屁理屈を喋り倒す生田斗真が見事! 家族愛の面倒臭さを絶妙に描く――亀和田武「テレビ健康診断」

2025年4月22日(火)12時0分 文春オンライン

 おれはね、この日が来るのを五年半、待った。生田斗真が演じる筋金入りのニート青年、岸辺満が、あーだこーだ屁理屈こねまわすシーンを観ながら、腹を抱えて大笑いする日がまた来ないかと思ってね。


 待ちに待ったそのドラマに再会できるとは。『俺の話は長い〜 2025・春〜』が二週にわたって放映された。前回は二〇一九年の秋だから、その直後にコロナ大流行で世の中は一変。しかし満の生活は、ほとんど変化しなかった。



生田斗真 ©文藝春秋


 満には、気の強い姉の綾子(小池栄子)がいて、その追及をかわしたり、論点をズラすために、屁理屈大王ともいえる才能が進化したり、居直りだけは一人前になった節もある。


 前回ではまだ十五歳だった綾子の娘、春海(清原果耶)も大阪の大学に進み、二十歳になった。母の綾子はバツイチで、いま一緒に暮す光司(安田顕)は心優しい男だが、血のつながりのない光司を、十五歳の春海は素直に父と認めることが出来なかった。好きな男の子にも失恋し、心がボロボロの春海に自然に接しようとする満も、いい奴でさ。


 思春期特有の不安定な心理になった春海を、満はクルマに乗せて海までドライブに誘ってたな。海辺でメソメソする春海を、満が距離を置いて、気を鎮めたりね。「満兄ちゃん、クルマに乗っけてよ」とぶっきら棒に言われて「どこへ」と問うと「夜の海に決ってるでしょ」というシーンもあった気がするけど、おれの勘違いかもしれない。


 ともかく十五歳の悩み多き少女にとっては、社会生活に真っ当に適応できない“あたしの叔父さん”だけが、心を許せる唯一の相手だ。満と春海。辛い状況になっても、二人で会うと心が自然とほぐれる。


 今回、大阪から帰ってきた春海は、満の言動を見ると、「満兄ちゃんは変わらないよな」と半ば呆れたように声を掛ける。すると満は「変わるのは簡単だけど、変わらないのは努力がいるから」と、反射的に姪に向かい屁理屈で応じる。


 父が死んだ後、母の房枝(原田美枝子)が一人で切り盛りしてきた喫茶「ポラリス」と住居を売るかどうか。満を綾子が怒鳴りつけるが、満は馬耳東風。祖母と「ポラリス」が大好きな春海は、帰京しても母の住む家に帰らない。御飯を作って待ってるわよと聞いても「どうせデパ地下で買い漁ったお惣菜でしょ」と、まるで満そっくりの塩対応だ。やっぱり叔父と姪、似ているね。


 笑いと家族愛の面倒臭さも絶妙に描く金子茂樹の脚本が文句なし。長台詞の屁理屈を表情豊かに喋り倒す斗真くん、お見事です。そして前作と変わらぬ表情をみせる清原果耶もさすがだ。二年後、春海が大学を卒業して帰京したときに、また続編を観たい。



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『俺の話は長い 〜2025・春〜』
日本テレビ 放送終了
https://www.ntv.co.jp/orebana/sp/





(亀和田 武/週刊文春 2025年4月24日号)

文春オンライン

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