『ブラタモリ』レギュラー終了に惜しむ声続出…なぜタモリは令和の今も愛されるのか

2024年3月20日(水)11時0分 マイナビニュース

●たけし、関口宏草野仁と比較して大きい「ロス」の声
9日夜、『ブラタモリ』(NHK総合)のレギュラー放送が予告なく終了し、ネット上には「早すぎる」「聞いてない」「ショック…」「寂しすぎる」などと惜しむ声が次々にあがった。
タモリへの愛情の深さを感じたのはそれだけではない。2月に大学教授による「『高齢男性が若い女性に蘊蓄(うんちく)を垂れる』という『マンスプレイニング』の構図だけは、ずっと気になり続けていました。次は、女性が男性にこんこんと説教する番組をやったらいいと思います。それでバランスが取れます」という投稿が報じられると、すぐにネット上は擁護の反論で埋め尽くされた。
今春はビートたけしが『奇跡体験!アンビリーバボー』(フジテレビ)のストーリーテラーを、関口宏が『サンデーモーニング』(TBS)の総合司会をそれぞれ卒業。さらに、草野仁が長年番組の顔を務めた『世界ふしぎ発見!』(TBS)がレギュラー放送を終了するなど大物司会者に動きがある中、タモリに対する「ロス」の声は際立っている。
なぜタモリは今なお愛され続けるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○人柄がにじみ出る“終活”
タモリと言えば、現在も『笑っていいとも!』(フジ)をイメージする人が少なくないだろう。同番組は31年半にわたって放送されたが、2014年春に惜しまれつつも終了。「タモロス」という言葉が飛び交ったものの、視聴者にはまだ『ブラタモリ』とテレビ朝日の『ミュージックステーション』と『タモリ倶楽部』が残っていた。
つまり視聴者には「ほぼ毎日見られなくなったが、金曜・土曜には見られる」という安心感を残しておいたことになる。その後、2023年春に『タモリ倶楽部』が終了し、そして今春に『ブラタモリ』が終了。どちらも「局が打ち切りにした」というムードはないだけに、「段階を経て1つずつ減らしていく」という流れは、タモリの芸能人生における終活のような感がある。
この「段階を経て1つずつ減らしていく」という流れは、加齢や時代の流れに身を任せているのか。それとも「ショックを与えすぎないように」という視聴者への配慮なのか。いずれにしても泰然自若なタモリの人柄がうかがえるところであり、人々から愛される理由の1つとなっている。
実際、『ブラタモリ』は「最後のレギュラー放送」という告知すらなく通常通り放送され、タモリは何のメッセージを発さなかった。一方、NHKは番組ホームページに「今のスタイルでの放送は3月9日の回をもって、いったん区切りをつけることになりました」というコメントを発表。その歯切れの悪いコメントに「レギュラー放送の終了ってそんなに重要なことなの?」「またやれるかもしれないし、やれないかもしれないから、約束しないほうがいいんじゃない?」というタモリらしい良い意味でのローテンションを感じさせられる。
冒頭にあげた「『ブラタモリ』はマンスプレイニングではないか」という指摘に反論が相次いだのは、このようにタモリの人柄がそれとは真逆だからだろう。知識はあるけど、「教えたい」「力を見せたい」「尊敬されたい」という気はさらさらない。そのことを知っている人々が多いから、「黙っていられない」という反論があふれたのではないか。
●令和の時代に合うスタンスを先取り
タモリは『笑っていいとも!』の頃から若手芸人や駆け出しのタレントも分け隔てなく接し、彼らから慕われてきた姿を見てきた視聴者の信頼は厚いものがある。
さらに言えば、ハラスメントのイメージがみじんもなく、「老害」という言葉が最も似つかわしくない大物と言っていいのではないか。その点は同世代のレジェンド司会者たちと明らかに違うところだろう。このところ「老害」「ソフト老害」という言葉がしばしば話題になるが、そのたびにタモリが中高年層はもちろん、若年層からも愛される理由を感じさせられる。
『笑っていいとも!』『タモリ倶楽部』『ミュージックステーション』を筆頭にタモリの番組は長寿番組が多く、それは「頑張らない」「無理しない」を公言するタモリのスタンスによるところも大きいのだろう。かつて芸人は破天荒や波乱万丈、あるいは押しの強さを売りにする人が多かったが、タモリはその真逆。特に『笑っていいとも!』終了後は「芸人であろうとしているか」すら分からないほど笑いを取りに行こうとしない姿を見せていて、それが時代に合い、年齢を超えて現在の視聴者に支持されやすいように見える。
タモリと言えば、浪人や会社員の経験があり、30代で芸能界デビューした遅咲きで、「芸風が気持ち悪い」と言われるなどの苦労話が語られることもあるが、これらは今なお愛されていることと関係ないだろう。それより「約50年も前から、大きな組織に属さず、師匠を持たず、できるだけ誰にも頭を下げず、自己主張せずに仕事をこなしていく」という令和の今こそ支持を集めそうなスタンスを先取りし、貫いてきたことが大きいように見える。
余談だが、タモリは『水曜日のダウンタウン』(TBS)の「日本人知名度ランキング」で3回すべて1位を獲得。これは10〜70代の全世代2,000人に尋ねたアンケートであり、アスリートや政治家などを含めた日本人トップだった。同じ“お笑いBIG3”のビートたけし、明石家さんまのように前へ出てボケなくてもトップに立っていることが、いかに愛されているかの証しと言っていいのではないか。
○『Mステ』の価値はさらにアップ
今春以降、タモリのレギュラー番組は『ミュージックステーション』のみになる。
その他では、不定期特番の『タモリステーション』(テレ朝、3月23日に最新作放送)、年2回放送のドラマ『世にも奇妙な物語』(フジ)、正月恒例のタモリと鶴瓶の特番(今年は『タモリと鶴瓶のテレビDEお正月2024』)がある程度。また、健康の不安などがなければ『ブラタモリ』は特番として復活することが有望視されている。
これを「少ない」と思うか、「貴重」と思うかは個人差あるだろうが、現在タモリは78歳。生放送の『ミュージックステーション』で元気な姿を見られることの価値は確実に増している。
出演数が減った分は、プライベートや体調管理に時間を割くのかもしれないが、もしかしたら別の番組でこれまで以上に自由な姿を見せてくれるかもしれない。かつてのディープな芸や毒舌で往年のファンを喜ばせてくれる可能性だってゼロではないはずだ。
例えば、もはや伝説の芸になりつつある4か国語麻雀、ハナモゲラ、イグアナの形態模写などをゴールデンタイムで披露したらトレンドワード入りするだろう。実際のところ「やるとしても黒柳徹子がいる『徹子の部屋』くらいかな」とは思いつつ、もしゴールデンタイムの特番でそんな姿を見せたら、ますます愛されてしまうかもしれない。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら

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