「熱湯風呂を涙流して拒否」局アナの“被害”も多かった昭和セクハラ番組、今のバラエティの向かう先とは
2025年5月28日(水)17時0分 週刊女性PRIME
番組内の『モジモジくん』で全身タイツ姿になった小泉今日子(左)と、今では完全にアウトな言葉責めをされた松嶋菜々子(右)
《10年余り前のことで(略)詳細については、かなり深酒をしてたためか、覚えていないのが正直なところです。(略)同席された女性の方には、不快な思いをさせてしまったことを、大変申し訳なく思っております》
こんな謝罪文を出したのは、とんねるずの石橋貴明。中居正広をめぐるフジテレビ内の問題で、第三者委員会が中居との類似事案を「有力な番組出演者」と名前を伏せて報告。それが石橋だと報じられたことを受けてのコメントだった。
“黄金期”を振り返れば…
10年以上前、フジテレビの女子社員と2人きりになった飲食店の個室で、下半身を露出させたことを今になって暴露された石橋。しかし、とんねるずの“黄金期”を振り返れば「さもありなん」と納得できることも事実だ。
今回、『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系)での小泉今日子に対する過度のボディタッチや、松嶋菜々子に卑猥な言葉を強要させたりという石橋の“黒歴史”も改めて取り上げられ、
《共演者へのいじりが度を越していた》
《今思うと、セクハラがすごかったと思う》
など、SNSでは彼に対しての非難の声があふれた。しかし、こんな世情に対して芸能評論家の宝泉薫氏は、
「当時は“セクハラ”という言葉や概念が生まれる前。言ってしまえば、'60年代にテレビが大衆の娯楽として人気になってきたころから“いじり”ということで当たり前にやってきたことです。
とんねるずの2人はそういった番組を見て育ってきた世代。テレビとはそういう場だと学んできている人たちなんです」
と語り、こう続ける。
「告発する人も“今思えばあれはセクハラだった”という感じで話しますよね。セクハラがどんなものか、というルールができる前のことを、今になって断罪されるのは気の毒になります。ただ平成に放送された『うたばん』でZONEのメンバーの顔について“○○○○(男性器の名称)の先っぽみてぇだな”と言ったのはやりすぎだと思いますが」(宝泉氏、以下同)
パワハラに見えるけどお互いにウィンウィン
よく語られる「あの時代だから放送できた」という番組たち。今でいうセクハラやパワハラが満載だった当時を、宝泉氏と共に振り返ってみると─。
ZONEのメンバー以外にも、『うたばん』では石橋にいじられたアイドルがいる。モーニング娘。の中で標的になったのは保田圭と飯田圭織。安田は“ブス!”と面と向かって言われ、飯田は“ジョンソン”というあだ名をつけられた。
「いまだに“パワハラ”などといわれますが、グループの中で地味だった2人が石橋さんのいじりのおかげで注目を集めたことも事実です。ある意味“ウィンウィン”が成立していたと思います」
確かに、安田や飯田は『うたばん』終了後、久しぶりに石橋と会ったとき「あのことがあるから今がある」と、感謝の言葉を述べていた。
「どこまでが本心かわからないけれど(笑)、年月がたって、恨みを語ることは野暮だし、恥ずかしいという感覚が昔はありましたよね」
遡ると、'89年に放送が始まった『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)では、女子アナいじりが公然と行われていた。当時の局アナで、番組内の『ひょうきんベストテン』でレギュラーだった長野智子は、
「番組の中で後ろから胸をわしづかみにされたり、長いスカートをはいているとその中に芸人さんが入ってきたり」
と、振り返っている。
「番組を盛り上げるため、芸人も必死でしたね。あの番組では彼女たちも“ひょうきんアナ”と呼ばれて、コントの中に入り込んでいました。彼女たちはタレントではなく局の社員。数字を取るために、そのくらいは当たり前、みたいな雰囲気があったと思います。芸人たちなんて、もっと身体を張ったことをしていましたし」(宝泉氏、以下同)
