映画界に新たなプラットフォーム『Roadstead』 デジタルのリセールでも製作者に利益 第1弾は黒沢清監督作品『Chime』

2024年4月10日(水)19時47分 オリコン

黒沢清監督の最新作『Chime』イベントに登壇した黒沢清監督(C)Roadstead

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 映画監督の黒沢清監督が9日、都内で行われたメディア配信プラットフォーム・Roadsteadのオリジナル映画『Chime』のイベントに登場した。

 映像作品を「消費する一過性のコンテンツ」ではなく、「コレクションする価値ある資産」として扱う『Roadstead』が提唱する映像流通の新しい枠組みが、「DVT(Digital Video Trading/デジタル・ビデオ・トレーディング)」プラットフォーム。映像を数量制限なく配信するプラットフォームと違い、オンライン上に存在する映像作品をDVDと同じように一意で固有のアイテムとして扱う。

 ユーザーは作品を視聴して楽しむだけでなく、出品者(ライッホルダー)がユーザーに許可したコンテンツさまざまな利用(第三者へのリセール、レンタル、交換、プレゼント、上映、展示等)が可能となる。出品される映像全てにシリアルナンバーが付与され、購入した人だけが観られるようセキュリティ(暗号化)が施された状態でトレードすることが可能。出品者には、ユーザー同士の取引収益からも権利料が還元される仕組み。ユーザーは単なる消費者ではなく、出品者の活動を経済面で直接的に支援するサポーターになることができる。

 初のオリジナル作品となる『Chime』が、12日に世界同時に販売開始。『Chime』上映も行われ、黒沢監督、運営するねこじゃらしの川村岬代表、岡本英之プロデューサーによるトークセッションと質疑応答が行われた。

 黒沢監督は今回の『Chime』について「45分という、通常、僕がやっている映画とは違う長さの作品ですが、川村プロデューサー、岡本プロデューサーから『一度、こういう作品をやってみないか?』とお声がけいただきました。やったことがないので、自分に何ができるのか試してみたいというシンプル欲望から出発しました」と出発点について明かし、『Roadstead』という新たプラットフォームでの映画製作に関しても「通常とはまた違う、新しい形態でみなさまのもとに届けられる、新しい何かに参加できることを光栄に感じまして、やろうと思いました」と語った。

 川村代表は第1弾作品に、以前『スパイの妻』でも組んだ黒沢監督を指名した経緯について「黒沢監督とは私たちが映画製作に関わった第1作である『スパイの妻』でご一緒させていただきましたが、今回『Roadstead』という新たなサービスを始めるにあたり、どういう作品をどういった方にオファーするかを、『スパイの妻』のプロデューサーを務めた岡本さんに相談する中で、推薦していただきました。最初に聞いた時は、まだできてもいないプラットフォームに協力していただけるのだろうか?という不安もありましたが、引き受けてくださるということで非常に喜んだのを覚えています」と明かす。

 岡本プロデューサーは「今回のお話が立ち上がってきた時、メールでおそるおそるご連絡したところ、まさか引き受けてくださるということで企画がスタートしました。制作プロダクションのC&Iエンタテインメントの田中美幸プロデューサーにもご相談し、動き始めました」と振り返る。

 黒沢監督は「内容について『何をやればいいんでしょう?』と聞いたら『お好きにやってください』と言っていただけて、『本当に僕でいいんですか?濱口(竜介)でなくていいんですか?』と聞いたら、『いいんです。ぜひ黒沢さんに』と言っていただけました(笑)。45分くらいで通常と違う形式の映画で『なんなんだ、これは…』という不思議な作品をつくってみたいと思っていたので、ちょうど良いと思いました」と述懐する。

 主人公は料理教室の先生として働く松岡(吉岡睦雄)で、料理教室が主な舞台のひとつとなるが、この設定について、黒沢監督は「割と思い付きで大したきっかけはないですが…」と明かしつつ、クリント・イーストウッド監督の『ヒアアフター』に触れ「料理教室のステンレスが不気味だった」と語り「ステンレスの包丁などが並んでいる場所は、撮りようによっては怖いかと思いました。実際の料理教室に見学に行くと、不穏なことは全くないんですけど、先生が言った通りに全然やらない生徒など、面白いものが見えてきて『これはいいかも』と思いました」と説明する。

 また『Roadstead』という新たなプラットフォームで映画を撮ることの魅力について、黒沢監督は「長さが自由であることは魅力ですし、作品を作品として世の中に出していただける、たかが45分の作品であっても世の中に提供していただけるというのは最大の魅力だと思います」と作り手側から感じるメリットについて言及。

 さらに「僕は映画の信奉者であり、古い人間なので『映画が一番』だと考えています」と断った上で「こういう新しい試み、(従来の)映画とは作り方、見せ方みたいなものは、絶対に、回り回って映画にとってプラスになると思っています。よく『こういうものが出てくると映画はどうなっちゃうんでしょう』と不安がる人がいますが、その程度で映画はめげません!むしろ、そういうものを取り込んで、映画はより豊かになると信じています。通常の映画というものと少し違う形で映画を豊かにできるチャンスがあるなら、大いにやりたいという思いが強かったです」と強力なエールを送った。

 川村代表は黒沢監督の言葉にうれしそうに笑みを浮かべ「本当に良い作品を作っていただいて感動しておりますし、第一弾でこの作品が販売されることをうれしいことだなと思っております」と語り、改めて『Roadstead』と映画館の関係性についても「今日、この映画館でこの発表会をやったことがひとつの象徴ですが、我々は映画文化というものをテクノロジーで破壊して、全部配信にしようというのではなく、逆に映画文化を支えてきたミニシアターとうまく共存できると思っています。例えば45分という尺ですが、普通の90分や120分の長さが、作品にとって必ずしも良いとは限らないですし、新しいプラットフォームだからこそ、こういうことにも挑戦できます。見事にそれを形にしていただいた監督に感謝申し上げたいです」と語っていた。

オリコン

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