気弱な少年に見せる人情味。しかし次々現れる刺客との闘いは続く!――春日太一の木曜邦画劇場

2025年5月13日(火)18時0分 文春オンライン

 今回は『ザ・カラテ2』を取り上げる。タイトル通り 前回 の『ザ・カラテ』の続編だ。主演も同じく、アメリカから来た謎の空手家・山下タダシ。


 前作で世界空手大会を制した山下だったが、その世界一の座を狙って海外から次々と刺客が来日してくる。上半身裸に赤いターバンを巻いた扮装でいきなり襲いかかるニューギニアのギロチン・ブラザーズに始まり、冒頭から強豪たちが次々と紹介されていく。中でも、最後に登場する怪力男の「ドラキュラ」を演じるのが、『燃えよドラゴン』でも大活躍した香港の名悪役のヤン・スエ。期待は高まる。



1974年(86分)/東映/動画配信サービスにて配信中


 山下の後ろ盾である日本正武館の鈴木正文館長(本人役)が収蔵する国宝の名刀「鬼切丸」を狙う悪党たちとの抗争を軸に、物語は展開する。残酷な殺人空手を使う鬼神流がこれを奪おうとしたことから、山下や刺客たちを巻き込んだ大バトルが繰り広げられることに。


 今回も、必殺技を操る強敵たちを相手に、山下の重厚で豪快な空手アクションが炸裂。野田幸男監督の軽快な演出もあって、序盤から全く飽きることなく突っ走る。


 ただ、その印象は一作目と大きく異なる。前作では山下はセリフがあまりに不安定なため、芝居場の大部分は山城新伍が担っていた。が、今回はそうではない。セリフの量も増え、人情味ある芝居も見せるのだ。決して上手とは言えないが、それでも前作に比べて流暢になっており、確実に成長の跡が見られる。その朴訥とした口跡が格闘家としての武骨さにマッチ。むしろ山城の過剰な喜劇芝居が作為的に見え、こちらの方が浮いているように映っていた。


 作り手側も、そうした山下の変化に気づいたのだろうか。今回は格闘シーン以外にも山下の見せ場が用意されている。それは、彼の命を救った少年との触れ合いだ。


 気弱でイジメに遭う少年を励ますように語りかける際の、優しい口調や微笑み——。こうした芝居からは、ひたすら硬質だった前作とは明らかに異なる柔らかみが感じられ、一人の人間としての温かいチャーミングさに溢れていた。


 これがアクションにも効いてくる。山下は前作の終盤で視力を失ったため聴覚が過敏になっており、そこを敵に突かれて危機に陥ってしまう。それを打破せしめるのは、少年の成長。ドラマチックな展開で、感動的ですらあった。


 もちろん、ヤン・スエとの決闘も豪雨と雷鳴の中での第一ラウンド、鳥取砂丘での第二ラウンドと、二度も最高の舞台で存分に魅せてくれる。


 一作目がキワモノ的な作品なので見過ごされがちだが、実は完成度の高いアクション映画だったりする。


(春日 太一/週刊文春 2025年5月15日号)

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