それで思い出されるのが、『スーパージョッキー』(日本テレビ系)での熱湯コマーシャルだ。熱湯に入れた秒数だけ宣伝をできる、という企画。カーテンで囲われた中で女性が水着に生着替えをして挑戦することもあり、昼帯バラエティーでのお色気路線の走りともいえる。
「局アナの大神いずみさんにその役目が回ったとき、彼女は涙を流して断固拒否。放送終了後、拒否したことを会社から“泣くなんて何をしているんだ”と非難されたとか」
局には全国から「水着になるのも仕事だろう」といった抗議が殺到したとか。今とは真逆の反応だった。まさに“あの時代だから”のエピソードだ。
テレビの“エロ”が性教育になっていた『スーパージョッキー』がお色気路線に走ったことは、視聴率が取れる、ということだろう。この番組が放送開始した'83年、深夜帯で『オールナイトフジ』(フジテレビ系)が始まった。女子大生ブームを巻き起こしたこの番組、アダルトビデオの紹介や、風俗店探訪といったコーナーも。
より過激な“エロ”を扱った番組がスタート
その後を追うように翌年、『TV海賊チャンネル』(日本テレビ系)、『ミッドナイトin六本木』(テレビ朝日系)、『夜はエキサイティング』(テレビ東京)といった、より過激な“エロ”を扱った番組を各局がスタートさせた。
「結局、その半年後にはその過激さから郵政省(現・総務省)から深夜番組自粛の要請があり、お色気路線は駆逐されました。賛否はありましたが、僕は“わいせつ”ではない“エロ”は必要なのでは、と思います」
ひと昔前までは昼ドラなどで入浴シーンや濡れ場もあり、女性の胸が出ていることも普通だった。だが今やそういったシーンは、子どもに悪影響を与えるとして地上波ではご法度になっている。
「世の中がきれいごとに傾いていくと、どこかに歪みが出てくると思います。極端な話、子ども時代に女性の裸を見たことがない男性が女性と手もつなげないとか。大人もそうですけど、“見るな”“やるな”ということほど魅力があるじゃないですか(笑)」
昔、PTAから子どもに見せたくない番組、と指定されたドリフのコントを例にして、宝泉氏はこう語る。
「下ネタって、エンタメの基本だと思うんです。ドリフのコントの中で、カトちゃんが“うんこちんちん”と言うだけで昔の小学生は大笑いしていましたよね(笑)。
スカートめくりなんかも、学校でまねするわけですよ。そうすると女子に怒られたり嫌われたり、先生からも怒られながら加減を覚えていく。今はセクハラなんて言ってますけど、実は性教育だったんだと、昭和生まれの人間としては言い続けたいですね」
また、こうした“不適切”な企画だからこそ、タレントたちの素顔が透けて見えるのも面白いという。
「“寝起きドッキリ”なんてその最たるもの。清純派と思われていた子が意外にもだらしない感じだったり、その逆だったり。それまでのイメージとは違う面が出て、これまでオファーがなかった仕事を取れる可能性も出てくるわけです。これって、本人にとってもありがたい話ですよね」
そんな企画を大手を振ってできない今の社会。テレビ番組の生き残る企画とはどんなものなのだろうか。テレビ局が持っている、今ならセクハラでアウト!な過去映像を面白がることだと宝泉氏。
「今、同じことをやろうとしても絶対にできないし、逆に当時はこんなことをやっていたのは面白いよねと、昭和を懐かしむ人たちがいます。一方で、こんなことで笑っていたなんて、どこが面白いの? とカウンターを当ててくる人もいます。
そういったジェネレーションギャップをネタにするなど、昔のことを否定するのではなく、リスペクトしつつエンタメの一つとして昔の映像をそれぞれの立場で楽しむというスタンスをとる。そういう方向でやっていくしかないのかもしれません」
そして、コンプラに縛られ、昔のことを蒸し返してくる人たちにはこんな言葉を。
「時代背景や考え方が当時と今とでは違うじゃないですか。そこに遡って裁くことをやりだすと、次は現在の人が未来の人たちに裁かれることになる。これってすごく無駄なことだと思います」
昔は昔、今は今。その違いを楽しむくらいの余裕がない社会はどれだけ窮屈なのか。フジテレビの清水賢治社長は、局の体質の改善案として脱“楽しくなければテレビじゃない”を宣言した。でも、楽しくなければ、誰もテレビを見なくなるのでは? “オールドメディア”の意地の見せどころは今なのかも─。
<取材・文/蒔田 稔>