『あんぱん』脚本・中園ミホ×アンパンマン声優・戸田恵子「アンパンマン役は今年で37年。やなせ先生が亡くなった時には喪失感でやめようと思ったことも」

2025年5月30日(金)12時29分 婦人公論.jp


アニメ『それいけ!アンパンマン』の声優を務める戸田恵子さん(右)とドラマ『あんぱん』の脚本を手がける中園ミホさん(左)(撮影:清水朝子)

この春スタートしたNHK連続テレビ小説『あんぱん』のモデル、絵本作家のやなせたかしさん。戦争や家族との死別など、多くの困難にあっても絶望せず、個性的なキャラクターを通じて子どもたちに伝えたかったメッセージとは。アニメ声優を務める戸田さん、ドラマの脚本を手がける中園さんが、その人柄について語ります(構成:内山靖子 撮影:清水朝子)

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<前編よりつづく>

アンパンマンが持つ力に圧倒されながら


中園 戸田さんは30年以上もアンパンマンの声を続けていらっしゃる。素晴らしいことです。

戸田 今年で37年になりました。こんなに長く続くとは思ってもいなかったのに、ふと気づいたら私も60代後半に。しかも、毎週月曜日の朝10時にスタジオに集まって、その週のぶんを収録するスタイルは37年間ずっと変わっていません。声優チームのみんなは家族のようで、毎回、楽しく収録しています。

中園 『あんぱん』に芸術学校の先生役で出演していただく山寺宏一さんも、『アンパンマン』の声優チームの一員ですよね。

戸田 はい、犬のチーズ役。俳優や司会者としても活躍する山ちゃんが「ワンワン」しか言わない犬の役なんて、今ではありえませんけど(笑)、アニメがスタートした当時はそれだけみんな若かったということですね。

中園 そこから37年たった今も愛されている。子どもたちにとって、それだけアンパンマンは特別な力を持った存在なんですよ。先日も近所を歩いていたら、2歳くらいの男の子がワーワー泣いていたんです。でも、離れたところで三輪車に乗った女の子がアンパンマンの声の出るオモチャを持っていて、その「アンパンマンのア!」という声を聞いた途端、男の子が泣き止んで、声がしたほうをクルッと振り向いた。まるで魔法だなって。

戸田 保育園や幼稚園には必ずアンパンマンのグッズがありますし、病気で長期入院しているお子さんの病室にもぬいぐるみが置かれている。私に子どもはいませんが、子どもたちにどれだけ影響力があるのだろうと。自分で声をやらせていただきながら、アンパンマンが持つ力の大きさに圧倒されそうになったこともありました。

中園 うちの息子はばいきんまんが大好きで、保育園の頃は毎日ばいきんまんの帽子をかぶって登園し、ほかの帽子はかぶってくれませんでした。ディズニーランドに連れていったときも、ばいきんまんの帽子をかぶったままで(笑)。ある年齢の子どもたちは、アンパンマンのキャラクターと一緒に生きているようなところがあるでしょう。

戸田 同感です。先生が亡くなったとき、それまで自分を守ってくれていた大きな傘を失ったような喪失感に襲われて、『アンパンマン』のお仕事をやめようと思ったこともありました。

でも、東日本大震災以来、毎年被災地でボランティアのイベントを行っているんですけど、アンパンマンが会場に登場すると、「アンパンマーン!」って、子どもたちがいっせいに駆け寄ってくる。その光景を見たときに、「やめちゃいけない」って。

中園 やれるところまで、ぜひやってください。

戸田 正直な話、葛藤はあるんです。キャストもみんな高齢になってきましたし、初代のジャムおじさんやドキンちゃん役の方もすでに亡くなられたので、自分の目の黒いうちに誰かにバトンタッチするか、それとも死ぬまで続けるかって。(笑)

中園 いやいや、ずっと続けてくださいよ。戸田さんの声じゃなかったら、アンパンマンの魔法が消えちゃいますからね。


「ハチキンおのぶ」こと朝田のぶ(今田美桜)と、のちに漫画家となる柳井嵩(北村匠海)が、戦前から戦後の激動の時代を生き抜き、アンパンマンにたどりつくまでを描いた夫婦の物語。NHK連続テレビ小説『あんぱん』月〜土曜午前8:00、再放送午後0:45〜放送中※土曜日は1週間のダイジェスト版(写真提供:NHK)

いくつになっても現役を続ける理由


戸田 中園さんは、以前も『花子とアン』で朝ドラの脚本を書かれて、今回で2回目ですよね。ほかのドラマと比べて朝ドラのお仕事はやっぱり大変ですか?

中園 グチは言いたくないけど、大変です。今回受けたのはやなせさんご夫妻の話だったからですが、本当は二度と書きたくないと思っていたくらい(笑)。書く量がハンパじゃないので、前期高齢者の身にはつらくて。

戸田 毎日15分のお話が何本くらい必要なのでしょう?

中園 半年間の放送で130話。以前、『西郷どん』で大河ドラマも書かせてもらいましたけど、朝ドラのほうがはるかに大変! 大河が1年かけて放送する分量が朝ドラのほぼ半年分なので、脚本も倍のスピードで書かなきゃいけなくて。

戸田 大変ですね。それこそ、寝る間もないくらい?

中園 食事をする時間がないときもあるので、おにぎりをにぎっておくとか。ジムにマメに通う余裕もなく、週に1度、肩凝りをほぐすためにプールに泳ぎに行くのが精一杯。

戸田 定期的にプールに通っていらっしゃるだけでも素晴らしい。私も、スポーツジムはかなりの幽霊会員で、「8ヵ月ぶりですね」なんて言われたり(笑)。それでも行かないよりはマシだろうと、時間のあるときには汗を流すようにしています。

中園 私、本来はものすごく怠け者で、脚本家の仕事を始めた頃は「これを書き終えたらやめよう」と、毎回思っていたんです。それが最近、目の前の脚本を書くために取材をすると、そこからまた新たに書きたいテーマが見つかっちゃって。そんなこんなで常に3本くらい書きたい話を抱えているので、いつまでたってもやめられない。(笑)

戸田 それは私も同じです。若いときは声のお仕事がメインで、初めてドラマに出演したのが40歳。だから新しいドラマや舞台に声をかけていただくと、「やってみたい」と思うの。おかげでぜんぜん休めません。

中園 それって、やなせさんの影響なのかも。90代になっても仕事をしている自分を想像するとちょっと怖いけど(笑)、「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」というやなせさんの言葉を思い出し、いくつになっても頑張らなきゃと思います。

婦人公論.jp

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