視力検査でぼんやりと見えている場合、適当に答えて大丈夫?眼科専門医・平松類が教える<正しい答え方>
2024年3月25日(月)6時30分 婦人公論.jp
平松先生「医者がいっている視力と、患者さんがいっている視力には齟齬が」(写真提供:Photo AC)
環境省が公開している「花粉症環境保健マニュアル2022」によると、約3人に1人がスギ花粉症と推定されるそう。そんな花粉症の症状の一つに目の痒みがありますが、「目を掻いてしまうと網膜剥離になりやすい」と話すのは、眼科専門医・医学博士の平松類先生。今回は平松先生に「目のトリセツ」について解説していただきました。先生いわく、「医者がいっている視力と、患者さんがいっている視力には齟齬がある」のだそうで——。
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「視力」に関する医者と患者の齟齬
目が悪くなると「視力が落ちてきた」といいますね。眼科に行ったときも、先生に「視力が落ちてきたんです」と訴える人が多いと思います。
でもそのことが医者に伝わらないで、モヤっとしたことはありませんか? 実は医者がいっている視力と、患者さんがいっている視力には齟齬があるのです。
1つは患者さんがいっている視力は、ほとんどが裸眼視力のことであるということです。それに対し、医者がいっている視力は矯正視力。すなわちメガネをかけて見える視力のことをいっています。
裸眼視力は、日によって異なります。朝はよく見えていたのに、夕方になったら朝より見えなくなったという人もいます。1日のうちでも視力は変化するのです。
体調によっても異なります。例えば、おなかが痛いときに視力を測れば、いつもより見えないと思います。
今日はよく見える、昨日はよく見えなかったなど、裸眼視力では差が出やすいのですが、矯正視力に関してはそれほど差が出ません。そのため眼科医たちは矯正視力を治療の指標にしているのです。
裸眼視力がいくら低下していたとしても、メガネをかけて矯正すればよい。というのが眼科医のスタンスです。
そのため、「先生、視力が落ちたんですよ」と患者さんがいくら訴えても、医者は「いや、視力は落ちていませんよ」という会話が普通に成立します。
もう1つは、患者さんは見えないことの全体を視力といっています。でも医者がいう視力は違います。
例えば、視野が狭くなっている人は、視力1.0あったとしても、歩けなくなる人もいます。すると患者さんは、「視力が落ちて歩けなくなりました」と訴えます。
医者にしてみれば、視野狭窄(きょうさく)は何とかしなければなりませんが、視力には問題ないということになるわけです。
「視力」と「見るための能力」は別のもの
視力検査ではマルの一部が切れているところが上下左右のどこであるかを判別しますね。
ランドルト環というのですが、あの環の切れ目を判別できる能力だけを医者は視力といっています。
医者がいう視力はそれだけのことをいっていて、見える能力全体のことをいっているのではありません。
ものを見るための能力は、それ以外にもあります。今述べた視野も見るための能力の1つです。
実用視力というものもあります。
視力検査の環の切れ目の判別は、一瞬見えればよいのですが、本を読んだりスマホを見ているときは一瞬ではありません。
長時間見続けるときの視力です。
この視力は本を読み続けたり、スマホを見続けることによって、だんだん低下します。
この視力を実用視力と言います。実用的に使う視力という意味です。
「視力はいいけどよく見えない」
コントラスト感度も視る力に関わっています。
コントラストは明暗の差のことです。視力表は白と黒のはっきりしたコントラストでできています。
これに対して、日常生活はそんなにコントラストははっきりしていません。日常生活で見るものは、淡い文字だったり、淡い色だったりしますね。それを見分ける能力がコントラスト感度です。
コントラスト感度が低下するのが白内障の症状の1つです。そのため白内障の患者さんには、コントラスト感度の検査をすることがあります。
それから色覚。色を判別する能力です。
環の切れ目を判別できる能力だけを医者は視力といっています(写真提供:Photo AC)
色覚多様性(かつての色盲や色弱)といって、特定の色の判別が困難な人がいますが、色の判別もまた見るための能力の1つです。
日本人の場合、男性では20人に1人、女性は500人に1人の割合で、色覚多様性の人がいるとされています。
視野や実用視力、コントラスト感度、色覚……。こうした要素をすべて合わせて見るための能力ができています。
そのため「視力はいいけどよく見えない」という表現が成り立つわけです。
視力検査の答えはマルかバツだけ
執筆のための取材の際、視力検査のとき、よく見えないので適当に答えることがあるけど、それで正確な視力が測れるのか? という質問を受けました。
それに対する答えは、「それでよい」です。その理由の1つは、医者としてはその程度の情報が得られればよいからです。
医者は視力だけで診断していません。あくまで視力というのは、目の状態を知る判断材料の1つでしかないのです。
もう1つは、適当に答えたものがいくつかあったとしても、データにはなりうるということです。
視力表には、例えば0.1であれば、0.1のランドルト環が5つあります。そして5個のうち3つ正解であれば「見えている」ということになっています。
適当に答えて3つ正解というのは確率的にかなり厳しいですね。もしかして、3つ当たることもありえないことではありませんが、そこまで確率が低いところにこだわってもしかたがありません。
患者さんから、ぼんやりと見えているときは、見えるといったほうがよいのか、見えないといったほうがよいのか? という質問を受けますが、その場合は「見える」といわなければなりません。
何となく見えているけどぼんやりしてよく見えないから「見えないといっておこう」とか、患者さんが勝手に判断していたら、医者としては正確な診断ができなくなってしまいます。
それこそ、何のために検査しているのかわからなくなってしまうので、ぼんやりとでも見えているのなら、「見える」と答えてよいのです。
患者さんの気持ちとしては、くっきり見えているところまでが視力だと思っているようですが、医者としては環のどこが切れているか認識できればそれでかまいません。
そもそも「はっきり見える」というのは患者さんの主観にすぎません。それを基準にして答えていると、治療に役立つデータにならないのです。
ですから、みなさんが視力検査を受けるときは、見えるかどうかギリギリのところまで答えるようにしてください。
※本稿は、『名医が教える 新しい目のトリセツ』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
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