【週末映画コラム】唯一無二の女優の生涯を追った『マリリン・モンロー 私の愛しかた』/老女版のミッション・インポッシブル『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』
2025年5月30日(金)8時0分 エンタメOVO
(C)2023-FRENCH CONNECTION FILMS
ドラマや劇映画、ドキュメンタリーなど、今もさまざまな形でその生涯が描かれる女優マリリン・モンロー。この映画の監督イアン・エアーズは、10年以上にわたる調査とインタビューを経て完成させたという。
そんなこの映画では、若い頃に恋人だったトニー・カーティス、バックダンサーとしての撮影現場に参加したジョージ・チャキリス、『紳士は金髪がお好き』(53)で共演したジェーン・ラッセル、俳優のジェリー・ルイスなどマリリンとゆかりのあるスターたちが思い出を語る。
加えて、マリリンの元恋人や幼い頃に預けられていた里親の娘などへの貴重なインタビュー、伝記作家や心理学の専門家による分析などを通して、孤独な少女「ノーマ・ジーン・ベイカー」が、やがて世界的な大スター「マリリン・モンロー」になるまでの歩みをたどり、謎多き死の真相にも新たな見解を示している。
さて、マリリン・モンローといえば、不幸な生い立ちと生涯、希代のセックスシンボル、かわいくて気立てはいいが無知なブロンドグラマーとして語られることが多い。だが実際は歌って踊れて、コメディエンヌとしての才能も超一流の女優であり知性も豊富だった。
また、ジョン・F・ケネディ元大統領と弟のロバートとの関係は有名だが、この映画では、映画『バグジー』(91)でその生涯が描かれた“ラスベガスを作った男”バグジー・シーゲルをはじめとするマフィアとのつながりや、同性の愛人で演技コーチでもあったナターシャ・ライテスの存在を明らかにしているのが興味深く映る。
そんなマリリンのユニークな点は、性的な魅力というよりは、屈託のないセクシーさがあり、純真さを兼ね備えていたところ。だからこそ、男性だけでなく女性からも愛されたのだ。
その一方、マリリンには自分を魅力的に見せるための策略家としての一面があった。彼女の人生は、有名になること、大事にされるための戦略に費やされたといっても過言ではない。それはリスペクトを得るための孤独な戦いでもあった。
マリリンの死には自殺、他殺、事故など さまざまな憶測が流れ、今も真相は解明されていない。この映画ではマフィアによる殺人であったことをほのめかしている。
だがその死と引き換えに、マリリンは36歳から永遠に年を取らない特権を手に入れ伝説となった。そして皮肉なことに彼女が演じた個性的なキャラクターは、死後、一層輝きを増した。それは誰にもまねのできないものだった。
さらに数多く登場した後継者を名乗る者や亜流が、いまだに誰一人として彼女を超えられない事実を考えれば、改めてその存在感の大きさを思い知らされる。マリリン・モンローはまさに“ワン・アンド・オンリー=唯一無二"の女優だったのだ。
若い世代の中には、マリリンを美のロールモデルとして捉えている人たちも多いという。彼らにとってこの映画は、マリリンを深く知るためのよきサポートとなるだろう。
『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(6月6日公開)
夫を亡くし、寂しくも気楽な毎日を送る93歳のテルマ(ジューン・スキッブ)は、ある日、仲良しの孫ダニエル(フレッド・ヘッキンジャー)が事故を起こして刑務所にいるという電話を受ける。テルマは、ダニエルを助けようと1万ドルの保釈金を送金するが、それはオレオレ詐欺だった。
犯人を突き止めて金を取り返すことを決意したテルマは、旧友の老人ベン(リチャード・ラウンドトゥリー)を巻き込んで、電動スクーターに乗って大冒険に出る。
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)でアカデミー助演女優賞にノミネートされたスキッブが93歳にして映画初主演を果たしたコメディードラマ。
オレオレ詐欺に引っかかり、体が思うように動かなくなり、身内の厄介者になっていくのではと悲観したテルマが、TVに映った『ミッション:インポッシブル』のトム・クルーズに後押しされて犯人捜しを決意する。だが老人にとっては日常のささいな動きが、実行不可能にも思える。だから文字通り“老女版のミッション・インポッシブル”が展開するというわけだ。スキッブの余裕の演技と体を張ったアクションが素晴らしい。
また、スキッブに加えて、『黒いジャガー』(71)のリチャード・ラウンドトゥリーと『時計じかけのオレンジ』(71)のマルコム・マクダウェルも登場する。この老人パワーさく裂の共演も見どころだが、残念ながらこの映画がラウンドトゥリーの遺作となった。
日本でも90歳を超えた草笛光子主演の『アンジーのBARで逢いましょう』(25)が製作されたように、高齢化社会を反映したようなこうした映画が作られるのも必然なのだろう。
この映画は、長編デビューとなったジョシュ・マーゴリン監督が、自身の祖母との実体験を基に脚本を書いている。従って、祖母思いだが、社会生活に適応できずに悩む孫のダニエルは監督自身の姿を投影したもの。孫から見たおばあちゃんという視点がユニークで心が温まる。エンドロールの最後に「スペシャル・サンクス・トム・クルーズ」と出るのもほほ笑ましい。
(田中雄二)