村上春樹「長年行きつけの書店がなくなると、明かりがひとつ消えたような気がしますよね」
2025年4月27日(日)20時30分 TOKYO FM+
この記事では、千葉県在住のリスナーから届いたメッセージを紹介したパートの模様をお送りします。

次は「牛に引かれていきなりステーキ」さんからのメールです。千葉県在住の女性、35歳。これは僕が差し上げたラジオネームですね。使っていただいて、ありがとうございます。
<20歳のときに津田沼の「くまざわ書店」で村上さんの『ノルウェイの森』を買いました。2月2日に閉店してしまいました。26年間、よく通いました。最終日、すごくさみしくて涙が出ました。今、本屋がなくなりつつあります。本屋へ行っても本が少なかったり。私は本が消えてしまったら、というか、本というものを人が触らなくなったら、個人的にダメになるだろうと思います。私は死ぬ間際まで本を読み続けるでしょう>
僕は一時期、千葉県の習志野市に住んでおりまして、津田沼には乗り換えのときによく立ち寄りました。習志野にいるときに『羊をめぐる冒険』という小説を書きました。
そうですか、うん、長年行きつけの書店がなくなると、明かりがひとつ消えたような気がしますよね。町の書店って、時間が余ったときにちょっと入って時間を潰すのにいいんですよね。で、そんなふうにぶらぶら書棚を見て回っているうちに素敵な本に出会ったりしてね。そういう時間は貴重です。
ところで、わりに最近読んだ中で心に残ったのは、『アントンが飛ばした鳩』(*『アントンが飛ばした鳩 ホロコーストをめぐる30の物語』白水社)という本です。著者はバーナード・ゴットフリードという人で、柴田元幸さんと広岡杏子さんが訳しています。
これはナチの強制収容所を生き延びたユダヤ人のメモワールで、そう言うと「なんだ、またホロコーストものかよ」とか言われそうなんだけど、これがいいんです。きりきりしたところのない、ゆるやかに自然な文章で、ユーモアとペーソスに溢れて、最後にほろっとさせられます。
読み終えたあともこの本はそのまま本棚に残しておきたい……そういう気持ちって大事ですよね。紙の本、いいものです。
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4月27日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 5月5日(月・祝)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:村上RADIO〜マイ・フェイバリットソングズ&リスナーメッセージに答えます4〜
放送日時:4月27日(日)19:00〜19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/