『フォーチュンクッキー』『ガール・ウィズ・ニードル』ほか、世界を賑わす珠玉の新作モノクロ映画3選
2025年5月18日(日)17時0分 シネマカフェ
『フォーチュンクッキー』© 2023 Fremont The Movie LLC
モノクロ映画といえば、第91回アカデミー賞で外国語映画賞、監督賞、撮影賞を受賞した『ROMA/ローマ』(2018/アルフォンソ・キュアロン監督)や、「A24」製作の『ライトハウス』(2019/ロバート・エガース監督)、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作『パリ13区』(21/ジャック・オーディアール監督)など、深い味わいを残す話題作の公開が近年相次いでいる。
日本では、第37回東京国際映画祭で3冠を獲得、アジア・フィルム・アワードで監督賞を受賞した『敵』(2023/吉田大八監督)がロングランヒットを記録したことも記憶に新しい。
そこで今回は、5月〜6月に相次ぐ珠玉の新作モノクロ映画3選を紹介。
北欧史上最も物議を醸した連続殺人事件を題材にした『ガール・ウィズ・ニードル』、社会風刺ヒューマン・エンターテインメント『ラ・コシーナ/厨房』、そして米フリーモントを舞台にフォーチュンクッキーから始まる出会いをユーモラスに描いた『フォーチュンクッキー』とモノクロームで綴られた3作品の注目ポイントに迫った。
『ガール・ウィズ・ニードル』5月16日公開
第一次世界大戦後のコペンハーゲンでお針子として働くカロリーネ。彼女は勤め先の工場長と恋に落ちるも、身分違いの関係は実らず、捨てられた挙句に失業してしまう。すでに妊娠していた彼女は、もぐりの養子縁組斡旋所を経営し、望まれない子どもたちの里親探しを支援する女性ダウマと出会う。2人の間には強い絆が生まれていくが…。
北欧史上最も物議を醸した連続殺人事件を題材に、混沌とした社会のなかで貧困から抜け出そうと生きる女性の姿を鮮烈なモノクロームの映像で描いたゴシックミステリー。
スウェーデン出身の新鋭マグヌス・フォン・ホーン監督が手掛け、第77回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されたほか、第97回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされた。
『ラ・コシーナ/厨房』6月13日公開
ニューヨークにある大型レストラン「ザ・グリル」。ある朝、前日の売上金の一部が消えたことが判明し、従業員全員に盗難の疑いがかけられる。さらに新たなトラブルが次々と発生し、料理人やウェイトレスたちのストレスはピークを迎え、厨房はカオスと化し…。
スタッフの多くが移民で構成されたニューヨークの観光客向け大型レストランを舞台に、混沌としたレストランの人間関係を時にユーモラスに、時に痛烈に描いた社会風刺ヒューマン・エンターテインメント。
ラウル・ブリオネス、ルーニー・マーラらが共演、ほぼ全編モノクロのスタイリッシュな映像が高く評価され、第74回ベルリン国際映画祭ではコンペティション部門で上映された。
『フォーチュンクッキー』6月27日公開
カリフォルニア州フリーモントにあるフォーチュンクッキー工場で働く移民のドニヤ。ある日、クッキーのメッセージを書く仕事を任された彼女は、新たな出会いを求めて、その中の1つに自分の電話番号を書いたものをこっそり紛れ込ませる。すると間もなく1人の男性から、会いたいとメッセージが届き…。
フォーチュンクッキーをきっかけに、孤独な女性が新たな一歩を踏み出す姿をオフビートなユーモアを交えて描いた『フォーチュンクッキー』は、ジム・ジャームッシュやアキ・カウリスマキの作品を彷彿させると話題を呼び、第39回インディペンデント・スピリット賞ではジョン・カサヴェテス賞を受賞。映画批評サイトRotten Tomatoesでは批評家たちから98%という高い支持を獲得している。
メガホンをとったババク・ジャラリ監督は、モノクロでの撮影について、「脚本を書いていた当初は、カラー作品を想定していました。昔作ったストーリーボードも最初はカラーでした。でも、撮影の数か月前になって、直感的に『これはモノクロのほうがいい』と感じたんです」と直感で決めたことを語る。
「映画では、タル・ベーラの『ダムネーション/天罰』や、パヴェウ・パヴリコフスキの『イーダ』、そしてジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』などを参考にしました」と言い、「個人的には、特にタル・ベーラのモノクロ映像が昔から大好きなんです。さらに、マイク・ミルズの『カモン カモン』や、レベッカ・ホールの『PASSING -白い黒人-』も観て、現代のモノクロ映画がどのように撮られているかを研究しました。ただ、クラシックなモノクロ映画にはあえて遡らず、あくまでカラーが選択肢として存在する時代に作られたモノクロ作品に焦点を当てました」と明かす。
本作のモノクロ映像は、アフガニスタンからやってきた主人公ドニヤの孤独感を際立たせるとともに、静けさや温かみも感じさせる。そんなこだわり抜かれたモノクロの映像美は、スクリーンでこそ映えそうだ。
『フォーチュンクッキー』は6月27日(金)よりシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイトシネクイント、アップリンク吉祥寺ほか全国にて公開。