました。
——2018年から始めて、インターネットとドキュメンタリーの親和性という点での手応えはいかがでしたか?
金川:実は最初は難しいかなとも思っていたのですが、Yahoo!ニュース トピックスに掲載されている記事の中でも、ドキュメンタリーで追っている記事はすごく深みがあるんです。1本にかけるコストもかかってますし、その人の人生をより深く掘り下げているので、被写体の強い言葉や訴えかける強い思いが他の記事と比べて突出したものが出てくるわけですよね。そうするとすごく読まれますし、ユーザーからの評価もすごく良かったりすることもあるので、やってみたらやっぱり届くものは届くんだと分かってきました。
——『ザ・ノンフィクション』については、先ほど西村さんが「ネット上で新しいことに挑戦すると地上波の番組にいい形で跳ね返ってくる」とおっしゃっていましたが、YouTube、FOD、TVerで傑作選や見逃し配信を進めて、その手応えはいかがですか?
西村:『ザ・ノンフィクション』は一般の方を取り上げていますが、その人にとって放送後にマイナスの反響が出ることもあり得るので、ネット配信に関してこれまでは慎重でしたが、多くの取材対象者が「見逃し配信」を認知してくれ、全国で見られることを希望する方も多いので、去年から可能なものはTVerとFODで無料の見逃し配信をやっています。再生数はどんどん伸びており、始めた頃は、話題作でも前・後編合わせて20万を超える作品がいくつか出る程度だったのが、先月放送した『僕を産んでくれたお母さん〜言葉を失ったママと家族の4年〜』(2月18日・25日放送)は57万再生を超えました(※3月7日現在)。関東ローカルで有名人・芸能人も出てこない長尺ものという中では、特筆すべき数字だと思っていますし、魅力的なコンテンツをちゃんと送り出せば、若い方も含めて広い世代が見てくれるんだと思いました。
——さらに、今回の取り組みによってネットでの出し口がまた一つ広がるということですね。
西村:また新しいところに広がっていくといいなと思いますし、全国には『ザ・ノンフィクション』を見られない方もいっぱいいるので、番組のことを知ってもらえたらいいと思います。そもそもネットユーザーは「ドキュメンタリーだから」という「ジャンル」で見ているわけじゃないと思うんです。「なんか面白いのがあるよ」という感覚で映像に接していると思っています。その中で、ネット上のチャンネルが1つ増えるのはすごくうれしいし、ありがたいし、どういうことになるのかなととても興味があります。
●「共感」しなくても「自分と関わりを持てる」ものに
——今回の対談にあたり金川さんから、なぜ『ザ・ノンフィクション』という番組がここまで人気になったのかを聞いてみたいと伺いました。
金川:はい。『ザ・ノンフィクション』は、本当にドキュメンタリーで気を吐いて、成功されてらっしゃると思っているんです。固定ファンもたくさんついているようにお見受けしますし。そうなっていくには、西村さんがおっしゃったように「ドキュメンタリーだから見ている」ということじゃなくて、「このコンテンツが面白い」と思って見てくれる人がどれだけ増えるかという話だと思うんです。なので、30年という長い時間でどのようにやって人気に火がついていったのか、ぜひ教えていただきたいなと。
西村:先ほど金川さんが、テレビ局の中でドキュメンタリーはどこか日陰の存在というイメージがあったとおっしゃっていましたが、制作者側もどこか「自分たちは質の高い、良質な番組を作っているんだ」という意識を持っていた時期があったと僕は思うんです。構造的な問題で言うと、2000年くらいになってから民放でドキュメンタリーの枠が減って、制作者が高齢化していった。そうなると、彼らは自分が面白いと思うものを作って、その結果自分と同じか、それ以上の世代しか見ないようになり、それを見た人は「とてもいい番組だった」と思うけれども、その輪が広がっていかないし、制作者も広がっていかない、ということが続いてきました。
 そんな中、僕が5年前に『ザ・ノンフィクション』のチーフプロデューサーになって思ったことは、若者のテレビ離れと言われているけど、今、動画は人類史上一番見られているのだから、そこにチャンスがあるはずだと。そして周りを見渡すと、あらゆるバラエティコンテンツにおいて、いわゆるドキュメンタリー性が「ヒットのカギ」になっていたんです。リアリティーショーやドッキリ番組もそうだし、『イッテQ』、『オモウマい店』など、予測のつかないドキュメンタリー性のあるものがヒットしているじゃないですか。そこをつかむしかないと思って、最初にやったのは、F2層(女性35〜49歳)をドキュメンタリーの視聴層にスライドさせようということだったんです。そこは長寿番組の安心感で、ちゃんとしたものを作ってさえいれば、上の世代の人は見てくれるので、あとは若い人が興味を持ってくれるように、番組の“顔つき”を作っていきました。番組内容はもちろん、タイトルやナレーターさん、「サンサーラ」の歌い手さんの決め方も含めて、本来映像が好きな若い人たちに見てもらえるようにとにかく心がけてスライドしていった結果、視聴者層が広がっていったというのがありますね。
——タイトルの部分で言うと、どんな工夫があるのですか?
