テレビ解説者・木村隆志のヨミトキ 第94回 櫻井翔、松本潤、相葉雅紀が夏ドラマで主演そろい踏みへ 嵐ラストツアーに向けてどんな意味があるのか
2025年5月21日(水)11時0分 マイナビニュース
●『×××占拠』『19番目のカルテ』が発表
嵐の櫻井翔、松本潤の夏期主演ドラマが相次いで発表された。それぞれ櫻井は『×××占拠(仮題)』(日本テレビ系、毎週土曜21:00〜)、松本は『19番目のカルテ』(TBS系、毎週日曜21:00〜)で主演を務める。
さらにまだ正式発表こそないものの、相葉雅紀にも「テレビ朝日系水曜21時台の刑事ドラマで主演を務める」という複数の報道があった。少なくとも嵐ファンの間で「3人がそろい踏みか」と話題になっているのは間違いない。
嵐と言えば5月6日に来春のコンサートツアー開催と来年5月31日での活動終了を発表したばかり。この「夏ドラマの主演そろい踏み」にはどんな意味があり、どんな未来につながっていくのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○すでに「国民的タレント」のメンバー
まず2020年末の活動休止以降における各メンバーの主な実績をあげていこう。
櫻井は連ドラの出演数が明らかに増えていた。21年の『ネメシス』(日テレ系)、23年の『大病院占拠』(日テレ系)、24年の『新空港占拠』(日テレ系)、『笑うマトリョーシカ』(TBS系)とこれまで以上のハイペースで出演。これまでのキャスター・MCに加えて、嵐としての活動がなくなった分だけ「俳優・櫻井翔の印象が増している」と言っていいだろう。
次に松本は初のテレ朝主演作となる22年の『となりのチカラ』と、23年の大河ドラマ『どうする家康』(NHK)、21年の映画『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』、24年の舞台『正三角関係』に出演。さらに後輩グループのプロデュースにも関わるなど、最もマイペースな芸能活動をしている。今夏ドラマで挑むのは初の医師役であり、しかも手術シーンがないなど演技力が求められる総合診療医だけに、最もアイドル俳優からの脱皮を図っているのかもしれない。
逆に相葉は21年の『和田家の男たち』(テレ朝系)、23年の『今日からヒットマン』(テレ朝系)の深夜ドラマ、22年のホラー映画『“それ”がいる森』、さらに舞台に連続出演するなど、俳優としては独自路線。MCとしても自らのキャラクターに合うレギュラーや特番への出演が目立ち、活動終了後も他メンバーとの差別化がスムーズだろう。
そして二宮和也は今や最も成功している芸能人と言える充実ぶり。連ドラでは22年の『マイファミリー』(TBS系)、23年の『VIVANT』(TBS系)と『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』(フジ系)、24年の『ブラックペアン2』(TBS系)、25年の『あんぱん』(NHK)。映画では22年の『TANG タング』と『ラーゲリより愛を込めて』、23年の『アナログ』、今夏公開の『8番出口』と主演作が目白押し。
バラエティでもゴールデン帯で『ニノさん』(日テレ系)、『ニノなのに』(TBS系)と2つの冠番組がスタート。配信でもドラマ、バラエティに出演するほか、登録者数489万人のYouTube『よにのちゃんねる』も好調。すでに国民的タレントのような存在となり、活動終了後も“元嵐”というブランドをけん引しそうなムードが漂っている。
●21時台のドラマにハマる知名度
現状、自ら活動休止を選んだ大野智を除く4人は順風満帆そのもの。嵐の活動休止前よりも精力的であり、彼らを起用する側との相思相愛ぶりがうかがえる。だからこそラストツアーの日程調整は難しかったことが推察されるし、逆に言えば連ドラ主演のオファーを受けられるタイミングが今夏にそろったのだろう。
嵐の彼らにとっては活動終了後のソロ活動に弾みをつけるような主演そろい踏みであり、各局の制作サイドにとっても話題性は十分。現在、櫻井(43歳)、相葉(42歳)、二宮(41歳)、松本(41歳)と全員が40代前半であり、連ドラの男性俳優主演としては脂の乗った年齢と言える。特に「21時台の連ドラは22時台よりもコア層(主に13〜49歳)の個人視聴率獲得が難しい」と言われるだけに、幅広い年齢層からの知名度を持つ嵐はトップリストに記載される。
一方、飛ぶ鳥を落とす勢いのSnow ManやSixTONESら若手グループは、固定ファン層からの強烈な支持を得ている一方で、幅広い世代からの知名度や信頼感は発展途上。「21時台のドラマ主演にはまだ早い」「無理にリスクを背負わせる必然性はない」とみられている。二宮と松本は独立し、櫻井、相葉、二宮の3人は結婚して父親となるなど、アイドルとしてのイメージは薄れつつあるが、「若手グループが育つまで先輩の嵐に頼る」ことは制作サイドとして当然の選択なのだろう。
夏ドラマでの主演そろい踏みが終わる9月末、おそらくラストツアーまでの残り期間が半年間を切り、嵐を求める声がより増えていくのではないか。この間、ツアーの詳細が明かされ、チケット争奪戦はもちろん宿泊の予約なども含め、ネットニュースやコメントの数は増えていくはずだ。
○“同志”であり“ライバル”の関係性へ
はたして『NHK紅白歌合戦』を筆頭にテレビ番組への出演はあるのか。「音楽番組だけ」「冠番組の一夜限定復活だけ」などの可能性も含め、ネット上を賑わせるだろう。なかでもツアーチケットが取れなかった人は、少しでも嵐の存在を感じるために「せめてテレビで見たい」という声をあげるのではないか。
一方、嵐の5人はラストツアーや活動終了の発表をファンクラブサイトで行い、「解散」という言葉を避けるなど、とことんファン優先の姿勢を貫いてきた。彼らは「ずっと待っていてくれた人の気持ちに応えたい」という気持ちが強いだけに、ファンを中心に世間の機運が高まればその可能性はまだ残されているのかもしれない。各局のテレビマンにとって腕の見せどころであることは確かだ。
さらに来年春、「嵐の5人がどのようにグループ活動を締めくくるか」も注目されるだろう。ファンに対してはもちろん世間に向けてどんな姿を見せ、どんなメッセージを送り、どんな去り方をするのか。
その意味で夏ドラマでのそろい踏みは、そんな締めくくりの一部になるのかもしれない。単に「ラストツアーに向けたスケジュール的なタイミングの一致」というだけでなく、「もしアイドル・嵐のメンバーとして最後のドラマ主演」だとしたら、活動終了に向けたこれまでとは異なる俳優像を見せてくれるのではないか。
夏ドラマにおける彼らは、嵐というグループのすごさをあらためて証明する“同志”であるとともに、同じクールである以上、互いの存在が“ライバル”ともなるのだろう。また、その「同志でありライバルでもある」は活動終了後の関係性とも言えそうだ。だからこそ、これまで以上に気合いを入れて役作りに励む彼らの奮闘に期待したい。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら