桜井ユキ「常に受け身でいたい」 広がる役の幅に喜び “笑えなかった”過去、そして転機も明かす
2025年4月1日(火)11時0分 マイナビニュース
●主演ドラマ『しあわせは食べて寝て待て』で芽生えた思い
NHKのドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』(4月1日スタート、総合 毎週火曜22:00〜)で主演を務める桜井ユキにインタビュー。本作に参加して芽生えた思いや、役と重なる自身の経験、俳優業に対する思いなどを聞いた。
本作は、一生付き合わなければならない病気(膠原病)にかかったことで、会社務めから週4日のパート生活への変更を余儀なくされ、家賃5万円の団地暮らしを始めた38歳独身・麦巻さとこが、薬膳料理と団地や職場の人間関係を通して心身を取り戻し、身近にあった自分次第の幸せに気づいていく物語。主人公のさとこを桜井が演じ、隣に住む大家の美山鈴を加賀まりこ、鈴の同居人で“料理番”の羽白司を宮沢氷魚が演じる。
桜井はオファーを受けた当初、とても優しい作品という印象を抱いたものの、演じていく中で「優しくてほっこりした作品という一言で片付けてほしくない」という思いが芽生えたという。
「この作品は大きな事件も起きなければ、胸を打つような悲しい出来事も大恋愛もないですが、日常ってそうだよなと。さとこは膠原病を患い、傍から見たら健康体に見えますが、さとこの中で抱えている葛藤やつらさは本人にしかわからない。傍から見ただけではわからないことって世の中たくさんあると思っていて、さとこだけでなく、鈴さんも司も、みんな明るそうに見えるけど、本人が抱えているつらさはわからないなと思いました」
そして、さとこと団地の人たちとの日々を通じて、いろいろな気づきがあるという。
「今、世の中は人との付き合いが希薄になりつつあると思いますが、人が抱えているものに柔らかに寄り添って過ごしていく彼女たちの日々はすごく勇気をもらえるし、人との付き合いってやっぱり素敵だなと。人間は1人では生きていけないなと感じさせられる部分もたくさんあります」
○ワークショップをきっかけに自然な笑顔ができるように
他人にはわからない悩みと向き合うさとこ。桜井も長らくそういったものを抱えていたという。
「幼少期から高校生ぐらいまで、親との関係や友人関係などで自分がうまく立ち振る舞えないことに対しての葛藤だったり、傍から見ればわからないようなことに悩んでいました。一時期、口角がうまく上がらず笑えない時期があって、自分のメンタルがすごく影響していたと思いますが、その悩みを説明してと言われるとできないモヤッとした暗いものをずっと抱えていて、もちろん種類は違いますが、さとこも近いものがあるのかなと。なので、さとこの気持ちをすごく理解できます」
さとこを演じるにあたって、自身が抱いていた葛藤を思い出したという。
「私はどういうことを周りに理解してほしいとか、どういうことを改善していきたいと思っていたのかということをもう一度思い出して、当時の感覚を今回に生かせないかなというのがありました」
先ほど「笑えない時期があった」と明かしていたが、それは高校時代から20代前半までで、演技のワークショップをきっかけに乗り越えることができたという。
「この仕事を始めたばかりの24〜25歳くらいのときにワークショップに通っていたのですが、そこでこてんぱんにやられまして。口角を上げる練習をして形で笑うようにしていて、笑っているつもりになっていたんですけど、先生に『嘘くさい笑いをするんじゃない。私の前で一切笑うな』と笑顔を封じられたんです。そのときはすごく苦しかったですが、今までなんでそんなににこにこ笑おうとしていたんだろうということに気づかされ、力を抜いてそのときの感情や表情を出せるようになりました」
そして、「無理しなくていいんだ」と思えたことで、仕事でもプライベートでも自然な笑顔ができるように。「楽になりました。息の抜き方を教えてもらったというか、すごく大切なことを学べたなと思います」と振り返り、その経験がいまだに俳優業における一番の転機になっていると話した。
●世間のイメージとのギャップ「全然真逆なんだけどなと」
笑えない時期があったものの本来はよく笑う性格のようで、クールでかっこいい女性というパブリックイメージと実際の自分とのギャップを感じることが多いという。
「すごくクールで、あまり笑わなくて、料理とかしなさそうとよく言われるんですけど、全然違うのになという思いはあります。お酒が強そうだけは合っているんですけど(笑)。そこに対して悩んでいるということはないですが、全然真逆なんだけどなとは思います。よく笑うし、クールでもないし、ビビりだし、料理もするし」
演じる役もかっこいい女性が多い印象だが、ここ数年、役の幅の広がりを感じているそうで、今回のさとこ役や連続テレビ小説『虎に翼』で演じた桜川涼子役など、あまり演じてこなかった役を任される機会が増えてきたと語る。
「なぜ私にこの役をオファーしてくださったんだろうということが、ここ数年少しずつ出てきて、自分はこういう面もあるんだなと、作品を通して自分の新たな面に出会えるときもあって、本当にうれしくてありがたいなと思っています」
本作でも自分の新たな面に気づいたという。
「私は1人で行動することが多く、人と関わることにどちらかというと臆病ですが、この作品を通して、ちょっといいかもしれないなと。今日会った人でも、自分が心を開けば相手も答えてくれるというのは、すごく未知で楽しいですし、人との付き合いって素敵かもしれないと思いました」
○受け身姿勢の理由「未知の役に挑戦したいという思いがあるので」
2011年に女優デビューしてから14年。今の仕事に対する思いも聞いた。
「私は常に受け身でいたいと思っていて、桜井にこの役を演じさせたらどうなるんだろうという想像を周りにしていただきたいなと。未知の役に挑戦していきたいという思いがすごくあるので、受け身でいて、それに応えられる自分でありたいと思っています」
受け身姿勢だからこそ、役の幅が広がり、演技の幅も広がっていくという。
「自分の中に近しいものが多い役だと演じていて心地いいですが、周りに想像していただいて、それに応えるというスタンスでこれからもやっていきたいです。そこには努力しないといけないこともたくさんありますが、そうすることで自分の幅が広がっていくと思っています」
その姿勢で進んでいき、この先どうなっていきたいか尋ねると、「存在感を出しつつ、なくしたい」と回答。「桜井ユキってこういう人だよね、こういうイメージだよねというのをいつかフラットにできたらいいなと。当たり前ですが、何を演じていてもちゃんと馴染めるのがベストなので、どういう人なんだろうという存在感は出したいんですけど、出しつつ、なくしたい(笑)」と話していた。
■桜井ユキ
1987年2月10日生まれ、福岡県出身。24歳のデビュー以来、演技派女優として注目を集め、話題のドラマや映画に多数に出演。2019年に放送されたNHK主演ドラマ『だから私は推しました』では、第46回「放送文化基金賞」演技賞を受賞。2021年〜2022年に放送されたNTV系ドラマ『真犯人フラグ』では怪演が話題に。昨年はNHK連続テレビ小説『虎に翼』、TBS系ドラマ『ライオンの隠れ家』などに出演。映画『#真相をお話しします』が4月25日、『フロントライン』が6月13日公開予定。
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