大阪・関西万博に行ってみたら、「アート」のレベルがスゴすぎた!《オノ・ヨーコ、宮田裕章、塩田千春、宮島達男…》

2025年4月22日(火)7時10分 文春オンライン

 開催の意義や運営の巧拙、経済合理性や安全性……。さまざまな角度から語られている大阪・関西万博である。ここでは万博を、アートに着目して眺め直してみたい。


 万博をひとつの大きい展覧会と捉え、メインテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を展示コンセプトと読み替えて、アートをどれほど楽しめるかという観点から会場を巡ってみた。



大阪・関西万博会場


大屋根リングの木組みの美しさ


 敷地内へ足を踏み入れると、だれの目にも真っ先に飛び込んでくるのが「大屋根リング」だ。会場をぐるり取り囲み、全長は2キロに及ぶという。高さも想像以上で、その迫力は聞きしに勝る。


 しかもこの巨大建造物、木造であるというのだから驚きがいや増す。構造としては柱に穴を開け、そこに梁を通し、楔で止める「貫(ぬき)の工法」を採用している。京都・清水寺の「清水の舞台」を支える下部木組みと同様の伝統工法である。


 ただし大屋根リングでは、楔の部分に金属を用いており、そのさまは地上から視認できる。設計を担当した建築家の藤本壮介の説明によれば、建築基準法をクリアするには純木造とするわけにいかなかったという。


 リングの下に潜り込んで見上げてみれば、柱と梁が整然と、そして延々と続いていくさまが美しい。ただ願わくば、伝統工法のみでつくられた純木造の建造物を見たかった。たとえサイズが小さくなっても、そのほうが「受け継がれてきた業と美」をより感じられたのではないか。


 大屋根リングは、エスカレーターや階段で昇ることができる。上部は中空の遊歩道といった趣で、眺めも壮観。周囲が海なので遠くまでよく見える。大阪という大都市に居ながら、これほど開けた景観が得られる場は稀有だ。人に改めて空を見上げる機会を持ってもらう、そのための大掛かりな装置であるともみなせそうだ。


オノ・ヨーコの作品で「空」を共有する


 大屋根リングを降りて、会場中心部へと向かう。そこには「静けさの森」が広がっている。1500本超の樹木を移植した緑地帯だ。一帯のあちこちに、アート作品が点在しているという。


 探してみると、小路の分岐点の地面に、ぽっかりと穴が開いており、内側が明るい青色に染まっているのを見つけた。何事かと覗き込めば、穴のなかに鏡が仕込まれており、空の青色を映し出しているのだった。天地が一体化したような錯覚にとらわれるこの作品は、オノ・ヨーコの《Cloud Piece》だ。


 思えば空に国境などなく、見上げれば空はいつでもだれとでも共有できるということを、森の中の小さい穴が教えてくれている。「いのちをつなぐ」という万博のサブテーマとも、よく響き合う作品である。


 夫ジョン・レノンとの活動で広く知られるオノ・ヨーコは、20世紀半ばから現在に至るまで、世界のアート・シーンにおける重要人物として名を馳せてきた。周囲の環境とみごとに呼応した今作を見れば、彼女がいまなお表現の最前線にいることがわかる。


 森を歩いていくと、頭上にワイヤーで吊るされた動物の巣のような彫刻が現れる。トマス・サラセーノによる作品《Conviviality》だ。この「巣」は徐々に森の生態系の一部となっていくことが想定されている。鳥やクモ、昆虫らさまざまな生きものに利用してもらい、生物多様性を体現する場として機能してくれたらという。


 さらには、木々が途切れて開けた場所には《Infinite Garden - The Joy of diversity》がある。金沢21世紀美術館に恒久展示されている《スイミング・プール》でも広く知られた、レアンドロ・エルリッヒによる作品である。円柱状のこぢんまりとした建築物に、十字状に切れ目が入っている。壁面は鏡になっており周囲の景色を映し出すので、近づいて覗き込むと自分が美しき異界へ迷い込んでしまった錯覚に陥る。視点を変えれば世界は多様な姿を現すことを示す展示だ。


宮田裕章のシグネチャーパビリオンでアート三昧


 8人のプロデューサーがそれぞれ万博テーマを深掘りし表現する「シグネチャーパビリオン」では、データサイエンティスト宮田裕章による「Better Co-Being」が、アートを満載している。屋根も壁もなく、グリッド状の天蓋が上空に浮かぶのみの屋外型パビリオンとなっており、その下で「共鳴」をテーマとしたアート体験ができるのだ。


 まず現れるのは、塩田千春《言葉の丘》。赤い糸が無数に吊り下げられた空間の内側に、多言語の文字や椅子と机が浮かび上がるというもの。繊細な糸の一本ずつが、ふだんは目に見えない「つながり」を可視化しているといえそうだ。


 続いて体験できるのは、宮島達男《Counter Voice Network - Expo 2025》。設けられたスロープの両脇に30個のスピーカーが並び、さまざまな言語で9から1までカウントダウンされる音声が聞こえてくる。耳を澄ませていると、カウントダウンされているあいだがその人の一生であろうかとも思えてきて、0を発声しないのは死の訪れの象徴とも読み取れる。音声のみによって、生命や時間の存在をありありと感じさせる作品である。


 ほかにも、光を受けて透明な装飾が輝く宮田裕章with EiM《最大多様の最大幸福》や、人工の雨を降らせ虹を発生させようとする宮田裕章《共鳴の空》など、外気のもとで映える作品が続々と体験できて、密度の高い展示が実現されている。


フランスパビリオンで『もののけ姫』に出逢う


 海外パビリオンでは、フランスパビリオンのアート性の高さが際立つ。「愛の讃歌」をテーマに掲げ、多数のラグジュアリーブランドを抱える企業グループLVMHがメインパートナーとなっている。


 会場内で真っ先に見られるのは、パリ・ノートルダム大聖堂のキマイラ石像。異形の怪物が見つめる先には、スタジオジブリ作品『もののけ姫』をモチーフとした巨大タペストリーが掛けられている。意外な組み合わせではあるものの、両者の相性は抜群にいい。細部に至るまでみごとに織り上げられたタペストリーをためつすがめつ眺めていると、時を忘れてしまいそうになる。


 その後にはルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオールといったブランドの展示が続いていく。目を惹くのは、要所のあちらこちらに近代を代表する彫刻家オーギュスト・ロダンの作品が置かれていること。ロダンといえば《考える人》や《地獄の門》が思い浮かぶが、フランスパビリオン内では、手のみを表現した彫刻ばかりが並ぶ。手の彫刻は何を意味するのか。表立って解説はされていないが、「創造」や「つながり」を象徴しているだろうことは想像がつく。


 フランスパビリオンは全パビリオンを見渡しても最大級で、この館内を一巡するだけでも、大規模な展覧会を観るのと同等の満足度ありだ。


 チケットの価格、アクセスや利便性、会場全体の構成に運営の練度……。不確定要素はいったん省き、純粋にアートを堪能できるかどうかでいえば、大阪・関西万博は、相当に充実したものが観られる場となっているのはたしかである。



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2025年日本国際博覧会 大阪・関西万博
4月13日〜10月13日
夢洲





(山内 宏泰)

文春オンライン

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