『光る君へ』題字に込めた思い「日本書道の特徴と美しさを伝えたい」 書家・根本知氏が語る

2024年4月28日(日)8時0分 マイナビニュース

●紫式部が道長に恋文を出すイメージで書いた「光る君へ」
大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合 毎週日曜20:00〜ほか、28日は20:10〜)で題字と書道指導を担当している書家・根本知氏にインタビュー。「光る君へ」という題字に込めた思いや、書家としての抱負を聞いた。
大河ドラマ第63作となる『光る君へ』は、平安時代を舞台に、のちに世界最古の長編小説といわれる『源氏物語』を生み出した紫式部の人生を描く物語。主人公・紫式部(まひろ)を吉高由里子、紫式部の生涯のソウルメイト・藤原道長を柄本佑が演じ、脚本は大石静氏が手掛けている。
タイトルバックで紫式部役の吉高由里子の儚げながら意志の強さも感じる表情とともに映し出される「光る君へ」という題字。根本氏は、書き悩んでいた時に監督から「仮に紫式部が道長に恋文を出す時に、『道長様へ』ではなく『光る君へ』と書いたとしたらどんな題字になるか見てみたい」と提案され、それが大きなヒントになったという。
「そこで世界が開けて、こうだ! というものを書くことができました。まひろが乗り移り、半分僕、半分まひろみたいなものになっています」
題字に込めた思いを尋ねると、根本氏は「日本書道の特徴と美しさ、魅力が見た瞬間に伝わるようにしたいと思いが一番です」と答えた。
「今までの大河ドラマの題字とは違う匂い、雰囲気を出せたらいいなと。仮名文字の『る』と『へ』を柔らかく書くというのはもちろん、漢字の表現の中に仮名のような優しい雰囲気を出すことに苦労しましたし、そこに力を入れました」
漢字も含めて、日本書道として表現しているという。
「『光』『る』『君』『へ』というように漢字、仮名、漢字、仮名となっていますが、中国、日本、中国、日本ではなく、すべて日本化したものたちの集合で、新しい調和を表現することを意識しています。『源氏物語』も意識し、儚きものに手を伸ばすようなふわっとした感じも大切にしました」
また、流れるように書く仮名文字の特徴を表現するために、つながりも意識したと説明する。
「仮名文字の一つの特徴として“流れ”があり、断絶することなく常に流れ続けています。それを題字で表せたらいいなと思い、動き続けているということにこだわり、すべて次につながるように書いています。はねた方向を見たら次の点画につながっているように。『へ』も止めるのではなく『光』に戻ってくるように書きました」
●自分の書をきっかけに歴史や文学に興味を持ってもらえたら
書家としての抱負も聞いてみると、「自分がアーティストとして売れっ子になりたいということは考えていなくて、書を通して、今の若い世や次の世代が文学に魅力を感じてもらうことが一番大事だと思っています」と思いを明かす。
根本氏が書や平安時代に興味を抱くきっかけになったのは、風神雷神図を生み出した画家・俵屋宗達を育てた本阿弥光悦だという。
「本阿弥光悦は安土桃山時代の人なのですが、僕は彼の書にとても感動したんです。彼の書はなんでかっこいいんだろうと思ったら、彼は平安時代がとにかく好きで、平安時代の仮名を勉強していた。でも彼は、平安の字ではなく安土桃山の字を書いていて、誰も見たことのないような新しい表現をしていて、絵と書のコラボレーションまでしています。それを見て僕は『かっこいい』と一目ぼれしたわけですが、光悦は平安を見ていたんだと知り、僕も平安を調べるようになりました」
『光る君へ』では書道指導も務め、根本氏自身、改めて平安時代の文字と向き合う機会に。「今年は『光る君へ』を通して平安の書を世に伝えることに従事し、古典に回帰するという、自分の中でも改めて勉強させてもらっています」と語る。
ゆくゆくは、自分にしか書けないオリジナルの仮名を書きたいと考えている。
「“根本さんの字だよね”と言ってもらえるような、この令和の時代にしか書けない僕の仮名を、何かの真似ではなく、自分の呼吸で書くことが目標です」
そして、自分の文字をきっかけに、歴史や文学に興味を持ってもらえたらと期待する。
「なんで根本はこういう字を書いたんだろうと思った時に、私の目を見てほしい。こういう活動をしていたんだ、大河ドラマでは平安の字を書いていたんだ、でもこの人は安土桃山について学んでいたんだ、憧れていた光悦はどんな人だろうと。自分の書をきっかけに、次の世代が日本の文化ってかっこいいなと思ってもらえたらうれしいです」
さらに、「全国に小筆の書道教室ができることが夢です」とも話し、「『光る君へ』をきっかけに小筆の仮名っていいよねと興味を持ってもらえたら。そしてその中で、根本の作品もいいよねと思ってもらって、歴史や文化にもつながっていくといいなと思います」と願いを込めた。
■根本知(ねもと・さとし)
埼玉県出身。大東文化大学大学院博士課程修了、2013年博士号(書道学)取得。大学で教鞭を執るかたわら、かな書道の教室やペン習字の講座を開く。2016年に初の個展を開催し、2019年にはニューヨークにて個展を開催。2024年の大河ドラマ『光る君へ』で題字と書道指導を担当している。
(C)NHK

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