絵本は児童書でない、という79歳五味太郎さんに栄冠…デビュー半世紀で日本絵本賞大賞

2025年5月15日(木)19時7分 読売新聞

大賞を受賞した「ぼくは ふね」

 「第30回日本絵本賞」(全国学校図書館協議会主催、松岡マジック・ブック・ヘリテージ協賛、読売新聞社、中央公論新社特別協力)の最終選考会が開かれ、最高賞の日本絵本賞大賞は、「ぼくは ふね」(五味太郎作、福音館書店)に決まった。1973年に第1作となる絵本を発表してから、400冊以上を手がけてきた五味さん(79)の集大成とも言える作品だ。

 次点の日本絵本賞(順不同)は「ひとのなみだ」(内田麟太郎文、nakaban絵、童心社)と、「ゆきのこえ」(おーなり由子文、はたこうしろう絵、講談社)が受賞。日本絵本賞翻訳絵本賞には「ねえ、おぼえてる?」(シドニー・スミス作、原田勝訳、偕成社)が選ばれた。

「50年分の気持ちが出たのかな」

 作家は、基本は「一人で家に引きこもってする仕事」だが、受賞作は造本、装丁にも深く携わり、編集者やデザイナーなどといつも以上に対話を重ねた。

 「みんなでもらった賞。チームとしての喜びがある」と笑顔を見せた。

 最初から書くと決めた物語があったわけではない。船や海が好きで、まず心の赴くままに「気楽に海をただよう船」を何枚も描いた。そのうち、「気楽なままで終わらない予感がしてきた。自分にしては珍しく、人生の迷いや挫折を描きたくなった」。意識していなかった自分の中にある物語が、絵を描くうちに出てくる。「それが楽しい。この仕事の醍醐味(だいごみ)」という。

 絵本のケースも自らデザインした。黒一色で表も裏も丸い穴が一つ開き、主人公の「ふね」だけが見える。真っ黒なケースは謎めいて、読者に色々想像してもらえると同時に、「児童書との決別」でもあるという。絵本は児童書ではなく「子供も読める本」との思いで、400以上の作品を手がけてきた。「絵本とは明るく楽しいだけの児童書、という一般の定義から脱したいと思い続けた、50年分の気持ちが出たのかな」。

 夏には80歳になる。年末に向け「理想の展覧会」を準備中だ。作品全体を見て欲しいと、初めて全著書を並べ、新しい図録も作るつもりだ。

 絵本作りは「生活そのもの。一番好きで、楽。悩まない」と言い切る。気分が乗ると、今でも夜明けまで描く。51周年、52周年とこれからもずっと新しいことをやってみたい、描いてみたいという。

◆最終選考委員(敬称略)

 ▽松本猛(絵本・美術評論家、ちひろ美術館常任顧問)▽伊藤たかみ(作家)▽福田美蘭(みらん)(画家)▽佐々木泰(読書推進運動協議会事務局長)▽小林功(全国学校図書館協議会絵本委員会委員長)

ヨミドクター 中学受験サポート 読売新聞購読ボタン 読売新聞

「絵本」をもっと詳しく

「絵本」のニュース

「絵本」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