英語を読むスピード向上に役立つ<思考の癖>とは。日本語に置き換えて意味を考える「訳読」が速度低下を招いている可能性も

2024年4月18日(木)6時30分 婦人公論.jp


北村先生「日本語に置き換えるという癖が残っていて、読む速度が遅くなっている場合がある」(写真提供:Photo AC)

令和2年4月に学習指導要領が改訂され、小学校でも外国語を勉強する時間が増加しました。「英語の重要性が叫ばれ、人々の関心が高まってるとはいえ、リーディングとリスニングを関連づけて考えている学習者は、まだまだ多数派とは言えません」と語るのは、杏林大学外国語学部准教授の北村一真先生。北村先生は、「日本語に置き換えるという癖が残っていて、読む速度が遅くなっている場合がある」と言っていて——。

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スピードを上げる


英語の語順通りに——ジョブズの革新

ご存じの通り、英語と日本語は文の幹となる基本文型においても、文の枝を形成する修飾語句においても、大きく語順が異なっています。

そのため、英語の文を自然な日本語に訳そうとすると、後ろにある要素を前に持ってきたり逆に前にある要素を後ろに持っていったりということが必要になることも少なくありません。

今では、まず流暢(りゅうちょう)な日本語に置き換えてから意味を考えるといったような往年の「訳読」をやっている人はほとんどいないと思われますが、それでもやはり、日本語に置き換えるという癖が残っていて、それによって読む速度が遅くなっている場合があるように思います。

誤解のないように言っておくと、私はここで、英語は英語のまま理解すべきであって、日本語に置き換えてはならない、と言っているわけではありません。

各パーツに関しては日本語の置き換えによるサポートを大いに活用してかまわないと思います。

英語の順番のまま


一方で、文型や修飾関係の大きな構造については英語の順番のまま理解する癖をつけたほうが絶対に読む速度は上がります。

そのためには、S+V+…の構造、名詞+修飾語の語順に慣れるということがまず何よりも重要になります。

スティーブ・ジョブズ氏の英文から、次の箇所を取り上げて考えてみましょう。come up with…は自動詞と前置詞が組み合わさった熟語ですが、ここでは、3語セットで「…を思いつく、提案する」を意味する他動詞のようなものになっていると考えて下さい。

…he came up with amazing products and technologies that changed the world, from the Macintosh computer to the iPhone and the iPad.
“What Steve Jobs discovered in Japan”
NHK WORLD-JAPAN

訳例 彼はマッキントッシュやiPhone、iPad といった世界を変える驚くべき製品や技術を生み出しました。

情報提示の順番


原文と訳例を比べてみた時、日本語の文の情報提示の順番と英語の文の情報提示の順番がそれぞれ以下のようになっていることが分かります。

日本語
彼は→マッキン〜べき →製品や技術を →生み出しました。
[誰が]→[どんな]×3 →[何を]  →[どうする]

英語
he came up with amazing products that…iPad
[誰が]→[どうする]→[どんな]→[何を] →[どんな]×2

日本語を聞いたり読んだりしている場合は、[どうする]に当たる動詞が最後にくることに加え、出てきた時点で関連するほぼ全ての情報が出そろっているため、ゴールに到達したと一息ついて安心するというところがあります。

一方、英語での[どうする]に当たる部分はその後の流れを占う文の中核の起点であり、使用されている動詞の性質を見極め、次に続きそうな形に意識を向けなければなりません。

今回の英文で言うと、came up with「思いついた、提案した」という言葉が出てきた時点で「何を?」という方向に自然に頭が動くようにしておく必要があるということです。


各パーツに関しては日本語の置き換えによるサポートを大いに活用してかまわないと思います(写真提供:Photo AC)

また、その[何を]に当たる「製品や技術」のところも日本語と英語の違いが大きく出ている箇所です。

この「製品や技術」がどういうものかを説明する語句が日本語では全て前に置かれているのに対し、英語では「驚くべき」に相当するamazing だけが前に、残りの2つは後に配置されていることが分かるでしょう。

日本語の場合、名詞を説明する語句は全て名詞の前に置かれるため、名詞が出てくればその名詞句のゴールということで一息つくことができます。

しかし、英語では名詞の後ろから説明を加える後置修飾の形が発達しているため、ここでも、名詞を見た段階でその性質を見極め、次にくる流れを予想するきっかけとしなければならないのです。

amazing products and technologies までは日本語と同じように理解するとして、そこで安心するのではなく、「どういう性質の?」とか「具体的にはどのような?」という方向に頭が向くようにしておくということです。

思考の癖


このように文や節については[誰/ 何が]→[どうする]→[誰/ 何を]といった順番、名詞句については[誰/ 何]→[どんな]という順番で情報を受け取ることに頭を慣らしておけば、各パーツについては日本語に置き換えて考えていても英語を語順通りに理解することがかなり楽になります。

he came up with「彼は思いついた」ときた時点で「思いついたのは何?」と考えているのでamazing products and technologies「驚くべき製品や技術」という語句をそのままスムーズに理解できます。

また、products and technologies のところで「驚くべき製品や技術って、どういう? たとえばどんな?」と考えているのでthat changed the world「世界を変えた」やfrom Macintosh to the iPhone and the iPad「マッキントッシュからiPhone やiPad に至るまでの」というのはまさに今欲しい情報を埋めてくれるものということになるわけです。

最後まで全部目を通した上で改めて「マッキントッシュやiPhone、iPad といった世界を変えた驚くべき製品や技術」のような順序で理解し直す必要がなくなるということです。

ここまでの内容をまとめると、英語をできる限り本来の語順に近い形で理解するには次のような思考の癖をつけることが必要です。

文・節の読み方
[誰 / 何が][ どうする(他動詞)]ときたら「誰/ 何を /に?」と考える。
[誰 / 何が][ どうする(自動詞)]ときたら「どこで ?」「いつ?」「どのように?」「なぜ?」と考える。

名詞句の読み方
[誰/ 何]に当たるシンプルな名詞句が出てきたら「どんな?」「具体的には?」と考える。

もちろん、ここに挙げたのは英語の語順に頭を近づけるための方法論のごくごく初歩の一部に過ぎませんが、この2つを徹底するだけでも、かなり前進するのではないかと思います。

※本稿は、『英語の読み方 リスニング篇-話し言葉を聴きこなす』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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