『高額当選しちゃいました』新人脚本家×気鋭演出家の才能がぶつかり合うエネルギッシュな作品に

2024年3月23日(土)6時0分 マイナビニュース

俳優の木戸大聖が主演するドラマ『高額当選しちゃいました』が、フジテレビで23日(15:30〜 ※関東ローカル)に放送される。第1回の坂元裕二を皮切りに、野島伸司(第2回)、安達奈緒子(第15回)、野木亜紀子(第22回)、最近では『PICU 小児集中治療室』の倉光泰子(第26回)や、『silent』の生方美久(第33回)など、今のドラマ界を支える多くの人気脚本家を輩出したシナリオコンクール「第35回フジテレビヤングシナリオ大賞」で大賞を受賞した阿部凌大さんの脚本をドラマ化したものだ。
あらすじが想像できてしまうキャッチーなタイトルとは裏腹に、全く予想できていない展開が次々巻き起こる、二転三転どころか四転五転もする気持ちのいい快作に仕上がっている。
○人間模様とリンクさせながら進行させていく筆致
今作は、同じ養護施設で育ち、今でもシェアハウスで仲良く暮らしている4人の青年が、宝くじの“高額当せん”によって様々な騒動を巻き起こすワンシチュエーションドラマ。『高額当選しちゃいました』というあまりにキャッチーなタイトルだけに、ただただ“高額当せんしてしまったら?”というifの世界を楽しむ物語かと想像していたのだが、さすがの「フジテレビヤングシナリオ大賞」受賞作。誰もが想像できてしまう“ありきたり”が大賞に選ばれるはずがない。
冒頭のあらすじには続きがあり、宝くじの高額当せんで熱狂した翌朝、“当たりくじ”がこつ然と姿を消し、誰かが盗んだのではないか?と、親友だったはずの4人が疑心暗鬼になってしまう…という、犯人探しのサスペンスへと流れ込んでいくのだ。
この作品がすごいのは、犯人探しか…と覚悟をして見始めた途端にすぐ種明かしし、とはいえ事の真相をすかしつつ別の展開を用意、さらに新たな謎まで提示して…と次々に物語が進行していく、全く飽きさせない構成になっているところだ。まだデビューを果たしていなかった新人脚本家の作品ながら、まったく稚拙ではなく、むしろかなり練り込まれている。しかも、“高額当せんした”というキャッチーな設定だけにとらわれることなくエンタテインメントに徹しており、何より次々と起こる展開が、エンタテインメント優先の作為的なものではなく、しっかりと4人の心情、人間模様とリンクさせながら進行させていく筆致は見事だ。
また、最近のドラマの潮流といってもいい、ポエティックなセリフで独特の雰囲気を醸してみせたり、丁々発止の気の利いたセリフの応酬でごまかしたりするのではなく、深みのあるセリフを交えつつ、視聴者を楽しませたいという気概があふれている点も好感度が高い。45分という短い時間の中でここまでエンタテインメントに徹し、しかもシナリオ大賞向けに“作り込んだ”作為的な面も見せず、誰もがちゃんと楽しいと思える作品へと仕上げているのだから、今後も注目したい作家と言っていいだろう。
○難しい設定でも没入させる監督の手腕
4人の登場人物だけが繰り広げるワンシチュエーションドラマという、難しい設定のドラマにもかかわらず、開始数秒で「面白そう!」と、作品に没入させることに成功してるのは、今作の演出を手がける柳沢凌介監督の手腕も大きいだろう。
昨年放送された『真夏のシンデレラ』や『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』の演出陣(中盤の回を担当)にも名を連ねた柳沢監督だが、深夜ドラマでメイン演出を担当した『#who am I』は特に光るものがあった。このドラマはSNSをめぐる心理サスペンスなのだが、身近なツールを用いただけに、ともすれば絵空事になってしまいそうな物語を、リアリティたっぷりに、しかも深夜ドラマとは思えない洗練された映像世界に仕上げていた。
その手腕は今作でも存分に発揮されており、ポップでハイテンションな冒頭で引き込ませつつ、そのハイテンションが実は振りとなっており、後半では同じ事象が起きていても全く見え方が違ってくるという対比と緩急をつけている。
また今作は、主演の木戸大聖をはじめ、山下幸輝、西垣匠、豊田裕大と、若手俳優“4人だけ”の物語のため、視聴者にどんな人物なのかをすぐに視認してもらわなければならない。そこで、それぞれのメンバーカラーを採用している点もさりげない丁寧な演出だ。若い脚本家と気鋭の演出家の才能がぶつかり合った、とてつもなくエネルギッシュな作品となっている。
○嫌な予感は見事に裏切られる“視聴後感”
この作品が特に素晴らしいのは、“視聴後感”だろう。様々な二転三転が繰り返されたのち、肝心の最後のオチがそんなバカな…という、ちょっと嫌な予感がよぎってしまう。だが、その嫌な予感は見事に裏切られ、しかもその裏切りが、冒頭から提示されていた登場人物の“ある設定”によって見事にクリアされるという爽快感。そして、そのオチも、実はFODで配信される特別版では“まさかの別エンディング”もあるとのことで、二転三転どころではない、三転四転以上の楽しみ方ができそうだ。
様々な謎解きを繰り返しているうちに、このドラマのもう一つのテーマでもある「お金では買えないもの」もしっかりと描きながら、テーマに寄り過ぎた説教臭い話になるでもなく、最後の最後まで見事なエンタテインメントに昇華されている。
「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平 おおいしようへい テレビの“視聴質”を独自に調査している「テレビ視聴しつ」(株式会社eight)の室長。雑誌やウェブなどにコラムを展開している。特にテレビドラマの脚本家や監督、音楽など、制作スタッフに着目したレポートを執筆しており、独自のマニアックな視点で、スタッフへのインタビューも行っている。 この著者の記事一覧はこちら

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