西村:一番は「自分には関係のない話」と思われないことが大事だと思っています。テレビに向かって自分の価値観をぶつけられるような、取材対象者の姿を通して、価値観や生き方の提示をすることを大切にしています。例えば、単純に『婚活物語』ではなくて『結婚したい彼と彼女の場合』とします。テレビを見ている人が、婚活をしていなくても、結婚してても、していなくても、世代を問わず誰もが「もしも自分だったら…」という気持ちで、登場人物たちの言動を見ていけるように“水を向ける”のです。「あなたならどうしますか?」ということですね。それは必ずしも「共感」でなくてもいい。とにかくテレビを見て、自分と関わりを持てるかというところがとても大事なので、そこをとにかく狙って作り続けています。
 ただ今回、面白かったのは、Yahoo!ニュースさんは「共感」というのを重視されていて、我々と意見が違ったんです。この前話題になった婚活の回は共感だけじゃなくて、「こんな人と結婚したくないな」とか「あれ? 意外といい人かも」とか自分が関われるんですよ。この現象は、ドラマやバラエティではあまりなくて、実際にいる人物で実際に起きていることだから、強い意見を持って、誰かと思わず語り合いたくなる。そんな気持ちをいかに作れるかだと思っています。
金川:いかに“引っかかり”を作るかということですよね。「今晩泊めてください」と言って泊まる人の回(『今晩 泊めてください 〜ボクと知らない誰かのおうち〜』(23年10月8日・15日放送)もそうでした。
西村:あのシュラフ石田さんの回が本当に面白いと思ったんですよ。こんなにいろいろ番組をやっていても知らない価値観があるんだと感心して、僕の中では『NHKスペシャル』にも負けないと思いましたね。そういうことを、みんなで語り合ってもらえるように意識しています。
——私は『ザ・ノンフィクション』のナレーターさんやディレクターさんへの取材記事を書いてYahoo!ニュースさんにも掲載いただいていますが、コメント欄を見ると「返信」する人がものすごく多いんです。ユーザーの皆さんが“語りたくなる”番組なんだといつも感じています。
金川:今は核家族や単身世帯も増えていますし、一つのものを見て、それに対して考えることがあっても述べる場所がなくなってきている部分があると思います。今回の取り組みでもコメントできるようになっているので、そういう場として良い方向に見てもらえるといいなと期待しています。
○「クズ人間」と言われる人も制作者は本当の意味で愛する
金川:『ザ・ノンフィクション』には、被写体に対する愛情みたいなものを感じるんですよね。婚活の回なんて、もうみんな抱きしめたくなるんですよ(笑)。もちろん、ご本人にとって嫌なところも見せるけど、基本的には作り手の愛情があって、優しい眼差しを感じるんです。
西村:制作側は本当に付き合いが長くなってくるので、本当の意味で愛してないと作れないんですよね。だから、ケンカもするし、説教もする。SNSでどんなに「クズ人間」と言われる人も、制作者は愛しています。放送が終わっても付き合いは続いていくので、その人の人生を世にさらすということの覚悟を最初に決めているんです。本当に嫌いになっちゃうパターンもあるんですが、その場合は、やっぱりいい番組にならないですね。
——決して「輝いている人」ばかりではない「市井の人」を追う『ザ・ノンフィクション』ならではの信頼関係ですね。
金川:僕らもこれまでクリエイターさんたちと一緒に作っていて、取材対象についてどこまで責任を取って描いていくのかという意識が、制作者一人ひとりによっても違ったりするので、被写体と作り手の信頼関係というのは、改めて大事だと思いますね。そうした中で、“引っかかり”をネットの中でどう表現していくかが、まさにカギなんだろうなと思いました。
