「え、安いな、みたいな感じですよ」1億円の打撃マシンを積極的に導入する“福岡ソフトバンクホークス”事業統括本部長が明かす“練習施設”に対する思い

2025年5月30日(金)8時0分 文春オンライン

孫正義から「チームが強くなるためのコストはすべてかけなさい」という大号令が…ソフトバンクホークスが導入、大谷翔平もつかっている“最新鋭打撃マシン”の正体とは 〉から続く


 年俸総額で長らくNPB12球団トップに君臨してきた福岡ソフトバンクホークス。事業統括本部長である太田宏昭氏は1億円の打撃マシン導入を「え、安いな、みたいな感じですよ」と明かす。その心とは……。


 ここではスポーツライターの喜瀬雅則氏による『 ソフトバンクホークス 4軍制プロジェクトの正体 新世代の育成法と組織づくり 』(光文社新書)を抜粋し、福岡ソフトバンクホークス運営の裏側に迫る。(全4回の4回目/ はじめ から読む)



みずほPayPayドーム福岡/写真提供 福岡ソフトバンクホークス


◆◆◆


1億円の打撃マシンは「効率がいい」から「安い」


 最新鋭の打撃マシン「トラジェクトアーク」は、3年間のリース料が1億円といわれている。もちろん、その機能はすごいの一言なのだが、たかだか野球の練習用の器具に「稼いでくる事業側からしたら、高過ぎるのでは、とは思ったりしないんですか?」と、私のスモールな発想から、ついそんな疑問をぶつけてみた。


 太田は、一笑に付した。


「え、安いな、みたいな感じですよ。だって、効率いいじゃんと思いますから。1億円使って、そのマシンを何人も使えるじゃないですか」


 確かに、その通りだ。打撃投手のマンパワーなら、限界もある。実戦に近い練習をするために、現役の投手を使うわけにもいかない。それが、テクノロジーの力で、当日に先発する相手投手のタマを、AIでリアルに再現することができて、しかも機械は“疲れ知らず”でそれこそ、何人だろうが、何時間でも投げ続けてくれる。


 私も「そういうことか」と、つぶやいてしまった。


「そうですよ。人にかけるものって、その人が活躍しないと、ゼロになってしまう。でも、システムはいろんな人が使えるし、それでシステムが成長すればいいわけです。もちろん、額にもよりますがね」


 その発想の中で、4軍制という育成システムに投資して、より良い形に育てていく。発想も、機械も、システムも、どんどん変化していく中で、その革新の波に乗っていく。


「この変化が速いですよね。やっぱり時代が速いんですよ。AIが入ってきて、ものすごく速くなった。我々の営業の仕方も大きく変わっているんです。マーケティングもそう、R&Dもそうですけど、ITを使って、AIを使ってやるのが当たり前になっている。それを僕らが理解してから、ではなく、直接分かる人間がやった方がいい。それはチーム側もそうで、それこそ20代、30代くらいのよく知っているメンバーをど真ん中に置くと、必然的に早く代謝していきます」


 最新機器を活用して、自分自身で成長を促す。


 その環境を利用することができる「主体性」を持つ選手が、自分で伸びていく。その前提で、この「4軍制」という新たな育成プロジェクトはプログラミングされている。


“珠玉の素材”を発掘する仕組み


 多くの人間に、平等なチャンスを与えられる仕組みだからこそ、多くの選手が競い合う中から“珠玉の素材”が発掘される可能性がより高まるのだ。


 ビジネスとして、さらなる拡大の可能性を見出しながら、選手の育成という最優先のミッションを追求していく。2025年3月には、阪神が兵庫・尼崎市に新たな2軍施設となる「ゼロカーボンベースボールパーク」を開業し、これまでの2軍本拠地、西宮市の鳴尾浜では、ウエスタン・リーグの公式戦開催時には徴収していなかった入場料も設定した。


 巨人も東京都稲城市に、ファームの新球場「ジャイアンツタウンスタジアム」を、阪神と同じく、25年3月に開業。2027年には球場に併設する形で、飲食施設や水族館も完成予定で、球場を核とした街の一体開発を進めていくという、新時代のスタジアムビジネスを展開していこうとしている。


「やっと最近になって、他球団もいろいろなことを考えるようになった、ということですよね。阪神さんなんかは、ちょっと怖いですよね。尼崎は周辺人口も多いですし、アクセスも抜群じゃないですか。追い付かれないようにしないといけないですね」


 2019年7月から2025年1月までの5年半、野球事業推進本部の本部長を務めていた大脇満朗が例に出した尼崎市の人口は、2024年3月31日現在で45万7237人。筑後市の9倍近い人口数は、それだけビジネスのポテンシャルが大きいということでもある。


「コストセンター」として、それこそ“お荷物”だと見なされてきた育成を、ビジネス化する動きが、球界全体に芽生えてきた。これをソフトバンクは、それこそ10年前から本腰を入れ、さらに3軍、4軍にまで拡充してきている。


3軍、4軍戦はない方が、恐らく利益はもっと出せるとは思いますよ、普通に考えれば、ですね


 その「フロントランナー」としての気概と誇りを、大脇は強調した。


「筑後の事業として考えれば、3軍、4軍戦はない方が、恐らく利益はもっと出せるとは思いますよ、普通に考えれば、ですね。ただ、もちろん球団を、チームを強くするための戦略としてやっている。最終的な目標は1軍の興行を中心として、もっと売上を取っていく、利益を獲得していくことですし、当然、チームとしても強くなっていくことなんです。だから、もっとやるしかない。やる以上は『2軍で稼ぐ』というところまで含めて、その“絵”を作っていかないと、筑後の事業としては意味がないですよね」


 筑後の一大施設は、選手たちだけでなく、ビジネスの、そして街の“潜在能力”もさらに伸ばしていく「育成の場」でもあるのだ。


(喜瀬 雅則/Webオリジナル(外部転載))

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