●場を提供するだけで、信じられない才能が出てくる
——今回のコラボレーションによって、それぞれが培ってきたノウハウや流儀が共有されて、また新しい表現が生まれるということも期待できそうです。
金川:僕らはこうやってお話を聞かせていただくだけでもすごく学びになりますが、いろいろ掛け合わせていくことによって、文化が混じり合って面白いものが生まれてくると思うんですよね。「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」は、いろいろなものが混ざって面白い渦になっていくような、作り手たちにとって面白い場所にしていくということも、すごく大事なことだと思っています。もちろんユーザーに何をどう届けるのかということを軸に話して、みんなで喧々諤々(けんけんがくがく)とやっていこうと思うのですが、そういう場所が実はあまりなかったのではないかと思って。
西村:そうですね。今回の取り組みは改めて新しいことをやっているんだなと思っていて、ドキュメンタリーという近いことをやっているように見えるけど、結果、異文化交流になったじゃないですか。今回面白かったのは、ディレクターさんが取材後記といった形でテキストの記事を書いているんですよ。だいたい2,000字というオーダーをしてるんですけど、それを頼んだ時のテレビマンたちの拒否感たるや(笑)。「明日までにこの映像を10分に編集してください」という依頼をすれば、皆さん全然きっとやってくれるんですけど、「1週間後に2,000字でお願いします」というのには頭を抱えるんですよ。それでも、書き始めたらすごくいい記事になっているんです。やっぱり自分にとって思い入れがある作品ばかりなので、フタを開けたら3,000字になっているなんてこともありますから。あれは、ディレクターにしか書けない文章になっていると思います。
金川:しかも結構泣かせてくれるんですよね。『わすれない』の原稿もそうですが、1人の人を十数年追いかけることなんて、なかなかできないじゃないですか。その中で変化もあるのですごく読み応えがあって、価値がある。本当に感情を揺さぶられました。
西村:やっぱり新しい取り組みをするにあたって、ここにしかない魅力があるものが一番いいと思っているんです。『ザ・ノンフィクション』のレギュラー放送のような長尺のドキュメンタリーを作るって、最初の一歩がなかなか踏み出せないんですけど、今回出す映像は1本10分ほどなので、若い制作者も「ちょっとやってみたいな」となってくれたらいいですよね。そこから、新しい可能性を広げていく場になれば。
——制作者の裾野を広げていくという役割にも担うことになりますね。
金川:若いクリエイターさんを増やしていこうというのは、これまでもやってきた取り組みで、そこからテレビ番組になった事例もあるんです。テレビに枠がなくてそこに入れる人がなかなかいないから、ドキュメンタリー制作者が高齢化だけしていってしまうと、業界としてはやっぱりよくないと思うので、「まだADで頼りないかもしれないけど、まず10分作らせてみようか」と実験ができるような場所になっていくと、私たちもうれしいです。取り組み自体は小さいかもしれないけど、波及効果は大きいんじゃないかと期待したいですね。
——これまでの実績で、その可能性を感じる部分もあるのでしょうか。
金川:場を提供するだけで、信じられない才能って出てくるんですよね。札幌国際短編映画祭で3分のショートドキュメンタリーを募集するMicro Docs部門というのをやったのですが、旅館でバイトしながら、今まで見たことのないようなとんでもない映像を作ってきた子がいたんですよ。だから、場を用意して、そこを頑張って維持すれば、それは私たちがコントロールできないものかもしれないけど、とんでもない財産になっていくのではないかと思います。
——ドキュメンタリーは役者さんをブッキングしたり、スタジオセットを建てたりする必要がないですから、個人で始められるという点で裾野は広げやすいですよね。
西村:仕事の帰り道に駅前で見かけた人からネタを見つけて始まる企画というのも『ザ・ノンフィクション』はいっぱいありますから。『ザ・ノンフィクション』って実は20代の制作者も結構いて、ドキュメンタリーの制作会社の若手たちが「『ザ・ノンフィクション』やりたいです!」って企画書を持ってきてくれるんです。ただ、彼らに教える世代が空洞化しているのも事実。今はいい企画があったら何とかみんなで形にして放送しているんですけど、放送できるのは年間40本強なので、そういう面白い芽をみんなで育てて、みんなで楽しむようになったら、みんな幸せだと思うんですよね。
金川:良い人材が育てばコンテンツ自体が魅力的になるのは、間違いないですからね。
——「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」としては、『ザ・ノンフィクション』との取り組みからスタートして、今後をどのように展望していますか?
金川:フジテレビさんのようなパートナーと他にも組んでいき、コンテンツを増やしていきたいと思っています。まずは年間100本ぐらいは作っていこうという話をしていますが、ドキュメンタリーをやりたいという人たちは、いろんなところに散らばっていると信じているので、実際にどれくらいの本数になるかは読めない部分もあります。そこはドキドキしているところですね。
フジテレビ情報制作局情報制作センターの内ヶ崎秀行部長は、今回の取り組みへの期待について、「最初に取り組ませていただく番組は『ザ・ノンフィクション』なのですが、日々の『めざましテレビ』や『めざまし8』などでも、市井の人を取材する若い制作者が500〜600人いるんです。ホストクラブの売掛金を払うために自分の体を売ってお金を稼いでいる女性と毎週のように会って話を聞いているけど、テレビだと数十秒しか出せない。でも、『Yahoo!ニュース ドキュメンタリー』で少しずつ映像や記事を出すことによって、彼女の人生を変えられるかもしれない。『ザ・ノンフィクション』で1本の題材になる人なんてほとんどいないですが、実は貴重な取材対象者はたくさんいるんです。そこに光を当てていく足がかりにもしていけたらと思っています」と展望を語っている。
●金川雄策2004年より全国紙の映像報道記者として、東日本大震災、熊本地震、パリ同時多発テロ事件、ブラジル・リオパラリンピックなど国内外の現場で取材。情報をより早くわかりやすく伝えることに重点が置かれるニュースの限界を感じ、より深く伝えられるストーリーや映像の可能性を信じて、NY でドキュメンタリーフィルムメイキングを学ぶ。17年にヤフー(現・LINEヤフー)へ入社し、クリエイターズプログラムやDOCS for SDGsの立ち上げに従事。22年、ドキュメンタリーの教科書を作りたいと『ドキュメンタリー・マスタークラス』を玄光社から出版。特定非営利活動法人Tokyo Docs 理事・一般社団法人 デジタルジャーナリスト育成機構 理事。現在は、Yahoo!ニュース ドキュメンタリー チーフ・プロデューサーとして従事。
●西村陽次郎1974年生まれ。大学卒業後、都市銀行を経て、99年にフジテレビジョン入社。ドキュメンタリー、情報番組、『逮捕の瞬間 警察24時』などを担当し、現在は『ザ・ノンフィクション』チーフプロデューサーのほか、バラエティ番組も担当、『だれかtoなかい』の総合演出を務める。

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